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音楽の今とこれから。「群馬の音楽シーンの現在と未来」トークセッション


市川:湯けむりフォーラム「群馬の音楽シーンの現在と未来」。今日はエンターテインメントの音楽の世界を中心に、Withコロナの中でも「良い音楽」が残り続けるような社会にするにはどうするべきか、3人のミュージシャンの皆さんにそのヒントを伺っていきます。まずはそれぞれ、コロナウイルスの感染拡大によって活動に変化はありましたか?

オンライン化で増える、アーティストの「横のつながり」

mabanua:ライブはいくつも中止になっちゃいましたが、僕はもともと作曲の割合が大きいので、他の方に比べると影響は少なめだと思います。ただこの状況が続くと、僕に仕事を依頼してくださる方も含めて厳しいかもしれない、という予兆はあります。ライブを中心に活動してるバンド、サポートミュージシャン、制作スタッフなど、いろんな職業の立場に応じて影響が変わりつつありますね。

TOSHI-LOW:音楽なんか、いつやれなくなるのか分かんないし。それはコロナとか関係なく死生観の問題で、できなくなるんだったら、ただそれまでのものってだけで。どんな状況でもクリエイティブな人たちはやり続けるしかないから、状況が悪くなればなるほど腕の見せどころというか。自分たちがミュージシャンとして世に出てきたときみたいに、何やってやろうかなと思うよね。

あとは……リモート飲みとかも結構やったりして、横の繋がりが多くなって良い時代だなと思った。俺らが若いときはもうちょっとバチバチで、横同士で仲良くしたら負けみたいな感じがあった。そうだよね?

DÉ DÉ MOUSE:そうですね(笑) 以前は「絶対にこことは仲良くしない」とか、「楽屋に先に挨拶行ったら負け」みたいな雰囲気がありましたね。出番の5分前に来て、終わったらすぐ帰る人もいたし。たぶん、みんな人見知りなんですよね。

でも今はすごく平和になったし、イベントに行くときにケンカの危険性を感じなくていいのは楽しいですね(笑) ケンカするより仲良くしたほうが情報も活かせますし。

市川:mabanuaさんは事前アンケートで「活動の主体がオンラインになった」と書いてくださいましたね。

mabanua:今まではミーティングするためだけに東京に行ったし、レコーディングするときも隣のスタジオに行かなくちゃいけなかった。でも今となっては自宅で録音できないと効率が悪いし、ミーティングするにしても一旦必ず「オンラインでできないか」と考えますよね。もともと、コロナが拡がる前から僕はそうしたいと考えていたので、業界全体がいい方向にシフトしてくれたと思っています。

自分が20代後半に群馬に移り住んだのは、当初はただ「都会から離れてやってみたい」というだけの話だったんですけど、この状況になってからはより「やっててよかったな」と思えるようになりましたね。

Withコロナの逆境から希望を見出す

市川:ピーク時は自粛や中止などを余儀なくされたと思いますが、Withコロナの時代になり、徐々に活動を再開される方が増えてきました。ライブ配信が多くなる中、DÉ DÉ MOUSEさんは「屋外でのゲリラDJ配信でのノウハウがここにきて活かせた」とのことですが。

DÉ DÉ MOUSE:フランスの「Cercle」という世界遺産でDJやるみたいなYouTube配信があるんですけど、これを日本でやりたいねとスタッフに話していて。ただ僕がそのままやっても面白くないから、街角とか河川敷とかでプレイしようとなったんです。それでバッテリーとかテントを車に詰め込んで、多摩川の河川敷でDJを撮ってそのまま配信……みたいなことを2018年くらいからやっていました。

だから、どういうカメラアングルにしたらかっこよく見えるのかとか、どういうアクションをしたら画面越しに見ているみんなに伝わるかとかの「演出」の部分がうまくやれたのかなと思っています。

TOSHI-LOW:そういえば、DÉ DÉが以前なにかのメディアで、「今は寄り添った音楽を作りたい」と言ったのを見たんだけど、すげえ良いこと言うなと思って。

DÉ DÉ MOUSE:え!めちゃめちゃ嬉しいです。言いました。それをTOSHI-LOWさんが見てそれを覚えてくれてたことに今すごく感動しています(笑)

TOSI-LOW:コロナ禍でみんなが暗いことを考えている中で、どっちかといえば尖っているように見えるDÉ DÉが、寄り添った音楽を作りたいと言う。そういう出逢いがあったことは、オンライン的でよかったね。

市川:TOSHI-LOWさんといえば、9月に水上でNew(Lifestyle)Acoustic Camp 2020が開催されましたが、無事に開催できたことはTOSHI-LOWさんにとっても大きいことでしたか。

TOSHI-LOW:人前で歌うのが久しぶりの出演者もいっぱいいたんだけど、みんな出し惜しみなくやってくれて。そうやって全力でやることは、お客さんっていうよりも自分たちが切望していることをすごく感じたよね。だから歌ったあとも気持ちよさそうで。現場が持ってる力を再確認した。もちろんオンラインの新しい可能性ってのもあるけど、やっぱり「生身の相手がいる現場をどうやって作っていくか」を考えることって力を持っているんだなと思う。

TOSHI-LOW:逆境に立ち向かうとき、その不安の中に、希望とか新しいものが絶対入っているから。例えば音楽だって、自分の中でハッと気づいた「これ誰もやってねぇな、でもやってみたらダサいって言われるかもしれない」というところに、たぶん面白いものは詰まってる。それは、さっきのDÉ DÉの話にもあった野外でDJやることと同じ発想で。

市川:そしてmabanuaさんは、origami PRODUCTIONSに所属しているアーティストさんの様々なトラックやボーカル・アカペラのデータを自由に使える形で提供する「origami Home Sessions」を始められました。

mabanua:下の世代の、例えばラッパーとかシンガーの子たちは、オケとかトラックがないとリリースができない。でも自分で作るにはまだ技術がないし、今は人にも会えないからどうしていいかわからない……という声がありました。そこでアーティストが素材を提供してあげて、そこにみんなが歌やラップを乗せてリリースして、収益は自分のものにしていいよというものを始めたんです。実際その額としては本当に微々たるものだと思いますけど、そういうバイブスを作り出すことが最も重要で。

mabanua:また、周りのミュージシャンたちがライブ配信をやるとき、「有料ライブですが関係者向けの無料のリンクも用意しました」ってメールが来るんですけど、僕はそれは使わずに普通にお金を払って見るようにしています。まあ、僕が払うか払わないかなんて全体からすると微々たる差なんですけど。

自分の外側にある音楽と出会うこと

市川:コロナやほかの感染症などを意識することが避けられない世界になりそうですが、今度の活動に対してどんな考えをお持ちなのかを伺いたいと思います。

DÉ DÉ MOUSE:やっぱりライブとかイベントって楽しいじゃないですか。いろんな人に会って、お酒を飲んで。でもそれ以上に、現場でどんな音楽がかかっていて、みんながどんな反応をしているのかがダイレクトに分かることが僕にとっては重要で。そういう外的な刺激が少なくなって寂しいので、配信なのかリアルイベントなのかは分からないけど、音楽を肌で感じられる場を作りたい気持ちはありますね。

DÉ DÉ MOUSE:僕は、イベントに行ったり飲食店で流れているBGMを聴いたりすることが、作るもののヒントになることも多くて。でも今は外に出る頻度がすごく減ったので、ぜんぶ自分で能動的に覗きにいかないと、なかなか情報が得られない状況がありますね。

市川:お店やイベントで聞いた音楽が、制作のヒントになることがあるんですね。mabanuaさんはどうですか。

mabanua:友達から「いい曲あるから聞いてみなよ」と勧められるのももちろん嬉しいんですけど、自分が意図してないときに聞いた刺激的な音楽って、すごい記憶に残るんですよね。そして、自分だけのものみたいな感じになるじゃないですか。「しまむらで聞いたあの音楽は俺の物」みたいな(笑)

市川:TOSHI-LOWさんは、どんなふうに音楽を発見していますか。

TOSHI-LOW:何かを検索すると関連するコンテンツがいっぱい出てくるから、全然知らなかった70年代のアメリカのバンドとかを聴いたりしてて。それらはただ古臭いわけではないし、今流行ってるものとの相違点も見えてきて面白いね。あと、ウチの子どもが何か聴いてるな、と思ったらmabanuaの「everything」だったな。

mabanua:えっ、本当ですか?よろしくお伝えください(笑)

TOSHI-LOW:mabanuaが10年前にやってたことが今、きっと時代性を持ったんだよね。狙ってたわけじゃないと思うけど。音楽に正しさなんてないけど、こうやって時代の流れの中で音楽を見ていくと、好きなことをして、狙わずに、自分の中にある正しさを拾う人たちが結局残ってるんだと思う。それはコロナがあっても変わらない気がするんだよね。

アーティスト・クリエイターを目指す若者へ

市川:最後に、みなさんからメッセージをいただきたいと思います。アーティストやクリエイターを目指す若者、地方で制作をしたいと考えている方々に対して、この職業のやりがいや喜び、楽しさを教えてください。

mabanua:アーティストになりたいかどうか、なるにはどうしたらいいかは人それぞれ違うので、自分がどうするべきかは常に考えておくことが必要だと思います。誰かに相談するのも大事ですけど、「自分はどう生きたいか」「本当に音楽をやりたいのか」っていうのは、常に自分ひとりでも考え続ける必要があると思うんですよ。

僕自身も、車に鍵を差すときだって「あの作りかけの曲どうしようかな」とかいろいろ考えながら動作していて、よく「全然人の話聞いてないね」って言われるんですけど(笑) でも、それくらい自分で常に考え続けるということは、今勧めたいことですね。

DÉ DÉ MOUSE:話を聞いてないと言われるのは、僕もよくあります(笑) もともと僕はそんなに集中力がなくて、ひとつのことに集中できないタイプなんです。だけど音楽のことを考え始めると、頭がスッと支配されてしまう。それで考え続けていると、家事や買い物ですらも結構ストレスになってしまうんです。それくらいずっと「音楽だけと向き合ってたい」と昔からずっと思っていました。

でも、理想のアーティスト像、クリエイター像はみんな違うと思います。自分の好きなものを追い続けるのか、それともみんなが好きなものを作ろうとするのか……。そういうことをひとつずつ実験しながら、等身大の今の自分を、かっこつけずに出していくことが良いんじゃないでしょうか。

TOSHI-LOW:どれだけ苦労したとしても、時間やお金を費やしたとしても、クリエイターとして食べていけなかったとしても、それでも好きだと感じるものを見つけられた奴は、幸せなんだと思うよ。結果が出て成功するかどうかって、他人の評価が絡んでくるものじゃん。何かひとつ、のめり込んじゃうほど好きなものが見つかったら、もう人生半分勝ちだよ。半分勝ったら人生は勝ち越し。

あと、音楽に主張があると嫌がられる社会だけど、音楽がもう一度主張性をしっかり持ってもいいんじゃないかと思ってる。流行とはまた別だけれど、俺たちはせっかくこの閉鎖的な時代を過ごさせてもらってるんだから、これをみんながどう汲み取って表現するかを見てみたいね。

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