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デジタル技術で、群馬に変革を。河野太郎大臣 基調講演
皆さんこんにちは。河野太郎です。今日は草津にお伺いするのを本当に楽しみにしておりましたが、急きょ夕方から臨時閣議が入り、残念ながらオンラインということになってしまいました。みなさんに直接お会いして、いろいろなお話をさせていただきたいところでしたので、本当に残念です。
山本一太知事とは、アメリカ・ワシントンのジョージタウン大学で、私が学部生の時に大学院に来られたときから、40年以上のお付き合いになります。一太さんの、障害物があろうがなかろうが一直線で直角に降りていく、エネルギーに満ち溢れたスタイルが大好きです。
温もりのあるあたたかい社会に向けて
今日は、日本のデジタル化の話をさせていただきます。私が当初「デジタル化」と申し上げた時に、何人かの方から異口同音に同じリアクションがありました。チャーリー・チャップリンという俳優が作った『モダンタイムス』という映画の中で、チャップリンが歯車に挟まれて押し出されていく有名なシーンがあるんですが、「デジタル化」と聞いて最初に頭に浮かんだのがそのシーンだった、とのことでした。それを聞いて私はちょっと心配になりました。デジタル化という言葉が、機械が押し寄せてくるとか、非人間的なイメージになってしまうのではないかと。それを避けるため、まずは「何のためにデジタル化をするのか」というゴールを皆さんと共有をしなければならないと思いました。
今、日本はかなり急速に人口が減っております。毎年50万人以上人口が減っている。これは毎年鳥取県がひとつなくなってしまうくらいのスピードです。しかもこれは総人口の話であり、現役世代の人口はそれよりもかなり早いペースで減っています。人口が減りながら社会全体の高齢化が進んでいる、というのが今の日本の社会です。
このような状況の中で、高齢の方や次世代を背負っていく子どもたちにしっかり寄り添っていこうとすると、今までと同じことをやるのでは行き詰まってしまう。だからこそ、これからの日本の社会の中で、人が人に寄り添う、温もりのある社会を作っていこうとしたら、人間がやらなくてもよいことはロボット・AI・コンピューターに任せ、人間は人間がやらなければいけないものに集中する必要があります。デジタル化というのは、あたたかい社会を作るための手段の一つなのです。ですから、デジタル化が目指すゴールとは、人が人に寄り添える優しい社会であるということ。そのご理解をいただき、みなさまと一緒に進んでいきたいと思っています。
子どもたちに最適な教育をオンラインで届ける
一つ例を挙げさせていただきます。昨年、菅内閣で規制改革担当大臣を務めた際に、当時の文科大臣であった萩生田さんと一緒に、オンライン教育の規制改革を行いました。それまでは、オンライン教育を行いたいのか、行いたくないのか、わからないような複雑な規制が存在していましたが、それらを全て廃止し、子供たちの安全が担保されている限り、どんな形でのオンライン教育でも許容することにしました。この結果、数学が得意な中学生は中学校のうちに高校の数学まで学ぶことができるようになり、つまずいた子は小学校の算数から始めて、しっかり理解した上で仲間を追いかけて勉強することができるようになりました。また、やる気があれば、全国どこでも教え方が上手な先生の授業をオンラインで受けることができるようになりました。
こうした取り組みが進めば、担任の先生は授業を行う必要がなくなります。授業を行う必要がなくなるということは、授業の準備時間も不要になります。そうすると、担任の先生は、今まで以上に自分が受け持っている子どもたちにより多くの時間を使うことができるようになります。”子どもたちに時間を使う”とは、たとえば、子どもたちが何か悩みを抱えていると感じた時に、早めに気づくことです。そして、その悩みがどんな悩みなのかを解き明かすことです。たとえば、授業が理解できないこと、いじめに遭っていること、友達との人間関係で悩んでいること、恋愛や家庭の問題を抱えていることなど。一人ひとりに合わせたきめ細やかなサポートをすることや、子どもたちが将来やりたいことや夢を持った場合に、その夢を実現するために今何をしたらよいかアドバイスをすることもそれに当たるでしょう。
先生という職業は、これまでは「教える」ということが主な仕事だったかもしれません。しかしこれからは、デジタル技術を使って、単に教えるだけではなく、子どもたちに寄り添いながら、ティーチングからコーチングへと変化していく必要があると思います。
また、オンライン教育だけでなく、コロナの特例であったオンライン診療を平時にも使えるようにするという規制改革も行われました。その改革を進めている時に、ある一人の漁師さんからご連絡をいただきました。「人間のオンライン診療ができるんだったら、魚もオンライン診療できるようにしてくれ」と。聞いてみると、養殖の魚の病気を見ることができる獣医さんは、非常に数が限られているそうです。その数少ない獣医さんが全国をまわっているので、オンラインで魚の診療ができるようになったらもっと便利になるんだ、そう言われたものですから、なるほどそうなのか、そう思って農林水産省に魚のオンライン診療も検討してくれと要望しました。それからしばらくして返答がきたのですが、「わかりました、魚のオンライン診療を認めます。ただし初診は対面で行ってください。再診からオンラインでも構いません。」こんな返事がきたんですよね。
ですから私が、「農林水産省の担当者は、いけすの中を泳いでいる魚たちを見て、この魚は初診、この魚は再診だからオンラインでいいと判断できるんですか。もし本当にそれができるなら、その規制でも構いません。私の目の前でやってみせてください」と言ったら、またしばらくして「初診からオンラインでも構いません」という返事が来ました。最初からそう言ってくれれば良かったのにと思いました。
デジタル化とマイナンバーで「地方の公共」を変える
過疎化が進んでいる地域は増加しており、このような地域では路線バスのような公共交通機関を維持することが難しくなっています。しかし、高齢の方が免許を返納すると、地域での移動が難しくなり、病院に行くにも子供や孫に会社を休んでもらって送り迎えをしてもらう必要が出てきます。このような問題に対して、日本の多くの地域で、自動運転のバスを利用する試みが行われています。自動運転であれば、人件費をかけることなくバスを運行することができ、路線バスの維持が可能となります。また、人口が増加している時は、公共交通機関は供給に需要を合わせるというサービスを提供してきましたが、人口が減少すると、需要に対して供給を合わせる必要があります。つまり、バスに乗りたい人が「ここにいますよ」と言ったところへバスが迎えに来て目的地に連れていくということ。こういったことを実現するのも、デジタル技術です。
デジタル技術を多くの人に使ってもらうための入場券、あるいはパスポートとして、マイナンバーカードが役立ちます。マイナンバーカードには、医療情報や税金年金の情報は一切入っておらず、お名前、住所、生年月日、性別、そして顔写真が載っています。マイナンバーカードを取得した場合、個人情報が漏れる心配はありません。また、実はマイナンバーカードは他人に見せても問題ありません。たとえカードを落としても、暗証番号を知られない限り、単体では何もできません。現在、マイナンバーカードをお渡しする際には、マイナンバーを目隠しするビニール袋に入れていますが、近々、正式に廃止する予定です。
群馬県では、マイナンバーカードを活用した福祉タクシーや、マイナンバーカードを使うと路線バスで高齢者割引が自動で適用されるシステムが導入されており、前橋市では福祉タクシーを利用している人の9割以上がマイナンバーカードを使って活用しているとのことです。山本一太知事も群馬県のデジタル化に力を入れており、マイナンバーカードとデジタル技術の駆使により、群馬県が日本でも最先端の地域になると期待しています。
もう一つ例を挙げると、つい先日、宮城県でマイナンバーカードを使った避難訓練を行いました。これまでは、避難所に着いたら紙に住所と名前を書いて、「ここの避難所に来ました」と登録してもらっていましたが、マイナンバーカードと連動したアプリで避難所に登録してもらったところ、たった2分間で100人の登録が終わりました。手書きで紙に書くのとは全く違うスピードでした。また、そのアプリに私は卵アレルギーであるとか、高血圧の薬を毎日飲んでいるなどの情報を登録しておくと、この避難所には誰がいて、卵アレルギーの人が何人いて、高血圧の薬を毎日飲まなければいけない人が何人いるか、赤ちゃん用の粉ミルクが何人分必要かということが自治体の災害対策本部に一瞬でデータとして送ることができます。そうすると、避難所に物資を送る際に、適切な対応ができるようになるわけですね。
これから、マイナンバーカードを利用した様々なサービスが展開されることになるでしょう。民間企業もこのカードを使ったサービス提供に向けて準備を進めています。マイナンバーカードを鍵として、デジタルサービスが広がり、日本社会はどんどん進化していきます。
群馬県では山本一太知事を先頭に、日本のデジタル化最先端をリードし、快適で住みやすい社会を実現することを目指しています。また、4月末にはG7のデジタル大臣会合を群馬県で開催することが決定しました。これも山本一太知事の強い働きかけによるものです。皆さんにもご協力をお願いしたいと思います。この会合を通じて、群馬県の観光資源の情報発信もできると期待しています。皆さんと共に明るい日本のデジタル社会を実現していきたいと思います。ありがとうございました。
登壇者
河野 太郎 衆議院議員(神奈川県第15区)/デジタル大臣/国家公務員制度担当大臣/内閣府特命担当大臣(デジタル改革、消費者及び食品安全)
1963年神奈川県生まれ。1985年米国ジョージタウン大学卒業。1996年衆議院議員初当選(当選9回)。外務大臣、防衛大臣等を経て、2022年8月より現職。