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【REPORT】持続可能な地域をつくる未来共創ワークショップ

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群馬県が新たに掲げたビジョン(=将来像)。
みなさんはご存知でしょうか?

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群馬から世界に発信する「ニューノーマル」
〜誰一人取り残さない自立分散型社会の実現に向けて〜
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「新・群馬県総合計画」は、20年後の目指す姿としてこのようなビジョンを描きました。

実行期間は2021年から2040年。この20年間でビジョンをしっかり実現するために設定した「7つの政策の柱」の中にある『6 官民共創コミュニティの育成』。これに早速アクションした事業「持続可能な地域をつくる未来共創ワークショップ」のレポートが、今回の記事のテーマです。

<ビジョン実現に向けた7つの政策の柱 by 新・群馬県総合計画(2021)>
1 行政と教育のデジタルトランスフォーメーションの推進
2 災害レジリエンスNo.1の実現
3 医療提供体制の強化
4 県民総活躍社会の実現
5 地域経済循環の形成
6 官民共創コミュニティの育成
7 教育イノベーションの推進と「始動人」の活躍

Contens

本編

群馬県は「官民共創コミュニティの育成」に注力しています。
「持続可能な地域をつくる未来共創ワークショップ」とは
地域コミュニティにもたらすものとは(参加者インタビュー)
 桐生みどりエリア 加藤 浩子さん
 利根沼田エリア  六本木 ユウジさん
 甘楽富岡エリア  富岡市企画課 斎藤 広 係長

番外編

共創が群馬の求心力になるー実際の共創トークー
「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ」略して「キャベチュー」
共創は群馬のエネルギーになる
場から学ぶ「視察の可能性」

群馬県は「官民共創コミュニティの育成」に注力しています。

「官民共創コミュニティの育成」には、官(=県や市町村などの行政)も民(=地域住民や企業等)も、立場を越えて共にテーブルを囲み、地域の想いや実情に寄り添いながら、地域の課題解決に取り組むことが大切だと群馬県は考えています。 そんな関係を紡いでいくことを目指し、2021年10月より「持続可能な地域をつくる未来共創ワークショップ」と題した、地域の未来について語り合う取組が始まりました。

「持続可能な地域をつくる未来共創ワークショップ」とは

「持続可能な地域をつくる未来共創ワークショップ」とは、全5回の県や市町村職員向けのファシリテーター養成研修と、全3回の地域別ワークショップの開催を通し、県と市町村、地域住民と行政職員など多様な立場の参加者が共にテーブルを囲み、ありたい未来を描くプログラムです。

<2021年度 地域別ワークショップ 実施エリア>
●甘楽富岡エリア

(富岡市・下仁田町・南牧村・甘楽町)
●利根沼田エリア

(沼田市・片品村・川場村・昭和村・みなかみ町)
●桐生みどりエリア

(桐生市・みどり市)

地域別ワークショップで話し合うテーマは、各市町村の持ち寄ったリアルな課題。関係する地域のプレイヤーや市町村の担当職員、一般公募に応募した人たちなど、エリアごとに40~50名ほどの参加者が集まりました。地域別ワークショップの第1回では、SDGs(エス・ディー・ジーズ、持続可能な開発目標)のカードゲームを通じて、対話と協働の重要性について学びました。

第2回は『地域の課題を洗い出す』と題し、テーマごとに5-6名ほどに分かれ、班ごとに設定されたテーマについての現状を洗い出し、課題の構造を描きました。その上で、どこに焦点を絞り、取り組むべきかという「問い」を立てるワークを行いました。

最終回となる第3回は『欲しい未来を描く』。それぞれの「問い」に答えを出していく「アイデア出し」。たくさん出されたアイデアを「未来の種」というかたちで1テーマ3~5つにまとめ、全体で共有を行い、終了となりました。

このワークショップでは、各テーブルに話し合いをサポートする行政職員(=ファシリテーター)を配置。この行政職員は、継続的に地域を支援できる体制づくりにつながればと「対話の場づくりについてのスキルと知識の習得」にも取り組みました。実際、多様な参加者の声を引き出したり、話し合いを進めていったりという場面でファシリテーターが活躍し、その成果として、地域別のワークショップを終えるとたくさんのアイデアや声が生まれていました。

対話が地域コミュニティにもたらすものとは

桐生みどりエリア
テーマ「コロナ禍での子どもの居場所づくりのあり方」 
加藤 浩子さん

加藤さん(写真中央)

男性も女性も、20代から50代まで、幅広い世代が参加したワークショップ。その中でも桐生みどりエリアでのワークショップに参加された加藤さんは、新生児と一緒に参加!チームのみんなで代わる代わる抱っこをしながら、ひときわ熱くテーマについて議論している様子から、集まったメンバーの想いの強さを感じました。

「桐生の私立高校で家庭科の教員をしています。授業の中で地域づくりやSDGsにも触れることが多いので、“SDGsについてもっと学んでみたい”という割とラフな気持ちでこのワークショップに参加しました。

ところが3日間に渡るワークショップやブレストでは、自分でも認識しきれていなかった心の声が言語化されたり、同じグループにいる行政やNPOの方とも立場を超えてモヤモヤを共有・共感できたりと熱意が生まれる瞬間の連続。私自身も日々の経験をもとに「母のためのコミュニティスペースが欲しいな」「カフェインレスコーヒーやハーブティーがフリーで飲める場所があったらいいな」といったアイデアの種をたくさん見つけることができました。

実は、1回目と2回目のワークショップの間に2人目の子どもを出産したんです。第2回に参加した頃なんて、まだ出産して1ヶ月程度。産後うつのような感覚があり、正直しんどい状態だったのですが、ちょっぴり勇気を出して生まれたばかりの赤ちゃんを会場に連れて来てみたら、みなさんから祝福してもらい、あたたかく受け入れていただきました。心で繋がっていることを感じられたのがなんだか嬉しくって、しばらく溜め込んでいた不安やストレスも吹き飛びました。

これからの生活でも、例えば児童館や子育て支援センターを利用するときに自らの声を主体的に伝えるなど改めてできることを整理してアクションに繋げてみたいです」

利根沼田エリア
テーマ「地域の資源を活かした住み続けたい村づくり~移住・定住・定着のために~」
六本木 ユウジさん

六本木さん(写真中央の話者)

消滅可能性都市とも危惧されている片品村。他の市町村は絞ったテーマが多かった中、まちのサイズ感と存続への危機意識から、村全体を広い視野で捉えるテーマ設定を行いました。参加者も9名とどの班よりも多く、対話がうまくいくかという心配もありましたが、終始和やかな雰囲気でじっくりと話し合う姿が印象的でした。

「地域の誰かが頑張っていて、それを誰かが応援している。今までだったらこれでよかった。でもコロナ禍を経て、そういう時代ではなくなったと強く感じている中で今回のワークショップに参加しました。

私が参加したグループのテーマは「地域資源を生かした住み続けたい村」でした。今回ワークショップが行われているエリアは消滅可能性都市を大きく含んでいるエリア。県の中山間地域では生産年齢人口も出生数も激減中。学校など色々な物事が統廃合・縮小されていく中で、10年後を目掛けるだけでなく、今できることも同時に進めなければいけないのではないでしょうか。「観光」という枠の中に収まっている場合ではないと思いますし、「できる・できない」で足踏みしている場合ではありません。

当日は、すでに地域で実践する人も含む9人のメンバーで話し合いました。3日間のワークを終えて提案したのは「尾瀬の郷倶楽部(仮)」というクラブ活動のようなアイデア。プラットフォームを作ることで、地域課題の解決に向けた入口をいかにフラットにしていけるか、ポジティブに捉えられるかというところを意識した提案です。 私は2005年にフランスから帰国し、現在は利根沼田エリアで家業のホテル業に従事しながら地域活動にも積極的に関わっています。そんな中でも、これまで出会ったことのない地域の官民のプレイヤーたちと濃いコミュニケーションをとることができ、刺激も受けました。今後は、私たちの提案が提案で終わらないように、協議・対話の場を継続して持っていくことができればと思います」

甘楽富岡エリア
テーマ「移住の促進~受け入れ体制(移住者コミュニティー等)~」
富岡市企画課 斉藤 広 係長

斉藤係長(写真中央の話者)

「持続可能な地域をつくる未来共創ワークショップ」では、地域別ワークショップの前後にファシリテーターとなる行政職員向けの研修を行いました。富岡市役所からは企画課の3名がファシリテーターを務めました。

「“ファシリテーション”って、なんだか、すごいイメージがありませんか?

富岡市では従来から、観光・福祉・農業などの分野で住民との座談会を開いています。特に若手の職員なら、市民とテーブルを囲む機会は多少なりともありますが、私自身は、もともと担当してきた業務が、地域に出ていくような仕事よりも、財務や企画など、市役所の中での仕事が多かったということもあって。私はその“すごい”イメージからして、研修に参加する前から「自分にそんな役が務まるのかな・・・?」と、少し不安を感じていました。

そんな私ですが、ファシリテーターの研修を受けた上で、甘楽富岡エリアのワークショップに参加。3日間に及ぶグループの話し合いで、畏れ多くも進行役を務めました。

グループのテーマは「移住の促進」。「移住定住者を集めるだけでいいのか? その後のコミュニティも含めることが大切な気もするなあ・・・」と、ファシリテーターの重圧もあり色々考えてしまいましたが(笑)、心を開いて多様な声を聴きながら、3回のワークショップを過ごすことにしました。

富岡のいいところってなんだろう?という話の中で「富岡製糸場と妙義山しかない」と私が口を滑らせてしまったところ、「2つも魅力があるならむしろすごい」「市役所の職員がそんなことを言ったらダメですよ!」と、実際に富岡市へ移住してきた2名のメンバーがすぐさま声をあげてくれて。これは今もよく覚えていますね。小さいことでも、探せばいっぱいいいところがあるんだろうなあと、このとき改心しました。

地域の人たちとの対話から、いいアイデアが生まれたり、新たな発見があったり、思いを共有して楽しい気持ちになれたり。刺激や学びがたくさんありました。これまで以上に、些細な情報や雑談する時間の大切さも感じましたね」

総勢143人が参加した「未来共創ワークショップ」。地域ごとに課題感を持っている中で、各エリアの官民の参加者同士が話し合い、多くのアイデアが生まれました。また、参加者からは「これをアイデアだけで終わらせるのはもったいない」「やれるところから進み出していこう」という声も聞かれ、すでにアクションにつながり始めているケースもでてきました。

今年度生まれた「未来の種」は、次年度以降の実現につながるよう、群馬県も動き始めています。来年度は、この「未来共創ワークショップ」も、新たなエリアで引き続き開催していく予定です。

【番外編】共創が群馬の求心力になる
ー 実際の共創トーク ー

久保:2008年からずっと続けていることがあります。それは・・・

小菅:キャベチューです!

ー プロフィール ー
久保 宗之さん(写真右)
嬬恋村役場未来創造課。日本愛妻家協会事務局。「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ」の実現や運営、そして嬬恋村の発展のために日々走り続けている。

小菅 隆太さん(写真左)
「社会の課題に、市民の創造力を。」をテーマに活動するソーシャルデザインチームissue+design 所属。群馬県嬬恋村観光大使、日本愛妻家協会事務局長代理など、多彩な顔を持つ。
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「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ」略して「キャベチュー」

小菅:思いを人前で叫ぶだけでも恥ずかしいのに、わざわざ人前で妻に愛を伝えるというイベントなんです。しかも、舞台は愛妻の丘(笑)。15年も続いているんですね・・・!
一見すごくふざけた名前ですが、実はこの企画、嬬恋村と私たちのような民間との「共創」なんです。

ーキャベチューとは ーーーーーーーーー
正式名称は「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ」。日本愛妻家協会、嬬恋村、嬬恋村愛妻家聖地委員会が主催。「見る」観光スポットではなく、「叫ぶ」イベントです。2008年に誕生し、毎年9月に官民共創で開催されています。
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久保:3回目のキャベチューに、小菅さんが「叫ぶ人」として参加してくれました。これが出会いでしたね。その後、夜の親睦会で初めて色々話しました。

それまでも複数の事業に取り組んでいましたが、行政のみで思い描いたことをやっているだけで。ことあるごとに「これって村民が望んでいない?」と薄々感じていたんです。しかし、どうやったら住民の望んでいることを知ることができるのか、どうやったら望んでいることに応えられるのか。これらの方法が当時の私には全く思い浮かびませんでした。そんな中での、キャベチュー。企画者の山名清隆さん(日本愛妻家協会事務局長)や、同世代の小菅さんからはこの企画を通して本当に様々な刺激を受け続けています。

小菅:地域には良い資源がいっぱいある。色もたくさんある。群馬だけを抜き取っても多様性の塊。

群馬の端っこでも元気にやっている嬬恋村のキャベチューを始め、高崎の山名八幡宮や前橋○○部などなど、エッジが効いていて全国の地域がモデルにしたがる官民共創の事例がたくさんありますよね。

ところが、あえて率直に言いますと、自分のことを自慢するのがヘタだなあと。そう思わされてしまうシーンが多いのも事実です。実は僕の父の生家が吉岡町にありまして。群馬にはよく家族で滞在し、群馬弁から牛の乳搾りまで(笑)あらゆる群馬体験をしてきました。大人になってからも嬬恋村をはじめ様々なご縁が生まれました。群馬体験を今でも続けている身として、県民のPRスイッチ・自慢スイッチみたいなものが「ON」になるように、何か力になれたらな・・・と思っています。

共創は群馬のエネルギーになる

久保:嬬恋村は今回の対象エリアではなかったのですが、ファシリテーター養成研修には参加させていただきました。特に行政職員って、「これやったら次はこれやって」というようなフレームがあるとやりやすい人が結構多いと思うんです。ポイントを整理して伝えることで物事が進めやすくなるではないかという気付きを得ることができました。それと純粋に、県と市町村の職員が同じ空間でワークショップをやるというのは新鮮でした。

小菅:行政側が、アンケートをとって終わり。県民も、アイデアは出すけど忙しいからこれで終わり。こうなってしまうのは勿体無いですよね。

今回のワークショップでは手前味噌ながら、「どうやってやろうかの具体案をアウトプット」させることができました。いつやるか、どこでやるかまで決めてしまえば、あとはやるだけですからね! 行政の人も、「課長に掛け合って補正予算でやっちゃいます」みたいな(笑)。この雰囲気を作ることができたのは嬉しかったですね。 例えば、「みなかみ町には、利根川の複数の源流がある」という話から、「3月2日:みず(水)の日・水曜日、”みなかみの水”についてオンラインで語り合おう」という企画が生まれていました。いつ・どこで・何をやるかがもう決まっているので、あとはやるだけ。「延長保育にしてやります」という行政職員、「専門家に声かけますね」という市民もいましたよ!

共創の現場から学ぶ「視察の可能性」

小菅:「視察」に行ったことのある行政職員の方って多いですよね?

久保:多いと思います。出張して、ヒアリングして、レポートを作ってという視察。

小菅:一番スケールしたいと思うのは、ただの視察からレベルアップして、いち当事者として参加してみるという体感型の視察です。実際にプロジェクトドリブンで参加するのです。
旅行のついでに遊びに来ました!みたいなことも含めて、個人で参加して世界観を体感する。

これが何よりの伝播方法だと思うんです。旅費を出してもらったから「様式3」で出さなきゃ。そういうことに囚われない情報交換がもっと活発になるといいなって。この動きをできる方ってなかなかいらっしゃいませんよね・・・。

久保:群馬は意外と広い・・・! 「くちばしのほうに行ったことがない」みたいなこともよくありますよね。エリアごとに視察先を見える化していけば、訪問しやすくなるかもしれません。

視察した時に感じた熱い思いを、職場に戻ってからどう実現・継続させていくか。ここにも課題があるように思います。

小菅:行政職員からすると、公私の垣根を越えるのはリスクや諸事情があることだと承知しています。それでも、自身が実際に体感したことを行政の仕事に生かしていくことにはそれ以上の価値があります。

大事なのは「地熱」「外熱」「化学反応熱」。嬬恋村でいえば、久保さんが「地熱」を起こしてくれました!そして、私たちのような村外の人たちが「外熱」を与え続けます。最後は、これらが組み合わさった時の「化学反応熱」。ここが大事なんです!!

ここで失敗してしまうこともよくあります。答えがあるわけではありませんが、ここがフォーカスポイントだと思うんですよね。これまでの経験では、新しいプレイヤーが来たときに寛容でいられると面白い化学反応に繋がっていくような気がしています。

久保:嬬恋村の活動にも、参加する人・しない人、外からなんとなく眺めながら通り過ぎていく人など、色々な人が現れてきました。2018年に発足した「嬬恋村キャベツーリズム研究会」という、持続可能な村を目指した交流の場も活発です!

小菅:こうした一本の大きい幹を立てておくことで、「こっちにこの枝は伸びるんだ」、「今度はこういう村民にリーチできるんだ」、「こんなプレイヤーまで巻き込まれてきたのか」といったことが可視化されてきます。キャベツーリズムのウェブサイトもぜひ覗いてみてください。

久保:各地域のプロジェクトを体感型で視察する。ここがもっと取り組みやすくなれば、挑戦してみようという職員が出てくるかもしれませんね。

小菅:なるほど。なんだか参加したくなってしまうような各地域のプロジェクト。これが情報としてまとまって、チェックや参加がしやすくなる。そんな仕組みがあったら良さそうですね。実際に足を運んでみて、外熱や化学反応熱を少しでも見たり体感したりすることで、県全体の創造性が上がると確信しています。少しでも興味の芽生えた方は、どんどん挑戦してみましょう!

久保:来年の未来共創ワークショップも楽しみです。ありがとうございました!

(ライター:竹内ヤクト)
前橋拠点のコピーライター・ONOBORI3代表。平成元年生まれ。青森県むつ市出身。高崎経済大学卒業後、前橋のラジオ局・新聞社などを経てフリーランスに。「#しんぶんのし」で上毛新聞広告賞。2022年秋「ルルルなビール」を前橋で開業予定。