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「目と心」休めていますか?富岡中学校で生まれ、県内各地へ広がった共感の物語【南壽あさ子×内藤 聡】

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平日のお昼の時間。賑やかな中学校の校内が、しんと静まり返る。忙しない日常の中、ひとときの「何もしない」時間をみんなで過ごす。富岡市立富岡中学校では、午後の授業の前に「目を休める時間」という取り組みをおこなっています。一つの学校から始まったこの取り組みは、ある一通の手紙をきっかけに多くの共感の輪を広げていきました。

このたび、その取り組みについて語り合うトークイベントが富岡市立富岡中学校にて実現。FMぐんまパーソナリティの内藤聡さん、そしてシンガーソングライターの南壽あさ子さんが中学校に集合し、養護教諭を務める榎坂まゆみ先生とともにお話していただきました。

いま、この時代だからこそ必要な「目を休める時間」

まゆみ先生「みんなが嫌というほど味わったコロナ禍の一斉休校。感染者が減ってきて、なんとか学校には来られるようになったけど、分散登校や外出自粛などが続き『今までと同じように』はいきませんでした。そんな中、子どもたちが家の中に閉じ込められている状況をなんとかしようと思った大人たちがたくさんのことをインターネットで、動画で、教えてくれましたよね。勉強のしかた、運動のしかた、余った時間の使い方についても。

それから、タブレット学習が一気に加速しました。5教科以外にも持っていって、体育にも使用しています。急速なデジタル化が進む中、心配ごとが一つ浮かんできました。『みんなの視力が落ちていないかな』『目が疲れていないかな』と。実際に視力検査を行うと、嫌な予想は的中。子どもたちの視力はいつもより落ちていました。しかも、学年が上がるにつれて増えていて。なんとかしたいなと思ったんです。そこで、保健委員のみんなにどうしたらいい?と直接問いかけました」

富岡中学校の保健委員は、1年間のなかでテーマを1つだけ決めて集中的に活動をおこなうのだそう。今年のテーマである「自分の目の健康は自分で守る」について、生徒のみなさんの柔らかい頭によって、たくさんの楽しそうなアイデアが出されました。

まゆみ先生「そのひとつが『目のリラックスタイムをつくること』でした。“目を閉じるだけ“だから、いつでも、どこでも、誰でも、お金をかけずにできるはず。でも、実際やろうとするとすごく難しいんですよね。スマートフォンを持つのが当たり前になってから、移動中や待ち時間など、ちょっとでも時間があくと、ついついスマホを見てしまう。時間はあるけど、『何もしないをする時間』を作るのってとても難しいことなんですよね」

きっかけは、一通の手紙。

では実際に、その時間をどう作るのか。生徒からは「保健委員が一分間測りましょうか」といった提案もあったようですが、それでは保健委員自身が休めません。さまざまな話し合いを続けていく中で、「何か音楽をかけたいね」という小さなアイデアが生まれました。

まゆみ先生「ちょうどそんな話し合いをしていた帰り道、FMぐんまで心地よい歌が流れているのを耳にしたんです。私にとって帰り道って、意外と焦っている時間なんですよね。先生からお母さんに変わるタイミングと言えば伝わるでしょうか。『家に帰って、洗濯して、ご飯の準備して』と、やらなければいけないことがたくさん浮かんで、ついカリカリしてしまう。そんな時にこの歌を聴くと、ゆっくりでいいよ、と言ってもらえるような気がしたんです。この感覚を、富岡中のみんなや先生たちと共有できたらいいのにと思いました」

しかし、この曲を歌っている人はおろか、曲名も知らなかったまゆみ先生。その上、ラジオから流れるCMソングということしか分からず、調べることも難しい。「ラジオでかかってるから、ラジオの人に聞くしかない」。そう思ったまゆみ先生は、FMぐんまでパーソナリティを務める内藤さんに向けて、一通の手紙を書きました。「見つけてもらえないだろうな」そう思いながらも、自分たちの思いを真摯に綴ります。

内藤さん「お便りは、普段から全部読んでいるんですよ。かならず。けど、先生は手紙にしてくれた。最近は手紙でのお便りはなかなかなくて、『これはどうしたものか』とプロデューサーに相談したんです」

この曲がなんの曲で誰が歌っているものなのか。辿っていくと、TOKYO FMの“ラジオラバーズ“というCMで流れている曲だということがわかりました。曲名は『呼吸のおまもり』、アーティストは南壽あさ子さん。“ラジオから安らぎを“という思いから生まれた曲でした。

南壽さん「『呼吸のおまもり』は2019年の末頃に作った曲です。みんながマスクをして生活する前。災害などが起こったときに、リスナーの人たちが心を休める時間を作りたいという企画で依頼されて誕生しました。思いがけず全国で流れて、心のケアとしても働き始めていたみたいで」

内藤さん「この曲はCD化や配信もされていなかったんですよ。だから買おうと思っても売っていない。実は CD化されていない音楽を流すのって、すごく大変なことなんですよ。でも、富岡中の取り組みについてTOKYO FMや南壽さんに説明したら、快く承諾してくれた。そしてたくさんの大人が何人も、やりましょう!と言ってくれた。そのきっかけは先生の手紙だったんです」

南壽さん「思いがあって書いてくださった一通の手紙。それにみんなが共感したということですよね。学生のころから目をたくさん使う、ということに対しての共感。どうにかしてあげたいと思いました」

内藤さん「それにしても、目を休める時間を作るって、僕らの世代では考えられないことでした。野原を駆け回りながら野球やろうぜ!だったので(笑)。今回のことはたまたま僕の元に届いて、それを読んだ周りの大人が共感したということもありますが、まず最初のアクションが、先生が行動に移してくれたことが全ての始まりだと思います」

つながるバトン

FMぐんまで『呼吸のおまもり』が放送され、先生からお礼のメッセージが内藤さんがパーソナリティを務める番組へ届きました。ラジオネームで送られたリスナーとしての先生からのメッセージ。内藤さんが放送でそれを読むと、今度は南壽さんからメールが届きました。

ー“目を休める時間“という案が子どもたちから出たこと、とてもすばらしいと思いました。しかもその素敵な時間に、『呼吸のおまもり』を流したいといってくれたこと。とても嬉しかったです。この曲を作ってよかったなと思いました。子どもたち、先生たちも含めてみんなが立ち止まり、深く呼吸する時間になればいいなと思います。また、この輪が各地で広がっていくとすれば、これほど嬉しいことはありません。先生が行動したことに私も影響されて。言葉にして行動に移すことの大切さを知りましたー

南壽さん「先生が行動に移したからこそ、私も影響されたんです。実は群馬にもゆかりがあるんですよ。お父さんが桐生出身で、小さい頃はよく群馬に来ていました。ライブツアーでも群馬をよく入れていて、今回の出来事は群馬とつながる大きなきっかけになりました」

内藤さん「ご縁が積み重なった奇跡ですね。リスナーさんからもたくさんの反響があったんです。例えば下仁田町の教育委員会に勤めているという方からは、こんなメッセージが届きました」

ー下仁田町ではタブレット教育への取り組みが県内トップクラス。県内外から視察に来ていただくこともあるほどです。しかし、子どもたちの視力のことまで考えが及んでいなかった。そのいいヒントをいただきましたー

内藤さん「また、高崎の高校の先生は、午後の授業で“目を休める時間“を実践したそうです。みんなが中心になって始めたことが、群馬県内に広がっている。すごいことだなと思います」

南壽さん「先生たちは、子どもたちのことを一番心配していると思います。でも、コロナ禍で新しい教育にチャレンジしたり、タブレットに移行したりしていかないと、と変更を迫られて必死になっていると思うんです。そんな中この放送を聴いて、健康のことを考えなきゃ、とハッとした人もたくさんいたと思うんですよね」

一通の手紙から広がった大きな輪。この企画を進めた生徒たちにも話を聞きました。今回話をしてもらったのは、保健委員長を務める本多さん。

本多さん「こんなに話が大きくなるとは思っていなかったので、びっくりしています。目を休める時間が取れないこともあると思うので、みんなでできているということはすごいと思っています。たとえば、今私は3年生で、卒業のプロジェクトでダンスをやっているんですけど、その練習をしていると時間に間に合わないこともある。みんなでやるって難しいんです。だけど、続けていくうちにクラスの中で、『はじまったよ!』と声をかける人や、やる人数が増えてきた。みんなが声を掛け合ってやってくれるのが嬉しいです。呼吸を整えたり目を休めたりするだけじゃなく、次の授業への切り替えにもなっていると思います。」

みんなへのメッセージ

南壽さんは「呼吸のおまもり」、そして「鉄塔」を生披露。中学生時代を振り返りながら、生徒たちにメッセージを送ってくれました。

南壽さん「学生時代は吹奏楽部でフルートを吹いていました。両親が音楽好きで、家で洋楽が流れていたり、私自身もピアノを5歳から習っていたりと、日常的に音楽に触れる環境がありました。でも、曲や歌詞を書く際は、音楽の専門的な知識などではなく、学生時代の経験とか、目には見えない“心で感じたこと“が、言葉として生まれてくるんです。みなさんは今、すごく大切な時期を過ごしていると思います。良いことも悪いこともあると思うけど、喜怒哀楽を自分の中にためていくと、それが形になる。私はそれが音楽だったけれど、スポーツだったり、絵を描くことかもしれない。やりたいことはあとから出てくるかもしれないから、大切にしてほしいと思います」

そして、内藤さんからもメッセージが。

内藤さん「群馬県の方、スタッフのみなさん。様々な方が関わっていますが、主役はみなさんです。誇りをもってほしいと思います。毎日忙しいかもしれないけど、なりたいことがあったら、口に出したほうが良いです。先生は手紙を書いてくれて、人を動かしたんですよね。こういうのを『口外宣言効果』と呼びます。例えばアスリートは試合前に『絶対勝ちます』『優勝します』と言う。これはいわばスタートの合図なんですよね。

僕は中3のときにDJになる!と決めて、『明日からDJになるわ!』とクラスのみんなに言いました。スイッチを入れたんです。夢があるならみんなに伝えてください。大きな声で言うのが苦手だったら、家の布団の中『おれは◎◎になる!』と叫んでください。そうすると勝手にスイッチが入ります。先生の手紙のように、一歩進んでアクションしよう」

最後にー「目を休める時間を通して」

今回の内容を通して、富岡中学校の生徒のみなさんにも感想を述べていただきました。

「大人になっても目を休めていきたいです」

「目を休める時間が大切だとわかったので、自分から取り組んでいきたいと思います」

「いまタブレットも使ってる中、定期的に目を休めてほしいなと思いました」

「この時間が設けられて、とても大事だなと思いました。ぜひみなさんもやってください」

「沢山の人の健康につながると思います」

「自分が目が悪いので、もっと休めて目が良くなるようなことをしていきたいです」

たった一通の手紙から始まった物語。生徒たちの思いに対し、たくさんの大人が共感し大きなプロジェクトとなりました。それは次第に他の学校や地域にも広まり、さらに大きな輪となりました。富岡中学校の生徒たちが始めたプロジェクトは、ほんの小さなものだったかもしれません。しかし、みんなで考えたことが、アクションを起こしたことが、大きな出来事となりました。日常で感じる小さな気持ちや疑問。それを蔑ろにせず大切にしていくことが、誰かと共感しあうきっかけになるのかもしれません。

(ライター/撮影:合同会社ユザメ 市根井 直規)

登壇者

南壽あさ子 シンガーソングライター

透明感あふれる唄声を持ち、懐かしい情景や忘れかけていたものを思い出す不思議な魅力を備えるピアノの弾き唄い。凛とした声の中に温かさを併せ持つ唯一無二の声が支持され、これまでに積水ハウス・シャーメゾンのTVCM「積水ハウスの歌」歌唱、東京ガスの企業CM「エネルギーのうた」制作・歌唱、TOKYO FM局報「オキシトシン」「呼吸のおまもり」ナレーションと楽曲制作・歌唱、スケーター株式会社のお弁当箱TVCM楽曲書き下ろしなど、数々の企業CMの声に選ばれている。

2012年「フランネル」でCDデビュー、翌年にはトイズファクトリーからメジャーデビュー。2016年にヤマハミュージックコミュニケーションズへ移籍。これまでに47都道府県ツアーを2度敢行。台湾でもCDデビューをしている。2019年にはフジロックフェスティバル初出演、ニューヨーク・カーネギーホール出演を果たす。秋にはNHK「みんなのうた」に書き下ろした「鉄塔」が放送、その着眼点とポップな曲調が話題となる。


最新アルバム『Neutral』は日米両プロデュース作品。グラミー賞を13回受賞しているエンジニア、ラファ・サーディナのプロデュースによるA面(表題曲「すみれになって」ではハンガリー・ブダペスト管弦楽団総勢51名とのレコーディングを行う)と、元はっぴいえんどの鈴木茂との共同プロデュースによるB面の豪華な仕上がり。

2020年夏公開の映画「おかあさんの被爆ピアノ」では主題歌を担当、出演もしている。今年2月、震災から10年の節目で千葉県FMラジオ共同キャンペーンソングとして新曲「あなたがいる」を制作。現在千葉県すべてのPA・SAをめぐる「千葉県ハイウェイスタンプの旅」も敢行中。

内藤 聡 FM GUNMA パーソナリティー

1975年6月25日群馬県生まれ。「ぐんま特使」「藤岡市観光特使」。
中学3年生からラジオの世界に憧れ、大学時代20歳でラジオパーソナリティとしてデビュー。
関西地方、東海地方、北海道などでキャリアを積み、パーソナリティ歴は25年を超える。
「サトヤン」の愛称で幅広い年齢層から支持を集める。女の子2人、男の子1人の3人のパパ。
2015年4月よりFM GUNMA「WAI WAI Groovin’」を担当。