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【グリーンイノベーション分科会】グリーンイノベーションと地域社会

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 地域社会が脱炭素化を進めていく、むしろ先導していくにあたって、誰が何をしていけばいいのか、ということを議題に掲げたグリーンイノベーション分科会では、民、官、学の第一人者の方々にご登壇いただき、なぜ地方で脱炭素化していく必要があるのか、地方の企業は何をすべきなのか、さらに自治体は何をすべきなのか、この三つの問いかけに対して45分間のセッションが行われました。

なぜ脱炭素化が地方で必要なのか

森原:本日の議論といたしましては、大きく三つの問いかけを考えております。まず一つ目は、なぜ地方で脱炭素化していくことが必要なのでしょうか。そこからお伺いしたいと思います。グリーンイノベーション分科会のグリーンは脱炭素化ですけれど、そこにイノベーションという言葉が付いているわけです。脱炭素化という話がなぜ必要なのかと考えますと、当然温暖化対策であることは皆さんご存じの通りですね。気候変動を何とか食い止めるために始まった話です。ただ、それと合わせて、これを、個々の企業でも、国単位でも、成長の大きな機会として捉えていこうと考えていらっしゃる方もいます。これを地域社会という文脈で見ると、地方創生に脱炭素化をうまく使えるのではないか、と考えている方もいらっしゃいます。温暖化対策は当然外せないわけですけれども、合わせて経済的な意味でも、地域を元気にするためにも、この脱炭素化が使えるのではないかと、こんな議論があります。

 そこで、まず水口先生にお伺いします。この脱炭素化という話は、企業の話を聞いていますと、グローバルから東京の企業に来て、地域の企業に来てということだと思うのですが、そもそも地域は逃げられない話なのか、という辺りをご説明いただいてもよろしいでしょうか。

水口:なぜ地域で脱炭素なのかと言えば、世界が脱炭素に向かっているからですよね。世界が脱炭素に向かっている理由が何かと言えば、これは人間の危機だからです。人間の危機ということは経済システムの危機であり、地球が気候変動に巻き込まれると世界の経済も巻き込まれる。そうすると、金融も巻き込まれる。そこで世界の金融機関も連合して、 ― これをGFANZというんですが ― 投融資先の(温室効果ガス排出)ネットゼロを目指すと言い始めました。すると、それに合わせて情報開示も変えなきゃということで、ネットゼロに向けた開示に変えようと世界的に動いています。これに合わせて日本の金融庁も、有価証券報告書での開示に舵をきり、サステナビリティの欄を作ることにしました。この欄に何を書くかというと、サステナビリティに関する企業の戦略やリスク管理とともに、CO2の排出量を書けということになるわけです。

 このCO2の排出量をどうやって計算するのかという時に、スコープ1・2・3と言う区分があります。自社の工場で重油を焚いていれば、当然そこからCO2が出るわけです。それをスコープ1と言います。その他にも電気を使っていますと、そこではCO2は出ないけれども、電気を発電するところでCO2が出る。そこから出たCO2は誰の責任なんだという時に、電気を使っている人の責任じゃないですかと。そこで電気を使って出るCO2を計算することをスコープ2。その先にも問題がありまして、じゃあ、おたくで作った製品が使われている時に出てきたCO2はどうするんですか、逆に原材料を掘った時に出てくるCO2はどうするんですか、そういうものも会社の責任じゃないですかということで、これを計算するのがスコープ3と言うわけです。スコープ3まで開示するという仕組みになってきていて、それはスコープ3まで責任があるんだという考え方に近づいてきているわけです。

 すると何が起こるかというと、企業もスコープ3まで考えて、事業をやろうとします。例えばアップルという会社。製品を作る時にもうCO2を出さないと宣言しました。そうすると部品の段階からCO2を出してはいけなくなります。すると、再エネ100%で作られた部品じゃないと買わないと言い出すわけです。そう言われたら作るほうは大変ですよね。アップルのサプライチェーンを辿っていくと、群馬県にもたくさんあるわけですが、こういうことを言う会社はアップルだけじゃありません。マイクロソフトもそうでしょうし、自動車会社も皆そうなるわけです。その時に、サプライチェーンの中にいる企業さんが、再エネ100%で部品を作れますかという問題。これ実は、地域間の競争なんですね。地域の中で、再エネ100%の電力を供給できるような仕組みがあれば、簡単にアップルのサプライチェーンに入れます。そうじゃない地域はどんどんはじかれていくわけです。やはり地域間の競争が始まっている、そういう状況だから、地域でも脱酸素をやらないわけにいかない、ということではないかと思います。

森原: 群馬県でも自動車や電気部品を作っている会社は非常に多いと思いますが、取引をしている以上逃げられない問題となっていきます。渡慶次さんの会社ではいろいろなサービスを展開されて、こういった企業と直接お話をされていると思いますけれど、皆さんどんなふうにおっしゃっていますか?

渡慶次:我々のお客様となっている企業は2,000社にのぼりますが、上場企業様、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場、非上場企業様と多様に分布しています。今年の4月からプライム市場に上場している企業に関しては、気候変動に起因する企業としてのリスクと機会を分析して開示することが、コーポレート・ガバナンス・コードにも義務付けられているので、ほぼ全てのプライム市場企業はスコープ1・2・3の算定に着手し始めています。あるいは中小企業、非上場企業であっても、先ほど出た自動車製造業の場合は完成車メーカーから要請を受けています。あなたの部品を作る会社ではどのくらいCO2を出していますかという質問を受けて、開示を求められる会社も徐々にCO2算定の取り組みを進めております。

 この流れは、有価証券報告書にもサステナビリティの開示をしていきましょうという話が出ていますので、プライム市場だけではなく、全上場企業につながっていく話なのかなと思います。そして、国のGX実行会議でも炭素税、排出量取引、こういったカーボンプライシングの導入が進められておりますので、この先必ず全ての企業に影響が出てきます。これはCO2を減らした方が得だという話になってきますので、そのタイミングでは全企業が取り組むべきものになっているのではないでしょうか。

 ただ、我々の顧客を見ても、非上場企業は算定と開示の確たる義務はないのですが、既に多くの会社が取り組んでいる。これは上場、非上場に限らず、この流れを義務的なもの、あるいは守りとしてしなければいけないから取り組む会社と、この機会に自発的にもっと取り組んで攻めに使っていこう、これを企業価値向上に使っていこうという考えの企業がいらっしゃって、攻めの姿勢の企業がこの課題に非常に積極的に取り組んでいると思います。こうした会社の多くにおいてトップのリーダーシップが発揮されています。自分たちの企業の成長、あるいはイノベーションをこの分野に起こしていこうと考えている企業は、非常に進みも早いですし、これをチャンスに変えられているんじゃないかなと思います。

森原: なるほど。ピンチなだけでなくチャンスと捉えることができるという話ですね。そう言う意味では、地域全体でチャンスと捉えるということで、中井さん、地域循環共生圏、このコンセプトを打ち出されておられたと思いますが。

中井:地域循環共生圏の柱の一つはカーボンニュートラルですね。今のエネルギーの使い方は地球に負荷をかけています。化石燃料を地下から掘って燃やして、運んで、森林を切って。それでは地球が傷むのは当たり前。何をやるにもエネルギーが要るので、地球や地域に負荷がかからないようにしようと。要するに再生可能エネルギーでまかなったらCO2が増えない。

 もう一つは循環という発想です。出たゴミに対してお金かけて分別してと大変なことをやっているというのが、全部つながっているようにする。だからプラスチックも作る段階から素材を変えたり部品の設計を変えたりして循環しやすくする。そういうサーキュラーなもので周りのものが全部できていれば、エネルギーも節約できるし、ものも維持できるわけです。これを、食品残渣や森林を含めたバイオマスの世界、鉄を含めた金属、それから化石燃料からできているプラスチック、衣料を含めて。この三つが身の回りをまわっているというのを実感できるように2050年までにしたい。

 もう一つは自然共生です。これは空間の使い方とも言います。あまりにも元の自然や生態系を無視してビルを建てると、リスクが出てくるので、そうではないでしょ、という話。生態系と折り合いをつけ、自分も生態系の一部だという発想が必要。

 ものがつながるように全てがデザインできている、ゴミじゃなくて資源に見えるくらいの話になっているか。その空間の使い方がもともとの自然と折り合っているか。そしてエネルギーが負荷がかからないようになっているか。この三つが達成できるように、皆さん自分の事業を考えましょうというのが地域循環共生です。群馬の田舎でCO2を出してないから関係ないではなくて、災害があってもエネルギーが途絶えない、食べ物もある、全てのものが身の回りにある、ということをやるのが地域循環共生、サステナブルの構想なんですね。

 そういう循環を、東京や大阪中心の都市の発想ではなく、今いる私たちの現場から発想しましょうと。まず私たちの課題として生命力を高める。サバイバルできるように、食もエネルギーも観光資源もあるんだという発想で、そこに技術を取り込んでボトムアップの循環を作っていく。これが環境省が進めている世界です。脱炭素がすごいわかりやすく、見える話になっているので、そのことをテコに、再生可能エネルギーを中心に、地域で災害があっても途絶えないエネルギーシステムを作って、それを地域資源として地域にお金がまわって、雇用ができる、企業の収益が上がる、こういうことをしたいわけなんです。

地方の企業は何をしていくべきなのか

森原: ありがとうございます。脱炭素も含めて、つまり地域社会が自立するためのコンセプトというふうに捉えるのがいいのかなと思います。山本知事も「劣化東京」にはしないと、最近よくおっしゃいます。脱炭素の話などは、地域が自立していろいろなものを回していくことを考える機会になると思います。こういった逃げられない、むしろ前向きに取り組んでいくことによって地域の自立につながるのなら、脱炭素化を目指した方がいいのかなと私も思っておりまして、二つ目の問いを投げかけさせていただきます。地方の企業は何をしていくべきなのか。渡慶次さん、いかがでしょうか。

渡慶次: 脱炭素の取り組みは1社では進められないという話をしたいと思います。サプライチェーン排出量を見たとき、いろいろな人が関わります。例えば、サプライチェーンの上流側、スコープ3上流と言いますけれど、企業活動するうえで調達したものや物流などのサービス、他にも従業員が利用する交通サービスですとか出張、いろいろなことが出てきます。下流のカテゴリーには投融資があります。これは金融機関にとって、投資先または融資先の企業がどのくらい温室効果ガスを出しているかを集めて出さなければいけないことになっています。これらを考えたときに、企業価値向上のためにやっていく仕組みが必要だという話です。

 次に、何を作っていくのかと言いますと、企業が取り組むためのインセンティブを1社ではなくみんなで作っていく必要があると思っています。例えば、一番注目を浴びている温室効果ガスのデータですね。自社で算定して貯めこんでいても意味がなくて、これをどんどん開示して発信していくことによって、経済的なメリットが出てくるエコシステムを構築しようという発想です。自治体などがこういったことにインセンティブをつけるという取り組みもあります。環境省が主導している脱炭素先行地域では、大型の交付金を使って、いろいろな施策を行う自治体が出てきています。

 あるいは金融機関。自分たちのサプライチェーン排出量を少なくするために、融資先・投資先にCO2排出量を下げるようなインセンティブ、まさにサステナビリティファイナンスを打ち出しています。グリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローンがこれに当たります。CO2排出量が下がったら金利を下げますよといった融資を設定する金融機関がどんどん出てきています。

 その他は納品先、あるいは消費者。自分たちの製品やサービスを提供する先に対して、きちんと自分たちのサステナビリティを開示していくことで商売を拡大していくことが重要です。例えばアップル社の場合、サプライヤーさんがCO2排出量開示にコミットしないとお付き合いしてもらえないわけですから、しっかり取り組み、納品先に対し開示することが商売の拡大に繋がります。こういったエコシステムを作っていくことが非常に重要だと考えています。

 次にユーザー企業を取り囲むパートナーです。弊社は自治体や金融機関、あるいはサプライチェーンの中で活動される商社などとパートナーアライアンスを結んでおり、その企業数は80社以上ございます。環境関連情報の開示の流れが金融から来ているというところがありますので、金融機関のパートナーは多いです。実は群馬県は、群馬銀行さんと東和銀行さん、主要2銀行さんとお付き合いいただいている珍しい県でございまして、我々も群馬県の企業に対するサービスを拡充しています。やはり電力会社、商社、自治体を含めて、インセンティブが発生するようなエコシステムを作って企業に取り組むきっかけを与える。これを作っていくのが我々の仕事であり、パートナーとの連携が重要だと思っています。

森原: ありがとうございます。今、渡慶次さんからもありました、金融機関の役割が重要になってくるということですが、水口先生はサステナブルファイナンスに関してご専門家かと思います。地域ではどういうことをやっていくべきでしょうか。

水口: はい。金融機関が何をすべきかという時に、地域の取り組みの中核になるべきだと思います。経済産業省が今年出したクリーンエネルギー戦略の中間整理で、これから10年で150兆円必要になるという試算を出しました。この150兆円がどこから出てくるかと言いますと、一部は政府、一部は金融機関ということですが、ここにチャンスがあるじゃないか!と思うことが大事だと思いますね。こういう150兆円のお金をうまく使ったら、地域も盛り上がるということで、このお金を出す仕組みとしてグリーンボンドとかグリーンローンという仕組みがありまして、今群馬銀行さんもだいぶ取り組まれている。東和銀行さんもこういう類似のものも始めています。やはり一社じゃ取り組めない。地域金融と自治体と地域企業が互いに連携することで、コンソーシアムを作っていく。それで全体の問題を解決していきましょうと。具体的に何をするんだという話ですが、うまくいっている具体例を一つご紹介します。

 秋田県の北都銀行と日本政策投資銀行東北支店が、最近になってレポートを出しているんです。これがすごく面白い。何が面白いかというと、洋上風力発電に秋田県が適地ですねという話なんです。洋上風力というのは、可能性が高いけれど日本の企業はやっていません。東芝も撤退してしまった。洋上風力を作っているのは海外の企業ばかりなんだと。だから洋上風力が広がっても日本にお金が落ちないじゃないかと思われがちだけど、違うと。洋上風力発電には、部品が1万点から2万点要るんだそうです。そんなにたくさんある部品を全部海外では作れませんね。日本で生産するんだったら、その多くの部品を日本で作る。それから建設、施工、そのあとのオペレーション、ここに実はコストがかかっている。つまり洋上風力発電を一個持ってくるということは、それに付随する様々なビジネスが広がるんだということを分析したこのレポートは素晴らしいなと。彼らは何をしているかというと、洋上風力発電を中心にして自治体と企業と金融機関を結びつけて、コンソーシアムを作るということをやっているわけです。

 残念ながら群馬には海がない。その代わり日照時間は日本一だと。水力もたくさんある。これだけポテンシャルがあるのにうまく使えていないんじゃないですか。このポテンシャルを活用するための知恵出しをするというのが、金融機関と地域の自治体と、そして企業の役割。コンソーシアムを作って何か開発しましょうよというのが、これからやるべきことかなと思っております。

自治体はこれから何をしていくべきなのか

森原: 最後に自治体のお話を伺いたいと思います。群馬県の企業に脱炭素をしてもらわなければいけないですし、よく考えると企業だけではなく、例えば県民一人一人の暮らし、もしくはエネルギーを使っているところがあればそこも脱炭素化しなければいけない。地域全体が脱炭素化しようとするとけっこう大ごとなわけです。自治体からすると、全体を視野に入れて考えなければいけないので、いろいろ役割は重要になってくるというところで、お三方から県庁を含めた自治体がこれから何をしていくべきなのか、ご提言をいただければと思います。最初に中井さん、環境省は脱炭素先行地域というような政策を展開していらっしゃいますね。

中井:脱炭素先行地域ということで、2030年までに少なくとも100か所をカーボンニュートラルのエリアを面的に作って、それが模範になって、日本中に脱炭素ドミノが起きるという絵を描いています。群馬県で言うと上野村が該当します。商業エリアとか自然農山村エリアとかいろいろなパターンがあって、46か所までできました。カーボンニュートラルに向けた取組みを5年くらい集中的にやるということなんですけれど、そこに先ほどのカーボンプライシングの財源も入れて支援しますと。自治体にコミットしてもらって、交付金というかたちで5年で50億くらい。これは、自治体が脱炭素を含めて地域のことをわかっているよという意味での、底上げの支援の交付金です。

 もう一つが、金融機関にお金を出してもらわないといけないということで、官民ファンドを7年ぶりに作って、地銀や信金さんがお金を出すのに、一緒に勉強してリスクマネーを出すということで。全国で事例を集めるための、脱炭素のファンドを作ります。

森原: ありがとうございます。群馬は今、上野村が認定されていますけれど、県全体も他の市町村も、続いていかねばということだと思います。また、国にファンドを作っていただきましたという話がありますけれども、群馬県内でも地域金融機関がまさにファンドを作っているということでございます。水口先生、そのあたりをご紹介いただけますか。

水口: 自治体が何をすべきかということで、群馬県はすでに取り組んでいただいていると思いますけれども、群馬GIアライアンスというのがこの度できまして、革新的環境イノベーションコンソーシアムを作っていただきました。先ほど言っていましたEGS地域金融ということで、自治体、金融機関、そして地域企業が連携する枠組みを作ってきました。その中に群馬銀行が入っていまして、グリーンファンドですね、だいぶ先行されていますけれども、こういった取り組み。それから東和銀行として脱炭素コンソーシアムというのを作っていまして、こういうものに入って、皆で協力していこうという仕組みになっています。

 特に東和銀行として、地域の企業、自治体を巻き込んで動き始めたコンソーシアムについて、これで何をするかというと、一つはサーキュラーの仕組みを作ろうということで、地域の資源を地域の中で循環させる、そういう仕組みを作っていこうと。地域企業とうまくマッチングすることで、タイヤや木材などを循環させていく。同時に、地域の脱炭素と再エネルギー供給を実現しなければいけない。冒頭にも出たように、再エネ100%じゃないともう部品を買ってもらえないとなると、個々の企業が個社対応するのは大変じゃないですか。そうではなくて、ここに行けば再エネ100%の電気をもらえますよと、そういうコンソーシアムを作ろうという構想です。これまだ構想でして、なかなか再エネ100%の電気を供給できていないんですけれど。でも、このコンソーシアムを皆さん盛り上げていければ、いずれそういう仕組みにできる。そこを目指していきたいと考えているわけです。

森原: まさに官民で取り組んでいらっしゃるということで、政策の話を考えていくにあたっても、役所だけでできる話ではないので、いわゆる官民の連携というのが非常に重要なんだと思います。次、ゼロボードさんも自治体と協力していろいろされていると思いますが、ご紹介いただけますか。

渡慶次: 中井さんからお話があったように、地域によってはすごく熱が上がっている地域もあります。やはり自治体だけでいろいろな企業を巻き込んでいく、生活者を巻き込んでいくことはなかなかマンパワー的に難しいものです。弊社の中で上手くいっている事例として、金融機関が積極的に地域の企業と連携を組む動きをしてくださっている例があります。これは岩手県で、岩手銀行が岩手県内の多くの基礎自治体と地域連携協定を結んで、脱炭素の推進をどんどん展開してくださっています。これをきっかけに我々も一部の県内企業さんにサービスを提供していくという例があります。

 ただここで重要なのは、この取引いいねと言って、そのままそっくり持ってきてうまく機能するかというと、やはり地域特性がすごくあると思います。先ほどの脱炭素先行地域というのも、いろいろな形に分けています。工業地帯や観光地、住宅街など地域特性に合わせて、どういった脱炭素の施策が自分たちの地域に一番フィットするのか、これはやはり脳みそに汗をかいて、各自治体あるいは県内の企業がしっかりと考えて作っていくのが重要だと思っています。

 もう一つ言うとすると、「これを実行するのは誰なのか?」という話です。脱炭素の取り組みは、国や自治体が勝手にやってくれる取り組みではないです。最終的には企業や最終製品を買う我々自身がマインドを変えて、こういう社会を実現させるんだと取り組んでいかないと、絶対に動いていきません。実行するのは自分たちなんだと、自分事として捉えて進めていくのがとても重要ではないかと思います。

森原: これもデジタルで脱炭素支援していただける企業さん、それからサステナブルファイナンスの担い手である地方の金融機関、それと行政ということです。この官民の連携で取り組んでいくという話ですので、群馬県も市町村も、官が民の皆さんと一緒に手を携えることによって、地域で頑張っている中小企業の皆さん、さらには県民の皆さんの暮らしというところまで描いていくということが、我々もぜひ取り組んでいきたいなというところでございます。ありがとうございました。

群馬県の取り組み

 群馬県では東和銀行さん の「東和脱炭素コンソーシアム」や、群馬銀行さんの「GBグリーンファンド」が具体的に進んでいます。県としては個々の取り組みを後押ししつつ、かつ有機的に連携をさせて、脱炭素に向けた大きなうねりを創出するべく掲げているのが「ぐんまGIアライアンス」という構想です。連携を具体的に進めるための組織として構成しようしているのが「革新的環境イノベーションコンソーシアム」というものです。民間企業、金融機関、大学、インフラ企業、それから群馬県といった様々な主体の参加によって、まさにこれから始動するところです。そのほか「官民連携ファンド」の創設に向けての検討も進めているところです。一つ一つの取り組みが連携し、1+1=2ではなく=3や4になるように進めていきたいと思います。

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ライター: 樋山久見子

高崎市出身。タウン情報誌の編集長に就任した後、雑誌やWeb事業を展開する出版社を経てフリーランスへ転身。群馬県内を中心に新聞、雑誌、フリーペーパー、Web関連などを主軸とし、取材と執筆に明け暮れる日々を送っている。

撮影: 丸山 えり

東京都あきる野市出身。群馬県産有機野菜の美味しさに衝撃を受け、2018年前橋市へ移住。現在、群馬県高山村「在る森のはなし」経営チーム。フリーランスの主な仕事:写真撮影。その他、企画・編集・デザイン・ライティングなど。
人や風景の内側にある輝き(光)を写す写真家。

登壇者

森原 誠 群馬県政策アドバイザー/ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)パートナー

総務省、青山社中株式会社を経て、2019年から現職。県では、新・群馬県総合計画の策定等を担当。BCGでは、気候変動・サステナビリティグループのコアメンバーとして、環境省・経済産業省などの政策立案を支援。

渡慶次 道隆 株式会社ゼロボード代表取締役

株式会社ゼロボード代表取締役。JPモルガン、三井物産等を経て2021年に同社を創業。東京大学工学部卒

中井 徳太郎 前環境省事務次官

1962年生。1985年東大法学部卒業後、大蔵省入省。東大医科学研究所教授、財務省主計官等を経て、2011年環境省に。総合環境政策統括官等を経て、2020年7月環境事務次官。2022年7月退官。9月より、日本製鉄顧問。

水口 剛 高崎経済大学 学長

1997年高崎経済大学講師、2021年より現職。専門はESG投資、非財務情報開示。金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」座長。