- REPORT
全国群馬県人図鑑-グンマーズ–vol.1 本間和明さん×北村ヂンさん【中編】
全国群馬県人図鑑(-グンマーズ-)は、さまざまなフィールドで活躍する県ゆかりの皆さんにお話をうかがう湯けむりフォーラムの新企画。10月28日に行われた、本間和明さんと北村ヂンさんのトークの中編をお届けします。
好きなことを仕事にするためのはじめの一歩として、小さくても自分の作品を世に出して、反応を見ることが重要な理由とは? ゆるいトークの中にも、クリエイティブな仕事の本質に迫る発言が随所に出てきます。
東京の人が注目する、藪塚町の名所
(ゲスト高校生の竹内さんが、都内からUターンして群馬におしゃれなカフェなどを開く人が増えている傾向を話題にしたことを受けて)
北村 Uターンにしても、東京に出ていくにしても、やっぱり沖縄とか九州の人が東京出るのは、かなりの決心が要るじゃないですか? 群馬県民が東京出るのは、嫌だったらまた戻ればいいや、くらいの距離感なのでそれは気軽にできるかもしれないですね。
佐藤 それは魅力の一つですよね。東京で吸収したことをすぐ持ち帰ることもできる。一大決心してもう帰らないとまで思わなくても行き来ができるのは、本当に大きな魅力の一つ。
本間 確かに、東京に出るのに一大決心はしなかったですね。
北村 群馬の高校生に言いたいのは、「東京の情報が知りたい!」と思っているじゃないですか。僕らも当時はまぁまぁ「東京行かなきゃダメだ!」と思っていた。でも、東京の情報を例えば雑誌で仕入れて東京に出て行っても、武器にならないんですよね。むしろ群馬の変な情報を仕入れて行った方が、ウケはとれます(笑)。
佐藤 逆に面白ネタを集めた方が良いと(笑)。ちなみにヂンさんの今のイチオシの面白ネタって何ですか?
北村 面白ネタって(笑)。ちょうどスライドがあるので見てみましょうか? これは藪塚町にある石切場跡地なんですけれども、30m近い高さがあって壮大で、仮面ライダーとかの撮影で使われているんですね。RPG(※)の神殿ぽくて、これかっこいいぞ!って。
※RPG(ロールプレイングゲーム)のこと。
佐藤 へぇ〜、ずっと県内にいるのに行ったことないです!
北村 多分今の高校生が「インスタでバズりたい!」と思ったら、原宿へ行くより、多分ここで撮った方がウケると思います、原宿で撮る人は死ぬほどいるんで。東京でウケる群馬という戦い方はあるかなと思います。
本間 石切場で撮る人、いないですからね。
佐藤 恵ちゃん、ここ知っていましたか?
竹内 いや、知らなかったです。 初めて見ました! こんなところあるんだって!
北村 3回くらい行ったけど、本当に人がいないですね。ジャパン・スネークセンターの近くです。
本間 スネークセンターもみんな知らないのでは?
北村 え!? スネークセンター、知らないの??
佐藤 恵ちゃんはスネークセンター知っていますか?
竹内 よく知らないです…。
北村 ヘビの動物園みたいな感じなんですけど、一応研究所で、そんなにエンターテイメント性は高くないんですよ。だから「毒ヘビが東京で出た!」みたいな事件があると、捕獲されたらスネークセンターに送られるという。「原宿で逃げ出した〇〇です」というような展示がされています。叶姉妹が飼っていたアルビノのニシキヘビ(※)も確かいたと思います。
※アルビノは、現在はいないそうです。
佐藤 そんな話を聞いた記憶があります!
北村 東京とつながっている場所ですよ。
本間 ヘビでつながっている(笑)。
竹内 行ってみたいです!
北村 僕も群馬にいた頃はスネークセンターにそんなに興味なかったですが、東京でスネークセンターや叶姉妹がどうのこうのって話すと無茶苦茶ウケるんですよ。
佐藤 それもやっぱり県外に出たからこそ、わかった魅力の一つかもしれないですね。
世に出して反響をもらう覚悟を
佐藤 この番組は若い学生さんも見てくださっていますので、進路選択についても少し。お二人は好きなことをお仕事にされていますけど、なかなかそれが見つからないとか、自分の得意なことをどう仕事につなげていったらいいのかわからない、と悩む学生さんは多いと思います。好きなことを仕事にする秘訣とは?
本間 本気で言っちゃうと、好きなことは仕事にしない方が個人的にはいいと思っています。
佐藤 それはどうしてですか?
本間 好きなことを仕事にすると、純粋に好きという感情だけではいられなくなる。僕もゲームを作るようになったことで、ゲーム遊びに対しての視点が変わりました。作る側の視点になっちゃったんですね。だから「このゲームつまんない」と軽々しく言えなくなったし、遊びづらくはなりました。
北村 本間さんが一番好きなことは、多分ゲームを「やること」ですよね。
本間 確かに、プロゲーマーになる道は選ばなかった。仕事は好きなことに近い、くらいにしておく方が、好きなことに対してほど良い距離感で老後まで行けるかなって。
北村 長距離走だといろいろありますよね。ゲーム作る人もライターも、1年くらいパッと出てやめちゃう人って結構いるんですよね。
佐藤 そうなんですか! でも、ゲームのクリエーターやライターになりたい人はかなり多いと思うのですが。ゲームのクリエーターになるための最初の一歩はどう踏み出せばいいですか?
本間 まずゲームを作るといいと思います。大事なのはとにかく一個形にする。ゲームを作りたいのなら今は調べればいくらでも出てくるから、それを見て、書いてある通りでもいいから一個作って世に出す。これができるとその後が楽になるんです。いきなり「僕はポケモンが好きだから、ポケモンみたいなでっかいゲーム作ろう!」とすると、大体挫折してしまう。始めは簡単なものでいいから、形を作る。
北村 そう、素振りばかりやっていても成長しないですよね。今はTwitterとかでちょろっと出せば反響が来ます。何にも反響をもらえないまま一人で作り続けるのはつらいので、小さくていいから完成させて、ちょこちょこ発表するのがいいんじゃないでしょうか。
本間 完成させないと見えない世界というものが、やっぱりあるので。
佐藤 本間さんも一番最初に作ったゲームは、すごくシンプルな…。
本間 そう、刺身の上にタンポポを乗せるだけのゲーム。
北村 それちょっと話題になりましたよね。
本間 なりました、いきなり。ああ、ゲームってこれでいいんだなって(笑)。
北村 その路線というか、メソッドで本間さんは今も行っている感じはしますね(笑)。良い反応でも、悪い反応でももらうことで自分の型ができてくるんですね。得意ジャンルが出てくるというか。自分が作れる良い形はこれだ!と収束していったのでしょうね。
佐藤 ヂンさんはどうですか? イラストレーターやライターになるための一歩は、どう踏み出せばいいと思いますか?
北村 今の本間さんの話に近くて、僕も壮大な漫画や長編小説が好きだし、小説も好き。だけど、全然違うところにたどりついた。多分やり続けていたことで自分ができて、そこそこ楽しいと思えるものが見えてきたのかなと。一方、「長編小説をまず世に出さないと何もできない!」と思い詰めて30年、とかも十分あり得ると思うんですよ。その気持ちもわからなくはない。それでも、ブログでも、ツイートでもいいんですけど、ちょろちょろ出していくことが大事だと思う。出してみると時にはたたかれたり、時にはほめられたり、いろいろあるんで、軌道修正していくと、なんとなく自分の型ができてフォーマットができる。
本間 見つけていく感じですね。
結論を先伸ばしも一つの選択
佐藤 一歩踏み出すそれ以前に、自分の好きなことや得意なことが見えないという悩みのある学生も、実はたくさんいます。ヂンさん、そういう学生さんにもアドバイスをいただけますか?
北村 本当に好きなものが何もなければ、ちゃんと勉強して大学行って、結論を先延ばしにした方がいいと思います。それと、ゲームを作ったりライターとして記事を出すことで、チヤホヤされたい、お金が欲しい〜みたいな気持ちだけが先行していると、自分がすぐ辛くなりますよね。反響が乏しかったら、もうマイナスじゃないですか。もしそうだとしたら無理して何か作るより、勉強してちゃんとした会社に入った方がいい。
佐藤 見つからないうちは、例えば学校の勉強を一生懸命するとか。
二人 そうですね(うなずきながら)。
北村 先延ばしがいいと思いますね。結構マンガの世界ででも、早成タイプの天才は10代でデビューしてたりするんですよ。そこを見ちゃうと「あ、もう20歳になっちゃったからだめだ〜!」って思うけど、40歳くらいでデビューする大器晩成タイプの人もいなくはない。先延ばしでも良いと思います。
本間 無理しなくてもいい。
佐藤 現役高校生にも聞いてみたいと思います。恵ちゃんは今高校3年生で大学進学が決まったところですが、将来の夢はありますか?
竹内 私の夢は広告クリエーターになることで、将来は商品をパッケージからプロデュースしてみたいです。
佐藤 素敵な夢ですね! ものづくりということでは、お二人のお仕事とも重なる。
北村 厳密には遠いですけど、確かに「作る」みたいなことでは(笑)。
竹内 はい。だから今、お話がとっても参考になっています。
北村 ちゃんと勉強していくと、「パッケージを作る人」はいないとわかると思います。企画する人がいたり、デザイナーやカメラマンがいたり、これからその仕事が細かく分かれることに気づいていくと思うんですよ。そうすると本当はどれが一番やりたいことなのか、見えてくるかもしれないですね。
佐藤 本間さん、同じ高校の後輩が将来広告関係の仕事につきたいということで、夢をかなえるためのアドバイス、ありますか?
本間 自分は何にも考えてなかったですからね、当時(笑)。がんばってほしいです。
北村 今、すでに目標があるのがすごい! 素晴らしい。その上で、将来広告を作るために都会的なセンスを身につけようと思っているかもしれませんが、その路線だと本当の東京出身者には勝てませんので、ちょっとね、裏技というか、ズラした方向でがんばった方が良いと僕は思います。
本間 まずは石切場とスネークセンターから。地元でネタを集めた方が多分、行った先で戦いやすくなる。
「失敗のシミュレーションは全部考える」
佐藤 あとは道半ばで嫌になってしまったり、挫折した時のアドバイスをうかがいたいのですが。ヂンさんどうですか?
北村 あまりハードルを高くしすぎない方がいいと思います。広告を作りたいとしたら、電通や博報堂に入れなかったらもう落伍者だと思っちゃうかもしれない。多分高校生くらいだと。広告代理店は死ぬほどいっぱいあるんですよ。ちっちゃなところからおっきいところまで。小さいところから世に出てくる人もいますよね。前橋出身の糸井重里さんも、別に電通・博報堂出身じゃないですから。
本間 ステップアップしてね。
佐藤 ヂンさんは仕事が嫌になっちゃったことは今までありますか?
北村 嫌になっちゃったこと(笑)。いやぁ、そりゃいっぱいありますよ。眠い、とか。
佐藤 そんな時、どう切り替えていますか?
北村 作ること自体はそんな嫌じゃない。ネタを考えるまではいいのですけど、今日雨だし、取材が面倒くさいな、とかはありますけどね。
佐藤 でもがんばってやるか、という感じですか?
北村 そうですね。
佐藤 本間さんはどうですか?
本間 嫌になっちゃったというと、ここ5年くらい嫌になっちゃっていますが(笑)、やらないとヤバいからやっています。
北村:生活的に(笑)。それはありますね。なんかゲームをリリースする時でも、記事出す時でも、毎回これ歴史変わっちゃうんじゃないかって、うっすら期待するじゃないですか?
本間 最近はもう…あきらめています。
北村 そこそこでいい?
本間 自分で考えたものは基本的に「当たらない」と思って出しています。そうすると、ちょっと気が紛れる。当たらないことが前提だと、当たったら絶対プラスになるじゃないですか。
北村 それでもやっぱり世に出して反響は見ていますよね?自分の家で何十個もゲーム作って、誰にも見せてなかったら結構ヤバい人じゃないですか。
本間 それはヤバいです。世に出さないと絶対わからないから。ぐんまのやぼうも当たると思って出してないのに当たったんで、とりあえずは世間に投げて、反応が返ってくるのを待とうという感じです。
佐藤 そういう意味でいうと、今の学生たちは失敗をすごく怖がるんですよ。失敗を恐れてやらない選択をする子が多い印象があるんですけど、その辺り本間さんはどうですか?
本間 自分は事前に失敗のシミュレーションは全部考えて、もう失敗するつもりで投げます。失敗しても大丈夫というところまで気持ちを持っていってから出すと、それ以下にならないですよね。
佐藤 なるほど。最初から失敗するつもりで自らバリアを張っておく。
本間 バリアを張っておく。ネガティブ思考なんで。学校のテストで「俺あんまり勉強してないわ」っていうタイプです(笑)。
佐藤 「全然勉強してないから」って言って、平均点とっちゃうタイプですね。ヂンさんはどうですか?
北村 他人は残念ながら、そんなに自分のことを気にしてくれていないですね。だから、ぐんまのやぼうは大ヒットしたから話題になるけど、その他の100何個のゲームについては話題にならない。僕の記事も何万リツイートもされる記事もあれば、20くらいのもいっぱいあるんですよ。そういうのが恥ずかしいと思っても、誰も見てないから大体大丈夫です。
本間 気にしなくても大丈夫。
佐藤 そうですよね。あまりに他人の目を気にしていると毎日を楽しめない。
本間 何もできないですからね。
北村 ただ今はインターネットあるからね。悪目立ちみたいなのは一生残る可能性あるから、そこは気をつけた方がいい。高校時代にTwitterがなくて心から良かったと思います。
本間 僕もなくて良かったなって本当に思います。炎上とか、そういうリスクだけは気をつけた方がいい。
北村 自己顕示欲とかいろんなものがないまぜになって、変なことしちゃうケースってあると思うんですけどね。手っ取り早く目立ちたくて、変なことをやる時はワンクッションおいて冷静に考えた方がいい。
本間 自己顕示欲は、ない方がいいですね。
佐藤 その失敗もネタにできたらいいですが。
北村 やる時はネタにできる範囲に留めましょう(笑)。
(後編に続く)
最終回は、視聴者からのQ&Aを中心にお届け。「アイデアをどうひねり出す?」という高校生の素朴な質問に対する、2人の意外な答えは必読!
(ライター:岩井 光子、撮影:大井 拓哉)
登壇者
本間 和明 「ぐんまのやぼう」開発者 ゲーム制作会社代表
北群馬郡吉岡町出身。前橋西高卒。
専門学校卒業後、ニンテンドーDSの開発などを行う会社にプログラマーとして入社し、いくつかのゲーム開発に携わる。2010年独立、スマートフォンアプリを大量生産。2012年に「ぐんまのやぼう」を公開。2019年10月28日にはシリーズ最新作「ぐんまのやぼう あなたもわたしもぐんまけん」をNintendo Switch 向けに配信。気づいたらぐんま観光特使。(現在はぐんま特使)
北村 ヂン 「大群馬展」主宰 ライター、イラストレーター
1975年生まれ。前橋高卒。
デイリーポータルZなどのウェブメディアで面白ネタから実験ネタ、ノスタルジーネタまで、広範囲の記事を執筆。仕事も趣味もジャンルの幅が広過ぎて、他人に何をしている人なのか説明するのが非常に難しい。変なスポット、変なおっちゃんなど、どーしてこんなことに……というようなものに関する記事をよく書きます。
佐藤 由美子 フリーアナウンサー/キャリアカウンセラー
NHK前橋放送局キャスターを経てフリーに。NHK、群馬テレビ、とちぎテレビなど関東のテレビ局を中心にリポーターとして活動。その後出産を機に拠点を群馬県にうつす。
5年前に自身の経験をさらに活かすためキャリアカウンセラー資格を取得。若者や女性のキャリア支援のためにセミナーやイベントを開催。
現在はラジオパーソナリティー、イベント司会、キャリアカウンセラー、講師など幅広く活動中。
一女一男の母。