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全国初「全日本eスポーツ実況王決定戦」開催。eスポーツ周辺分野は今後どう発展する?

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2021年11月28日に行なわれた「全日本eスポーツ実況王決定戦」。全国初となるeスポーツ実況者の大会で、同じく11月に群馬県にて行なわれた「U19 eスポーツ選手権2021」の採用タイトル「リーグ・オブ・レジェンド(通称:LoL)」を題材に、8名の決勝進出者が熱いeスポーツ実況を交わしました。そのレポートをご覧ください。

会場となったのは、群馬コンベンションセンター「Gメッセ群馬」。今大会は、ニーズの高まりを見せる「eスポーツ実況者」の登竜門大会として、またeスポーツに不可欠な実況者(キャスター)の発掘と活躍の場の確保を目指し開催されました。

女性実況者として唯一決勝に勝ち進んだAVEŁ選手

参加資格は、15歳以上・日本語での実況という二点のみで、プロ・アマ問わずエントリー可能。総勢52名のエントリーの中から初代eスポーツ実況王が決められます。

今回、決勝大会に進出したのは、学生からYouTuber、現役のアナウンサーまで様々。決勝大会はトーナメント形式で行なわれ、事前に用意されたLoLの対戦映像を見ながら実況をしていきます。

プレイヤーネーム”Shakespeare”として「U19eスポーツ選手権2021」に参加し、見事優勝を飾った大友美有氏も審査委員をつとめた

メインMCは、eスポーツキャスターとして活躍中の平岩康佑氏。審査委員長には、eスポーツキャスターとして活躍中の岸大河氏を迎えました。また、審査委員には太田市出身で「ゲームセンターCX」などの企画・構成に携わっている放送作家の岐部昌幸氏や、「U19eスポーツ選手権2021」優勝チーム「スターダスト田村」のメンバーでもある大友美友さんなど豪華なメンバーを迎え、初めてeスポーツに触れる方でも楽しめる大会となりました。

また試合の様子はYouTubeで生配信が行なわれ、多くの視聴者が勝負の行く末を見届けます。

今大会のタイトルとなったLoLは、マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(通称:MOBA)と呼ばれる5人vs5人の対戦型PCゲームで、それぞれのプレイヤーが「チャンピオン(=キャラクター)」を操作して相手陣地の攻略を競うものです。ゲームのルールはもちろん、150種を超えるチャンピオンの名前とスキルを覚える必要があるなど、豊富な知識が求められます。また、一瞬も目を離せないスピーディーな展開もLoLの特徴のひとつ。同時に複数の場所でバトルが展開されるため、瞬時に情報を取捨選択する判断力も重要となります。

テレビ信州アナウンサーの菅野直道選手

大会後のインタビューでは「LoLが好きすぎてN高に転校した」と語ったsyouryu選手

自分の声が武器となる実況。各選手、目の前のモニターを真剣に見つめ、個性溢れる実況を展開。声の抑揚やワードセンスも大きなポイントとなります。ただならぬ緊張感の中、自分らしい実況を目指しそれぞれが素晴らしい実況を魅せました。

4時間にわたる長い戦いの末、初代eスポーツ実況王に輝いたのはsyouryu選手!安心感のある実況と戦いの中での目覚ましい成長が評価されました。

優勝したsyouryu選手には優勝賞品として、優勝トロフィーや副賞のマイク等が贈られました。

また、準優勝の夜風選手にもトロフィーと副賞が贈呈されました。

syouryu「本当に嬉しいです。自分なりの実況を貫き通せたのが良かったです。コンスタントにフィードバックを自分に活かすことが難しかったので、今後活かしていきたいと思います。最高の1日になりました。ありがとうございました」

普段はYouTuberとして活動する夜風選手

夜風「素晴らしい大会に参加させていただきまして、ありがとうございます。ここ2ヶ月間はこの大会のために生きてきた、くらいの意気込みでやってきました。企画、運営、主催、応援、選手、そして視聴者の皆様、このような機会をいただきありがとうございました。準優勝という結果については、力不足に尽きるので、『初代準優勝』というのも誇りに思って活躍できるよう、精進していきたいと思います。ありがとうございました」

また、各特別賞として賞状と副賞が受賞選手に贈呈されました。

締めくくりには、大会を通して審査委員長の岸大河氏より参加選手へエールが贈られました。

岸「実況をやっていて良かったなと思うような瞬間でした。新しい世代がどんどん湧き出てきているのを実感して、なんとか道を作っていった甲斐があったなと思いました。これからeスポーツの実況者という役割をもっと大きくしていくために、若い子たちに切り拓いていってもらいたいですね。より先を見据えて、これからも実況を頑張っていただきたいと思います。また、みなさんと共演できることも楽しみにしています。ありがとうございました」

全国初の実況者No. 1を決める大会となった全日本eスポーツ実況王決定戦。大会の様子はYouTubeでアーカイブ配信されていますので、ぜひご覧ください。

インタビュー:今大会とこれからのeスポーツについて

また、eスポーツ事業を展開する株式会社TechnoBlood eSportsの代表を務める森島健文氏に「これからのeスポーツ業界」や、実況をはじめとする「eスポーツ周辺分野の発展」についてお伺いしました。

ー森島さんは、「eスポーツ」という言葉が広く知られる前から活動を行なってこられましたが、当時のeスポーツ業界はどんな様子だったのでしょうか。

森島氏:私がeスポーツに関わるようになったのは2014年頃からです。その頃はインターネットカフェにゲームを提供する仕事をしていました。その時に、ゲームメーカーさんから「インターネットカフェを使用してゲームの大会を開催したい」と依頼されて。それをきっかけにeスポーツに関わるようになりました。そこからゲームメーカーさんやプレイヤー、実況の方たちと全国を回って活動してきたことが、今に繋がっているように思います。

ー「eスポーツ実況王決定戦」という大会が開かれると聞いた時の率直な感想は?

森島氏:非常にチャレンジングだなと思いました(笑)が、もちろん注目はしていましたね。どういう風にやるのかな、というのも興味があって。実際大会が行われてみて、「ちゃんと大会になるんだな」と思いました。

ー大会を通しての感想を聞かせてください。

森島氏:率直に楽しかったです。一つのタイトルに対して様々な経歴を持つ人が集まってゲーム実況を行うというのは今までなかったので。他のタイトルも見てみたいなと思いました。「大会」となると公平性が重要ですが、今回のLoLというタイトルは少し特殊だったので、LoLに詳しい人の方が有利になってしまう。ですから、それぞれが今回とは違うタイトルで実況を行なったらどうなるのだろう……ということは気になりますね。

ー群馬県は、本大会以外にも県全体としてeスポーツに力を入れていますが、自治体としてeスポーツ事業を行うということに対してはどんな印象でしょうか。

森島氏:地方活性化や地方創生のためにeスポーツを行う自治体は増えていると思います。ここ1、2年で特に広がっているように感じますね。これから各地方のリーグが盛り上がってくると、日本のeスポーツ全体が盛り上がってくると思うので、今後が楽しみです。

ー群馬県のeスポーツをもっと盛り上げるために、こんなことがあったら良いんじゃないか、などアドバイスがあれば教えてください。

森島氏:eスポーツのタイトルは流行り廃りが早く、半年や1年経つと「流行りのゲーム」でなくなってしまうことがよくあります。ですから、行政がeスポーツに取り組むとしたら「いかにスピーディに実行できるか」が鍵になってくるように思います。また、そこに住む「地元の人たちをどのように巻き込んでいくか」も重要かなと思います。市民のスーパースターを作るというか。地域の文化に落とし込むことができれば、より良いのかもしれません。

ー最後に、eスポーツ関連業界のこれからについてお聞かせください。

森島氏:eスポーツが若者へのリーチを行なう手段の一つになってきています。ですから、様々な分野で「eスポーツで何かしたい」と考えている企業はとても多いんです。それに対して、私たちは何ができるかをまさに考えているところです。

また、プレイヤーや実況だけでなく、いわゆるカメラマン(オブザーバー)の育成にも力を入れていきたいですね。eスポーツカメラマンは、プレイヤーをそのまま映すのではなく、「ゲームのどの部分を映せば視聴者が理解しやすいか」を考えながら実践する技術も必要になります。「ゲーム内戦場カメラマン」という表現だとわかりやすいでしょうか(笑)。試合展開を先読みしてあらかじめカメラを移動させておく……といったスキルが必要になることもあるので、需要はあるけれども人材が少ない状況です。「オブザーバー選手権」などがあっても面白いかもしれませんね。

eスポーツ実況者の世界

さらに、実況王決定戦の開催に先駆け、当日のMCも務めていただいた平岩康佑氏をお迎えしてのトークセッションも行われました。その様子も一部ご紹介します。

ー平岩さんは朝日放送にアナウンサーとして入社後、プロ野球やJリーグ、箱根駅伝などの実況を担当。そして退社後「株式会社ODYSSEY」を設立。平岩さんはなぜ、eスポーツアナウンサーになったのでしょうか。

平岩氏:一番の理由は、「ゲームが好きだったから」ですね。アナウンサー時代から、休みの日は14時間くらい家でゲームをやっていました。

2017年の冬くらいにeスポーツが海外ですごく盛り上がっているとゲーム好きな仲間に聞いて。気になって放送を見たら、予想通り実況者がいたんですよね。「これは自分でもできそうだし、何よりも自分がやりたい」と思って、現地へ実際に観に行きました。その時に、場の雰囲気が他のスポーツとは違う、感じたことのないもので。まず観戦している人たちが、サッカーや野球を見ている人たちとは違う層なんです。でも、普段スポーツ観戦をする人たちでなくても、声出して腕を突き上げて熱狂する、応援する、という欲望があったんだなと感じて。日本でもこの景色を実現したいなと思って、帰国した次の日に辞表を出してeスポーツの道へと進みました。

ー悩みや不安のようなものはなかったのでしょうか。

平岩氏:全くなかったですね。周りはすごく不安視してましたけど。でも自分の中では、「とにかく早く辞めないと、誰かに同じことをやられたら第一人者になれない」ことの方が怖かったんです。

ー当時はまだ、eスポーツという分野の知名度がまだ高くない時期だったと思いますが、周りの反応はどんなものだったのでしょうか。

平岩氏:ゲームの実況をしますと言った時には、怪訝な顔をされました。退職の報告で同僚に話したり、家族に話したりしましたけど、みんな「はてな(?)」が頭の上に浮かんでいる感じで。最初は不安になったことも多少ありましたけど、みんなが同じ反応だったので、逆に自信につながりましたね。「みんなが気づいてないものをやるんだ!」という。新しいことに挑戦することはそういうことだと思うんですよね。だからeスポーツにはまだたくさんの可能性があるんだと自信になりました。

実況者の登竜門のような大会に

ー決勝大会にはどんなことを期待しますか?

平岩氏:ここからいいキャスターが出てきて、いろいろな大会で実況してもらえたらそれが一番いい展開なんじゃないかなと思います。コロナ禍が起点となって、今までゲームに興味のなかった方もeスポーツに触れる機会が増えて来ました。これから色々な分野に波及してeスポーツの業界全体が盛り上がってくることも予想されますので、eスポーツ実況者の起点となる大会になるのではないかなと思います。

(ライター/撮影:合同会社ユザメ 市根井 直規)