- REPORT
「学びを通して地酒の魅力を若者に」─群馬の「地酒業界」の未来を照らす動画コンテスト
上毛三山をはじめとする山々に囲まれた群馬県。県を包む豊かな自然からは水や米などの資源が生まれ、これまでに様々な食文化を育んできました。
その中でも、いま、製造者たちの挑戦的な姿勢で盛り上がりを見せている分野が「日本酒」。地域に根付いて製造・販売されているものは「地酒」と呼ばれ、そのクオリティは県内・県外に関わらず高く評価されています。
しかし、人口減少や若者のアルコール離れなどの影響は免れず、業界全体としては国内市場の減少が続いています。そんな状況を打破するため、「群馬SAKETSUGU」と群馬県がタッグを組み、コンテストを開催しました。
コンテストには県内の6つの大学から合計11チームが参加し、「コンセプトの理解度」や「動画の視聴回数」等の複数の審査基準で評価され、去る11月27日に受賞チームが決定しました。
本コンテストの企画者は、群馬県の地酒業界を盛り上げる「群馬SAKETSUGU」代表の清水大輔さん。彼はどうしてこのような企画を立ち上げたのか、これによって何が生まれたのか、そして群馬の地酒業界の未来について。秋の日ざしのもと、前橋公園でじっくりお話を伺いました。
「良いものをちゃんと買いたい」若者のニーズに沿った方法で
─コンテスト企画のきっかけを教えてください。
「群馬の地酒業界の衰退を止めたい」と思ったから、ですね。10年前、私は県庁職員として県内の酒造を担当していました。その時に現在も付き合いのある蔵元さん達と出会って、「みんなチャレンジングで魅力的だな」「すごい人たちだな」と思って。ここから、地酒業界は盛り上がっていくんだろうな……と勝手に楽観視していたんです。
でも、いざここ数年の統計を見ると、国内市場の減少が止まっていなかった。それに愕然としてしまいました。
─現在の群馬の地酒業界は、どんな状況なのでしょうか?
「日本酒好きの方」が継続的に飲んでくださっていることによって成り立っている状態ですね。たくさん飲まれる方が県民1人あたり消費量の数人分、もしかしたら数十人分を背負っているというか。
ですから、業界としてはとにかく新規ファンを増やしたい状況なんです。これまでビールやリキュールだけを飲んでいた方に、「たまには群馬の地酒でも飲んでみるか」といった気持ちが芽生えることを目指して活動していく必要があります。
─今回のコンテストのターゲットは「若者」ということですが、その理由を教えてください。
これまで、若い方がお酒を知る機会は、家族や地域行事、職場の先輩・上司からが主流だったのかもしれませんが、今はそうではありません。
これは情報としてキャッチしていたことですが、今の若い世代は地域の伝統や文化など「モノのバックグラウンド」に興味があり、その価値に納得してから消費するのだそうです。決して「安かろう悪かろう」ではなく、良いものをちゃんと買いたい、使いたいといったニーズがあるということです。
それで、今回も「学び」を通して地酒のストーリーに出会っていただけるような企画を考えていました。
講義も、打ち合わせも、すべてオンライン。
─コンテストには複数の大学が関わっていますよね。どんなことがあったから実現できたのでしょうか?
前身として、去年(2019年)に高崎商科大学に企画を持ち込んで実現したビジネスプランコンテストがあります。これは、前田ゼミ、田中ゼミの2つのゼミナールの学生さんを4グループに分けて、いくつかの蔵元さんにも登壇してもらいながら、群馬の地酒消費量を上げるためのプランを作っていただく、というものでした。今年はそれをアップグレードし、県内の他の大学も巻き込んで大規模にやろうと考えていたのですが……。
─新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたわけですね。
そうです。しかしコロナウイルスが流行しはじめてすぐ、私は蔵元のみなさんとともに「オンラインでお酒の解説などを行うライブ配信」を始めていまして。そこで生まれたノウハウを利用しよう、と話が進み、県との共催で今回のコンテストを行うことにしたんです。
─動画制作は、すべてオンライン上で行われたと伺いました。具体的に、どんなふうに進めていったのでしょうか?
6大学、11チームに参加していただけることになり、まずは動画を制作していただく対象の11の蔵元をそれぞれ割り振りました。これまで「日本酒の広報」というものは、会って、触れて、知ってもらうのが通常でした。しかし今回はそれらを一切行わず、すべてオンライン上で進めることになります。
アサヒ商会でマーケティングをされている徳永さんにもご協力いただき、ビデオ通話で導入講義をさせていただいた後にオンライン上で顔合わせをし、そこから2ヶ月間、各々で打ち合わせを進めていただき、蔵元さんからの要望に基づいた動画を制作していただきました。
─参加した蔵元にとっても、学生にとっても新鮮な経験になりそうですね。
決してインターネットに強い蔵元さんばかりではない中、この取り組みに前向きになってくださったのは、やっぱり群馬の蔵元さんの良いところです。
また学生さんにとっては、外部の社会人、地域の経営者と出会う機会になったのではないかと思います。チーム内および蔵元のみなさんと報連相を徹底しながらミッションに取り組み、きちんと納品までする経験は貴重かもしれませんね。
これからの「お酒文化」はどうなる?
─今後、「お酒」にまつわる分野にはどんな変化がありそうでしょうか?
コロナ禍で出来なくなったこともたくさんありますが、「これまでもできたのに、やってこなかったこと」が明確になってきていると思います。
たとえば、大人数が集まって盛り上がる大宴会は難しくなりましたよね。これは寂しいことですけれど、代わりに「オンラインで行える活動」が日常的になりました。蔵元が多数登壇するライブ配信では、これまで足を運ぶのが難しかった県外の方、海外のファンも蔵元たちに「会う」ことができます。距離的に離れているだけでなく、介護や子育てなどの理由で外に出づらかった方々もアクセスしやすくなりました。
二次元上ではありますが、蔵元から直接、インタラクティブな説明を受けてからお酒を飲むという体験は可能なわけです。そしてこれは、「もともとできたけど、やってこなかったこと」ですよね。
─たしかにそうですね。この状況になって急に普及が進んだだけであって。
日本酒の蔵には発酵のための菌が棲んでいて、その環境を守る必要がありますので、「大勢の外部の方を入れての蔵見学はなるべく避けたい……」と考えている蔵元さんもいます。しかし、私1人が蔵に伺って撮影したものをYouTubeで配信することで、これまで以上に多くの方に蔵を見てもらえるんです。このように、オンラインとオフラインが適材適所でハイブリッドしていくといいですよね。
─「これから地酒を飲んでみようかな」という方々に向けて、おすすめのポイントを教えて下さい。
日本酒は、「お酒を中心に楽しい時間を過ごす」もしくは「一人でゆっくりと飲む」といったポジティブな時間を過ごしたいときにピッタリのお酒です。もちろん毎日飲む必要はありません。月に1度でもよいので、たまには群馬の地酒を飲んでみていただきたいですね。
繰り返しになりますが、ふだん日本酒は飲まないという方に、ほんの少しでも飲んでいただければ業界が大きく変わります。飲み会の最後の締めに、あるいは特別なときに、「いい地酒」と言われているものをおちょこ1杯でも飲んでみてください。まずはそんな未来を目指し、私たちはこれからも企画を作り続けます。
受賞チームインタビュー
最後に、見事コンテストを勝ち抜いた上位3チームへのインタビューをお届けします。
【最優秀賞】群馬大学 結城ゼミ(浅間酒造の動画を制作)
Q.動画制作の中でハードルになったことはありますか?
オンラインでのやり取りになるので、たとえば素材となるデータの提供をお願いしてから実際にいただけるまでに数日程度かかります。これによって制作に遅延が出てしまうことが大変でした。そのため、まずこちら側でイメージを大まかに固め、案を監修していただく形で進めていきました。
実際に制作した動画
【優秀賞】群馬大学 板橋ゼミ(栁澤酒造の動画を制作)
Q.コンテストを通して、日本酒や蔵元に対するイメージは変わりましたか?
今回は特に「地酒」ということでしたので、それを造っている蔵元さんとなれば、地域の素材や伝統の製法を貫き通す「ガンコ職人」のようなイメージがありました。しかし実は時代の需要に合わせてフレキシブルにお酒をデザインされていることを知り、いい意味で予想外でした。
実際に制作した動画
【特別賞】前橋工科大学 森田ゼミ(近藤酒造の動画を制作)
Q.ふだん、大学で研究していることが役に立った場面はありましたか?
私たちは都市計画なども学んでいるので、蔵元さんが拠点を置く街の歴史や交通に着目しました。街があって、人のつながりがあって、そしてお酒を作る蔵がある。その全体に目を向けて動画を制作することができました。
実際に制作した動画
コンテストに参加した動画一覧
群馬SAKETSUGUのYouTubeチャンネルよりご覧いただけます。
(ライター/撮影:合同会社ユザメ 市根井 直規)