全国群馬県人図鑑-グンマーズ-　特別エディション「教室にようこそ。スペシャルな先輩の話を聞こう・語ろうin前女編」【前編】

全国群馬県人図鑑（-グンマーズ-）は、県外に住む県ゆかりの先輩方をお招きし、母校の現役高校生も交え、学生生活と現在の仕事とのつながりや故郷への熱い思いを聞き出していくトークセッションです。

通常はオンラインで実施していますが、今回はリアルイベント初の試みとして、前橋女子高校でスペシャルトークを開催。ゲストには前女を卒業後、東京大学航空宇宙工学科、経済産業省を経て、現在はフリーランスで活動する武井亜樹さんが登場。Amazonプライムの人気番組「バチェロレッテ」3代目としてもご出演と、多彩な肩書を持つ武井さんが、人生の岐路で大事にしてきたこと、後輩たちに伝えたい思いなどを率直に語ります。

2025年3月に行われたトークのダイジェストを前編・中編・後編でお届けします。

先輩、母校へようこそ！

佐藤アナ　今日のスペシャルゲスト、武井亜樹さんを会場にお招きしたいと思います。皆さん、大きな拍手をよろしくお願いします！

佐藤アナ　早速ですが、亜樹さん。後輩たちがこんなにたくさん集まってくれたので、ぜひまずはごあいさつと自己紹介からお願いしてもいいですか？

武井さん　はい。皆さん、はじめまして。武井亜樹と申します。私は2016年度に前女を卒業して、その後、東京大学で宇宙工学を学び、経済産業省に新卒で入って、今は「バチェロレッテ・ジャパン」（※）という番組に出演したり、宇宙の仕事をしたりしてます。よろしくお願いします

※AmazonプライムVideoで人気を博した番組「バチェラー・ジャパン」の女性版。独身女性が多数の男性の中から未来の結婚相手を選び抜く過程を追う。2024年にシーズン3まで配信された。バチェロレッテは未婚女性の意。

佐藤アナ　よろしくお願いします！　亜樹さんは母校の前女に帰ってきたのは何年ぶりですか？

武井さん　卒業ぶりです。卒業が2016年度なので、8年ぶりです。

佐藤アナ　8年ぶりに戻ってきてみて、どうですか？

武井さん　変わらないです。校舎とかそのままだなと。なんか、いいですね（笑）。

佐藤アナ　当時の記憶がよみがえってきましたか？

武井さん　どうでしょう？　入り口からこのトーク会場までしか歩いてないので、まだないですけど（笑）。私、進路指導室とか好きでした。

佐藤アナ　進路指導室？

武井さん 　（生徒たちを見ながら）ありますよね？　職員室の向こう側に。そこが好きでした。進路指導の先生がいて、本があって、ソファが置いてあって、進路相談をしに行くところです。

佐藤アナ　ちなみに、前女に通っていた頃の亜樹さんは、どんな学生だったんですか？

武井さん　私は優等生キャラではなく、結構先生と対立したりしていました。ちょっと自由人なところもあったり、あと、在学中にアメリカの高校に留学を経験したこともあって、言いたいことは言っちゃったり。そういう感じだったので、応援してくれる先生と、すっごく怒る先生と、二手にわかれる感じでした。

佐藤アナ　ちなみに、対立する先生は横に置いておいて、卒業してまだ8年ですから、もしかしたら当時の先生がいるかもしれませんよね。一番仲が良かった先生のお名前は覚えていますか？

武井さん　化学の箱田先生と、進路指導と物理を教えていらした茂木先生です。多分、私が卒業したタイミングぐらいで異動されたと思います。でも、数学の先生とか、好きな先生も結構たくさんいました。

佐藤アナ　今、ちょっと声が小さくなりました（笑）。

武井さん　いや、すみません。でもほら、全ての先生とうまくいくことはあり得ないし、特に自分のやりたいことがはっきりしてたら、合う人も合わない人もいるじゃないですか？　だから私的には数人でも恩師と呼べる先生に出会えただけでもいいと思っています。

周囲の反対を押し切って留学

佐藤アナ　先ほども自分の意見をはっきり言う生徒だったっておっしゃっていましたが、なかなか今、それができないので悩んだり、葛藤を抱えている生徒さんもいると思うんですよね。自分の意見をはっきり言うことに対して、批判が怖かったり、抵抗を感じたりしたこと、当時はなかったですか？　

武井さん　なので、結構怒られたり、私も授業態度が悪くなったりしていました（笑）。でも、高校の時からやりたいことはあって、海外に行きたかったし、理系の勉強がしたくて東京に出たかったし、そういう目標が一番大事だったから、自分の夢をあきらめるくらいなら、合わない先生がいてもがんばろうと思っていました。

広い世界を見たかったし、輝くキャリアウーマンみたいなものにも憧れていたし、自分もそうなりたいなと思っていました。

佐藤アナ　それを実現するために高校時代に力を入れたこと、がんばったことはどんなことですか？　

武井さん　まずは絶対英語を話せるようになりたかったです。語学を学ぶのは早ければ早いほど良いと言いますよね？　だからなるべく早く留学に行こうと思っていましたし、理系で東大を受けようとも思っていました。でも、東大の理系志望で留学に行く人は少ないんですよ。やっぱり理系の勉強から1年外れるのは、あり得ない選択みたいで。

佐藤アナ　リスクが高い。

武井さん　そうです、そうです。特にアメリカの高校へ行くと遊んでしまう人も多いので、「留学は受験が終わってからでもできる」と言われましたが、私は絶対英語を話せるようになりたかったから、周囲の反対を押し切って行きましたし、あとは東大の理系を受験する人も少ないので、自分で考えて対策を練らなきゃと思っていました。

佐藤アナ　相談は主に誰にしていましたか？

武井さん　それが、先ほど名前を挙げた化学の先生と物理の先生で、その2人の先生の教え方がすごく私の中では合っていて、だからしょっちゅう相談していました。過去問対策をしてもらったり、あとは青本でしたっけ？　過去問が掲載されている青い本（※）で試験勉強していました。

※東大など難関校の過去問を掲載した駿台予備校（駿台文庫）の問題集。赤本は数学社が版元。

自分が好きなことを武器に

佐藤アナ　ちなみに、今日集まってくれた生徒さんたちが現時点で理系なのか、文系なのか気になるので、ちょっと聞いてみてもいいですか？　理系志望の人、手を挙げてもらえますか？　（過半数の手が挙がる）

武井さん　半分くらい？

佐藤アナ　次に文系の人。（何人かの手が挙がる）　あ、文系の方が少ないんですね？
私、個人的に理系がダメなので、理系の勉強のどんなところに魅力を感じていたのかが、気になります。

武井さん　宇宙が好きだったので、宇宙のことを知るのがすごく好きでした。物理とか数学を解ける人が周りに少なかったから、解けることもうれしかったし。

でも、高校の時はそこまで考えていませんでしたが、社会人になると、数学や物理が得意だったり、あとは、パソコンのことが少しでもわかっていると全然仕事の幅が違ってきます。今、宇宙の仕事をしていますけど、理系の勉強をやっておいて良かったなと思います。

佐藤アナ　宇宙が好きだと気づいたのは、いつ頃でしたか？

武井さん　小さい頃に星空を見てきれいだなぁと思って、そういう結構簡単な理由です。

佐藤アナ　多分、たくさんの人が星を見てきれいだなぁと感じると思いますが、そこから詳しく、さらに突き詰めて勉強しようと思う人は限られてきますよね。亜樹さんはなぜ、もっと深く知りたいと思ったのですか？

武井さん　「好きこそ物の上手なれ」ということわざがありますよね。やっぱり自分が好きなものとか、気づいたら一番時間を費やしているものが、人より得意なものだし、秀でてるものだと思うんです。

そういうものを武器にしていった方が、キャリアとしてもより強くなるし、より成功できるし、より高みに行けると思うんですよね。だから、あえて周りと同じことをしたり、自分の好きなことを押し殺すのはすごくもったいない。

佐藤アナ　高校3年間の中で、進路がブレることはありませんでした？　

武井さん　ありました。英語が好きで、海外が好きでしたから、もっと英語を勉強できる学部に行こうかなとか、文系もいいなぁと思った時期もありましたけど、そこは流れもありました。

私、東大推薦入試の1期生なんですけど、航空宇宙工学科の推薦入試の募集要件がちょうど私に合っていたんです。工学部の他の学科の要件は全然合わなかったんですけど、航空宇宙工学科だけ応募できた。そういういろんな流れも相まって行きました。

佐藤アナ　もしかしたら、縁もあったかもしれないですよね？

武井さん　絶対あると思います！　ちょっと話は広くなりますけど、人生の中で運命とか偶然が積み重なって流れが来ていると感じることって誰にでもあると思うんですよ。そこに乗ると飛躍できるし、思いも寄らないところに行けたりするから、そういうアンテナは張っていた方が良いと思います。

私の場合は東大受験だったんですけど、最近やたらに東大情報が入ってくるなとか、ことがうまく進んでいると感じる時、波に乗ってみることはすごく大事。

佐藤アナ　流れに逆らわずに乗る。

武井さん　そうですね。周りに逆らわず従順でいることとはまた違う感覚なんですけど、そういうセンサーを持っておいた方がいいと思います。

佐藤アナ　そういう意味で普段から心がけていることはありますか？　

好きなことや得意なことを声に出して言うようにしています。宇宙が好きとか。実は私、5月に自伝を出版するのですが、ずっと前から「本を書きたいです」「書くことが好きです」と言っていました。そうしたら、思いもよらない形で出版の話が舞い込んできました。

佐藤アナ　今日参加してくれている生徒さんの中にも、もしかしたら東大に行きたいとか、将来こんな職業に就きたいと、夢を持っている子もたくさんいると思いますが、そういう夢も内に秘めず、積極的に言葉にした方が良いですか？

武井さん　例えば、私が「東大に行きたい」と周囲に言っていれば、聞いた誰かが、「東大のオープンキャンパスがあるらしいよ」とか、「東大生の友人がいるから紹介しようか？」とか、声をかけてくれたりしますよね？　声に出しておくことは大事だと思います。

力を出し切ればすがすがしい

佐藤アナ　現実問題として東大に行くとなると、受験勉強もある程度戦略的にやっていかなければならないところはあったと思いますが、勉強はどんな風に進めていきましたか？

武井さん　もう8年前のことなので、あまり覚えていないです（笑）。でも、ここで手を抜いたら後悔すると思ったので、辛いとか、疲れたとか、苦しいとかは許さずに、受験勉強も1年だし、と思ってできることは全部やりました。

私がアメリカ留学から帰ってきたのが2年の3学期で、残り数カ月と3年の1年間が残っていたので、そこで受験勉強しました。みんなと同じことをしていたら受からないと思って、自分なりのプランを立てて、勉強メニューを作ったりしていましたね。

佐藤アナ　大体一日に何時間くらい勉強していましたか？ 

武井さん　そういうのは全然覚えてないです（笑）。寝ないと無理な子もいれば、寝なくても大丈夫な子もいますよね？　それは本当に人それぞれなので、自分がどんなことが得意かを考えて、どういう勉強法がいいか、研究してやるのがいいと思います。

東大に入って気づいたのは、大多数が東京の私立校出身。そういう子たちは学校に東大受験のカリキュラムがあって、それをこなせば受かるような流れになっているんですよね。でも、地方の公立高校にそんなカリキュラムはないから、自分でやらないといけない。

だから塾でも、学校の先生でも良いので、この人なら私のことを理解してくれているとか、わかってくれている先生を味方にして、試験対策も相談すると良いと思います。

佐藤アナ　これから進路を決める彼女たちに、これはやっておいて良かったと思うことを一つ聞きたいです。

武井さん　個人的にはアメリカに留学したことがすごく良かったです。留学で英語がしゃべれるようになったので、東大の受験でも英語はほぼ勉強してなくて、模試で満点近くとれました。

佐藤アナ　すごーーーい！！！

武井さん　でも、英語だけですよ！　それ以外は全然追いついていなくて、模試でもBとかD判定でしたから。

佐藤アナ　ちなみにここだけの話、当時何校くらい受けましたか？　

武井さん　私は推薦入試で受けたので、推薦の合格通知が来たタイミングが、東大の二次試験の2週間前ぐらいでした。上智、慶応、早稲田、東大に出願しましたが、結局、他に受験したのは上智だけでした。

佐藤アナ　なるほど。受験勉強で本当に辛い時をどう乗り越えたか、皆さんにアドバイスするとしたら？

武井さん　一番は、これをもう1年やりたくない、みたいな。今、出し切れるものは全部出し切る。例えば、受験1年目にちょっと気を抜いちゃって落ちたとしますよね。でも、もし全力でやって受かったら最高だし、落ちたとしても、いや、もう全力でやったから、あと1年浪人しても受かりませんという意味で、すごくすがすがしい気持ちになって、その時に受かった一番良い選択肢で進学できると思うんですよ。

私はそういう状態にしたかったから、絶対に力を出し切ろうと思ったし、辛くてもやり切ろうと思っていました。

佐藤アナ　自分の中でやり切ったと思えるかどうかが大事ですね。

武井さん　そうですね。でないと一生後悔すると思うし、もうちょっとがんばったら行けたとか、言ってしまいそうだし、思ってしまいそうですよね？　

佐藤アナ　限界値は人によって違うかもしれませんが、それぞれが自分のベストを尽くして、やり切ったと思えるところまでがんばる、力を出し切ることが、後悔のない進路選択というか、受験との向き合い方になるのかもしれないですね。

武井さん　そうですね。全力を出し切った経験は、自分の自信にもつながります。そうすると、もっと自分のことを好きになれるし、もっと大きいことに挑戦してみようかな、とも思えてくるんですよね。だから、辛くてもがんばり切ることが大事だと思います。

（中編に続く）

東大での大学生活、経産省を1年で辞めたいきさつは？そして、バチェロレッテ出演から今後の夢まで、武井さんのお人柄が伝わる興味深いエピソードが続きます。

ライター・岩井光子　写真・市根井直規