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【リトリート分科会】地域資源を生かしたリトリートが切り開く観光の未来とは

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 コロナ禍において、観光のスタイルは大きく様変わりしています。特に近年は、日常から離れて心と体を癒やす過ごし方「リトリート」が新しい観光のキーワードとして注目を集め、群馬県ではリトリートの聖地化を目指して今まさに始動したばかり。

 この分科会では、観光ビジネスに長く従事し、現在は明星大学経営学部特任教授である田原洋樹さんがモデレーターを務め、登壇者には森と共に豊かな未来を創るにはどうするべきかをビジョンに掲げ、心の健康と森をテーマに活動する一般社団法人森と未来の代表理事の小野なぎささん、18歳からバックパッカーとして世界を旅し、現在は長野県高山村にて旅館を経営する株式会社ビズユナイテッド 代表取締役の宮口直人さんをお迎えして話を深掘りしていただきました。

コロナ禍における観光スタイルの変化

田原:リトリートについて深掘りしていく前に、広く観光について話していこうと思います。観光産業に対してコロナという大きな壁がこの2,3年立ちはだかりました。コロナ前と今のコロナ禍において、観光のスタイルがどのように移り変わってきていると感じられますか。

宮口:私は旅館やホテルの経営に携わっていますので、宿泊施設の立場からお話をしたいと思います。宿泊業で働く者にとっては、コロナ禍で外に出ることすら憚れる中、これから私たちはどうやって生きていけばいいのか、どうやって働けばいいのかと不安に感じる時期がありました。特に、2020年5月、多くの旅館が休館を余儀なくされた時です。その後、GoToトラベルや全国旅行支援などのキャンペーンが実施されて、そこから今のような状態が続いています。このような中、旅行者が二極化していることを感じます。一つのお客様層は、継続的に旅館に来ていただいているお得意様やリピーターの方々です。この方々は今日のテーマであるリトリートのターゲットになるのですけれど、私たちの旅館が無くてはならない存在という風に捉えて、どのような時にも来ていただいているお客様層です。

 もう一つお客様層は、旅を純粋に楽しみたいという方々で、ボリュームも数多くいらっしゃいます。コロナ前のように、旅を楽しみたい、温泉に入りたい、交流を楽しみたいというように、旅行そのものが持っている非日常感を楽しみたいという方々です。このような顧客層の二極化がこの後の旅のメインストリームにどう影響するのか、アフターコロナで私たちが考えるべき大きなテーマであると感じています。

田原: 二極化していると。一つは今まで通りの観光スタイル、もう一つはライフスタイルに密着するような。最近、ワーケーションという言葉もありますけれど。旅館経営をされているからこそのリアルなお話でしたね。

小野:私は森林浴をテーマに、森に人をご案内しています。実体験として、コロナ前は自然が好き、山登りが好き、アウトドアが好きといったアクティブな方のご相談が多かったのですが、コロナ禍で問い合せが多かったのは「森に連れて行ってくれませんか」というひしひしとした叫びとでもいうのでしょうか。東京の狭いマンションのワンルームで、ずっと隔離が続いて子どもは泣き叫ぶし、ストレスがたまって森に逃げ出したいという方ですね。密を避けて自然の中の開けた空間に行きたいという、やはり人がいると不安だったんでしょうね。

 あとはコロナ禍で、これからどうやって自分の人生を生きたらいいかと考えた時に、どんな仕事をしていても自然と関わりのあることがしてみたいという人が結構増えたような気がしています。旅行も、そこでゆっくり過ごすというか、暮らしの一部として旅行を取り入れる方がいるんだなと最近感じました。

リトリートの可能性

田原: それでは、本題のリトリートについてお話をしていきましょう。群馬県で取り組むようになった背景ですが、令和4年2月4日の臨時記者会見で、山本知事が2040年の近未来構想に対し、その一つの柱としてリトリートを推進し、群馬をリトリートの聖地にしていくと述べられました。県のトップがリトリートを発信しているのはおそらく群馬県だけだろうと思います。

 ちなみにリトリートという言葉の一般的な定義としては、「仕事や日常生活から一時的に離れ、疲れた心や体を癒やす過ごし方」ということです。もともとの語源は「退却」「撤退」という意味らしいのですが、そこから派生して「隠居」「隠れ家」「自分だけの空間」「自分だけの時間」「癒やし」「非日常」など、かなり多様な解釈があるようです。このリトリートに切り込んでいきたいと思うのですけれど、観光スタイルが変化しているという話がお二人からありましたが、この変化においてリトリートはどのようなポテンシャル、可能性があるのでしょうか。

小野: リトリートって難しいですよね。みなさん使われますか?私は「Re Treatment」という感じ。髪の毛のトリートメントのように、よりお手入れしていくイメージがあるのですけれど。これまでの観光という言葉とリトリートがイコールになるにはちょっと違うイメージがあるのですが。

 休日に地方や都心などに出かける時のこれまでの過ごし方は、朝早くこれをやって、昼食はこれを食べて、あれをやってこれをやってと滞在時間をしっかり埋めていくような形だったと思います。リトリートが普及し始めてから、滞在スタイルが心地を重視したものに変化したような。より自分がリラックスする、気持ちいい、回復する、元に戻るなどの過ごし方に変わってきたのかなという感じでしょうか。

田原: その背景には何があるのでしょう

小野: コロナの影響もありますが、デジタルの普及で情報が早いですよね。パソコンやスマホを使ってデジタルに向き合っていると、生き物である人間はちょっと疲れていると思うんですよね。その時にリトリートがあると、元に戻れるというか回復できるというか、そんな位置付けがリトリートなのかなと思います。

宮口: 観光に従事されている方に対して特に私が申し上げたいのは、ビジネス的には、リトリートは可能性しかないということです。実はワーケーションもそうです。私はオーストラリアに長く住んでいたのですが、オーストラリアでは、12月は1か月近く休むんですよ。何をしているかというと「バケーション」ですね。オーストラリアの12月は夏ですから。彼らの休み方は、場所を点々とはせずに1~3週間の滞在をして、家族や友達とレジャーを楽しんだり、お茶を飲んだり、散歩をしたり、長期滞在で自身をリフレッシュするんですね。そういったバケーションがあり、そこに、パソコンでの仕事や今のようにどこでも働ける環境があれば、いつでもどこでも仕事と休暇が同時に取れる。まさに、ワーケーションは新しい旅のスタイルで可能性しかないです。

ある調査では、ワーケーションを取り入れている企業はたった4%程度でした。つまり、まだまだ広がる余地があるのです。リトリートもそうで、「リトリートの聖地」としてやっていくということは、山本知事のようなコミットメント力があるリーダーしかまだ言っていません。つまり、これも可能性しかないので、ビジネスをお考えの方は、リトリートについて、自分なりの定義をしっかり作ってお客様に提案をしたら、「私が求めているものだ」という方々が集まってくると思いますね。

もう一つ可能性が高いのは、一人旅が増えていることですね。コロナ以前からあるシンクタンク調査では20%くらいは一人旅でした。もともとは女性の一人旅が増え始めていたのですが、昨今のコロナ禍では、疲れた40代の男性一人が多いんですよ。スーツを着て仕事帰りに金曜日に箱根に来て一泊するという感じです。一人客は効率が悪いからという理由で昔の旅館では宿泊NGでした。でも、これからは一人の方が何回も来て、何泊もしてくれれば旅館側は何も文句は言いません。温泉に入って、部屋に閉じこもってパソコンをやっているだけの方も多いですから。そういうことで、自分たちの施設として、観光の新しいスタイルを取り込み、活用・発信するのであれば、「リトリート」や「ワーケーション」という考え方はどんどん使うべき重要なキーワードだと思います。

小野: 質問していいですか。私は2015年に会社を立ち上げる前に山梨のホテルを経営していて、そこがリトリートの宿だったんですね。今おっしゃったように一人旅のニーズが増えてきて、部屋数が少ないのに一人で泊まる方はホテル的には結構損失が多いのですが、そのあたりはどうお考えなのですか。

宮口: 実はロジックがあって、稼働率や客室単価など、収益性を測る指標があるんですね。経営者の頭には一人旅行者は何となく儲からないとか、一人を受け入れたら部屋が埋まってしまうと考えてしまうのですけれど、日本の旅館の平均稼働率を知っていますか?コロナ前でも約40%です。つまり6割は空いているわけです。

そして、一人旅の利点はリピートしてくれる方がいること。特にリトリートで言えば、例えばデトックスを目的とした断食合宿は、女性が3泊、4泊してくれて、リピート率50%のところもあります。マーケティング的に言うと、新規顧客を獲得するよりも、リピーターを狙うほうが獲得の費用は下がりますよね。また、一泊よりも連泊のほうがリネンなどの洗濯物が減って、地球環境にも優しいのです。何となく一人客は儲からない、一人客は旅館になじまないといった既成概念があるのですが、このようなことを冷静に分析すると色々と新しい可能性が見えてくると僕は思っています。

非日常と日常の往還

田原: 確かに今までは温泉旅館に一人で申し込むのは気兼ねしてしまうことがありました。受け入れが多様性を持っていただけると我々も接しやすいですね。ところで、リトリートは非日常と言われます。これが群馬県にとってウイークポイントになりうると僕は思っていて。と言うのは東京から50分のこの距離感、ここで長期滞在にこだわってしまうと、月から金までは丸の内で仕事をしているのに、ずっと非日常の世界に誘うのかという話になります。ですから次に考えなければいけないのは、リトリートは非日常ではなく、日常と非日常をその地域で循環させることができるような仕組み、つまりファミリーで長期滞在する場合、教育あるいは医療・介護をどうするかという問題も出てきますよね。プラス仕事もそうです。ですから非日常ばかりではなく、日常を整えていくのがリトリートの今後のあり方ではないかと私は思います。例えばオンラインがかなり拡充してきたので、教育制度はオンライン授業が受けられる、医療・介護に関してもオンラインシステムが整ってきている、働き方もまさにワーケーションですよね。このトライアングルに観光がプラスすることでより強固なリトリート体制が組めると思うのですけれど、どう思われますか。

宮口: 確かに難しいところであって、既に話した通り、観光客は二極化していますから、いわゆる「旅行好きな方」、「日本に行きたいという外国人」などは、「非日常」を求めていますよね。たくさん美味しいものを食べて、素晴らしい温泉に入って、できれば仕事は忘れたいみたいな。これはこれで群馬県が狙えるターゲット層です。一方、そうではなく「リトリート」という新しい旅のスタイルを群馬県がどう捉えるかを考えなくてはいけないです。実は、何回も群馬県に来てもらうと、旅に求める非日常感は徐々に薄れてしまうと思うのですよね。ですから、リトリートという新しい旅のスタイルで考えるなら、単なる「非日常」を売りにした旅行では駄目だと思うのです。そうなると、群馬県は東京から近くて、かつ温泉や自然、食がある、つまり、わかりやすく言うと、おじいちゃん家、おばあちゃん家みたいな存在が良いかと。仕事が忙しいけれどちょっと行ってみたい。ネットがつながってどこでも仕事ができるから、おじいちゃんの部屋を借りてちょっとオンラインで仕事するよ。そんな感じで、そんなに非日常ではないけれど、しっかりとリフレッシュはできるから何回でも来たい。そのような非日常と日常の中間を埋める戦略のヒントが、「最高の温泉があるおじいちゃん家、おばあちゃん家」かと。つまり、それが群馬県のポジションというのはいかがでしょうか・・・。

田原: そうですね。沖縄や北海道まで行ってしまうと、仕事はいいやと忘れたくなります。でも群馬県だと帰れてしまうので日常が頭の中にありますね。まさにおじいちゃん、おばあちゃん家で少し羽を伸ばそうくらいのライトな感覚で非日常と日常を往還していくのが面白いかもしれないですね。宮口さんは以前からリトリート向けにハードな構築はそれほど要らないとおっしゃっていましたね。

宮口: 山本知事はハードもソフトも力を入れると言っているので、宿泊事業者の方はぜひ群馬県に期待していただきたいです。私が長野県でやっている旅館は築30年以上の宿で、ハードを売りにしているわけではないですし、女将は80代半ばですが現役女将です。本当におじいちゃん、おばあちゃん家みたいな温泉宿なんです。お客さんの中には、心配になって通ってくれる方やハード以外の要素、触れ合いやリラックスなどを期待される方がいるわけですね。そこにはリトリート的な要素、いわゆる非日常と日常の間くらいで自分を取り戻すということをお客様に提供できていると思います。つまり、決してピカピカのホテルや旅館じゃなくてもいいのではないかと思います。

小野: 森に人をご案内すると「ああ気持ちいい」と非日常を体験されるわけですよね。皆さんおっしゃるのは、現実に戻ってもしばらく放心状態で、東京に帰った時のギャップが激しいと。あまり非日常過ぎると、現実とのギャップができてしまう。わたしはそこまで非日常をアピールしなくても、日常の中に少し心がリラックスできる、気持ちのいい時間を取り入れることにフォーカスして、ギャップを減らすことを考えたらいいのではと思っています。私自身はなぜ東京に戻ってもギャップを感じないかというと、行った先で関わるんです。森づくりに関わってみたり、地方の方と畑作業をしてみたり、何か関わりを持つとそこは非日常ではなくなり、感覚的にはリラックスできる。お客さんとしてだけでなく、ちょっと関わってみるということをやってみるのもいいかもしれないですね。

田原: 関係人口という言葉をだいぶ聞くようになりましたがまさにその概念ですね。今までの交流人口は観光客がレジャーや消費で地域を訪れるけれども、地域になんらかの接点を持つことで、地域の人と交流するとか、地域の産物に関わっていく、それが言うなれば地域の日常に溶け込んでいく感じですね。

群馬がリトリートを推進するにあたって

田原: そう考えると日常生活に密着した形のリトリートは群馬版リトリートと言ってもいいかもしれません。首都圏に近いけれど、非日常も味わえて日常にも触れられる。この地の利を生かして、新たなリトリートとしてやっていけると思うのですが、ほかの地域でリトリートはどんな取り組みをしているのか調べてみました。古くは2007年に山梨県の北杜市が長期滞在型リトリートの森宣言を高らかに市長がされたわけなんですね。もう15~6年前のことですが、やはり継続するのが難しいのかなという印象です。コロナ禍でいうと、広島県福山市ここが備後圏域でのリトリート型ワーケーションモニターツアーをやっているんですね。群馬と同じような距離感で大阪のオーベル層をターゲットに1泊2日の週末リトリートなんですね。長期型を狙っていく群馬県とは違うんですよね。

では、群馬県は今後リトリートを推進していくうえでこれがハードルになるだろう、あるいはこれはフォローのウイングが吹いているんじゃないか、そのあたりはいかがですか。

宮口: 群馬県の課題の一つはライバルが多いことかなと思います。私がいる長野県ですとか、隣の栃木県や伊豆・箱根のような温泉地など、ライバルはたくさんいます。ライバルが多い中で群馬県版リトリートは何なのかをしっかりと定めて、どういう風にオール群馬でまとまるか、また、自分たちでこういうものをやっていくというメッセージを明確にして、皆さんが一番目を向けている首都圏のターゲットである方々、例えば、癒されたい方、長期滞在のグローバルノマドワーカー、インバウンドの方でもいいですが、そういった方々にわかりやすくメッセージを伝えて他のライバルと差別化を図っていくこと。ここが一番の課題であり、取り組むべきところという気がします。

小野: 私たち東京都民からすると群馬県は水の源なんですね。我々は利根川から水をいただいています。皆さん山へ行って湧き水があった時にどんな気持ちになりますか?いつも水を飲んでいるのにすごく有り難い感じがしますよね。誰にでもこの場所を教えたいと思うでしょうか?多分わかっている人だけに来てほしいと思うんですよ。

 リトリートで私が群馬県はこうするといいなと思うのは、わかっている人に来てもらう。わかっている人というのは、湧き水があった時にこの水を50年後、100年後どうしたいのかというのを群馬の方々がきちんと考えたうえで、それを伝えていく。群馬はこういう場所にしたいんだというのをわかったうえで来てもらう。

 今はいろいろな旅のスタイルがあります。環境に特化した旅行も増えていて、車を使わず自転車や歩きでといったツアーは海外にたくさんあって、やはりこの地はどういう土地で、東京から近いがゆえにどういう風にしていきたいのかを発信しながら、みんなでこの水を大事にしていく…。そんなリトリートのスタイルができればいいのかな。おそらく、この豊かさが見えていない方も多いのでは。とても貴重な水源がある場所だということを…。

田原: 意地悪な質問ですが、わかってもらうようにするにはどうすればいいでしょうか。一昔前は環境プロモーションと言って旅行代理店を回ったりしましたが、小野さんの提案はそれとは対局にあると思います。本質をわかってもらうために我々は何をしていけばいいですか。

小野: 我々は相手にどう過ごしてほしいというよりも、自分たちがこの土地をこういう風に守っていきたい、こういう風な環境を残していきたいということをきちんと発信する必要があると思います。リジェネラティブなツアーとか、旅するごとに環境がよくなるみたいなツアーが流行っているように、そこに共感して来る方が増えています。

観光が変わろうとしている

田原: 私が先日取材させていただいたハワイは今、レスポンシブルツーリズム(責任ある観光)でやっていくと。観光客が来て、食い散らかしてゴミをまき散らして帰っていく、こういう観光スタイルはもう終わりにして、ポストコロナは責任のある観光へ。ハワイがそう宣言をすること自体が衝撃的でした。観光客にとってハワイは一大消費地じゃないですか。そうではなく、本質を理解している観光客しか受け入れないというのはものすごく勇気のあることで、ある意味今までとの決別宣言をされたのではないかと思っています。このあたりどう感じますか。

宮口: そうですね。レスポンシブルツーリズムは必須の要件ですよね。それは観光公害、オーバーツーリズム対策もしかりです。旅の恥はかき捨てという考え方は今後あり得ないわけです。一方、サスティナブルツーリズム(持続可能な観光)というのは、デストネーション側で必要な要件です。ですから、観光客側のレスポンシブルツーリズムとデスティネーション側のサステイナブルツーリズムという、この2つが両輪でしっかり回ることが新しい観光のあり方になる。これは間違いないと思います。

小野: リトリートに来たい人がどんなところで体や心を癒やしたいかというと、やはり環境が豊かなところであり、地球に優しいところであって、美味しいものをたくさん食べて飲んで遊びたいというニーズとは違うわけですよね。受け入れる側も環境への配慮とか、こういう群馬の未来を目指していますということを発信することで、リトリートの地に選ばれるのかなと思っています。

群馬版リトリートとは

田原: 群馬県が率先してリトリートを旗印にして、新しい観光スタイルを模索していく。その時に今までは旅行会社に任せればいいとか、一部の旅館が頑張ってくれているからいいやではなくて、例えば教育の拡充であるとか、医療介護の拡充とか、働き口の確保も必要になってくるので、事業経営されている方、観光業の方、教育関係者の方も、群馬県のみなさんが主体的にリトリートに参画していくような状態が理想で、その中で我々外部人材が関わっていく。これが群馬版のリトリートなのかなと私は思っているのですが。では、最後に群馬版リトリートを一言でいうと?

小野: 難しいお題ですが、私はやはり水源地というイメージがとても強いので源に返る、根源に返るところ、やはり源を大切にしている人が来るところ。

田原: 源を一言でいうと何ですか?

小野: 根源ですね。元の状態に戻る。より健康になるというよりも疲れているから元に戻ってケアしたい、本来の自分に戻ることを求めている人が多いと思うのでやはり根源に返るということでしょうか。

宮口: 群馬県はポテンシャルしかないと思っています。私は父方が伊勢崎の出身なんです。今は片品村の村づくりをみなさんと一緒にやっていますが、群馬県は私から見たら素晴らしいところです。私は今、千葉県に住んでいるのですけれど、関東圏から見たら一番手頃にリトリートができるところが群馬県です。つまり、群馬県のリトリートは、日本一の温泉があるおじいちゃん、おばあちゃん家、これに尽きるわけですね。

田原: 私は日常と非日常を行ったり来たりできる、この街だけで東京に帰らなくても非日常も日常も味わえるエリア。これが群馬県リトリートなのかなという風に思っております。これだけ三者三様の考え方もありますので、今後みなさんで切磋琢磨して、一つのリトリートの形をつくっていっていただきたいと思います。2040年が最終ゴールだそうで、リトリートの聖地と呼ばれるまでは、あと17~18年かかるのかなという感じですけれども。今後もみなさん方のご検討を期待したいと思います。なんらかの機会があれば、また我々もお手伝いしたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

群馬県の取り組み

今まで群馬を訪れる方の9割前後が一泊旅でした。群馬県では三泊を目標に、非日常の時間を過ごしていただきたいと考えます。2時間足らずで非日常の世界に飛び込める、関東近郊の観光地という利点を生かし、温泉をフックに展開しながらトレッキング、森林浴、古民家体験、犬ぞり体験などを組み合わせた過ごし方を提案していきたい。また今年度は温泉と食、ヨガを組み合わせたリトリートマルシェも開催したところです。 

 ハードとソフトという話がありましたが、心が日常から非日常にリセットしていく入口づくりも必要と捉え、今年度、一億円を上限としたハード整備の補助事業を始めております。またソフト面では、受け入れ体制整備として、長期滞在の際の食事の提供や接客の距離感を見直したり、自然の魅力を伝えるような情報発信を行うなど、リトリートの聖地に向けて進展して参ります。皆様からアドバイスをいただければと思っております。 

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ライター: 樋山久見子
高崎市出身。タウン情報誌の編集長に就任した後、雑誌やWeb事業を展開する出版社を経てフリーランスへ転身。群馬県内を中心に新聞、雑誌、フリーペーパー、Web関連などを主軸とし、取材と執筆に明け暮れる日々を送っている。

撮影: 丸山 えり
東京都あきる野市出身。群馬県産有機野菜の美味しさに衝撃を受け、2018年前橋市へ移住。現在、群馬県高山村「在る森のはなし」経営チーム。フリーランスの主な仕事:写真撮影。その他、企画・編集・デザイン・ライティングなど。
人や風景の内側にある輝き(光)を写す写真家。

登壇者

田原 洋樹 明星大学経営学部特任教授

JTB勤務を経て、現在は株式会社オフィスたはら代表取締役と明星大学経営学部特任教授を兼務。専門は観光まちづくり、地域リーダー人材育成など。

小野 なぎさ 一般社団法人 森と未来 代表理事

森林浴の専門家として全国で森林空間利用のアドバイスを行う。これまで約2,500人を森に誘い、都市と山村をつなぐ。

宮口 直人 株式会社ビズユナイテッド 代表取締役

観光コンサルタント兼宿泊施設経営者。長野県高山村にて旅館わらび野を経営。神田外語大学・東京国際大学講師