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【Web3分科会】Web3が加速する自立分散型社会と地域の未来
群馬県が誇る名湯・草津温泉を舞台に、湯けむりフォーラム初のリアルカンファレンスイベント「湯けむりフォーラム2022」が開催されました。その「Web3分科会」をテキストレポートでお伝えします。
北爪 群馬県では総合計画ビジョンにおいて20年後に目指す姿を「年齢や性別、国籍、障害の有無等に関わらず、すべての県民が誰ひとり取り残されることなく、自ら思い描く人生を生き、幸福を実感できる自立分散型の社会」としております。こうしたなか、近年世界中が注目するWeb3、特にDAOと呼ばれる分散型自律組織の考え方を、本県が目指す自立分散型社会の実現に活かせないかと考えています。
この分科会では、Web3が加速する自立分散型社会と地域の未来と題して、そのヒントを探るべくゲストのお二人からお話を伺っていきます。
馬渕 PwCコンサルティング合同会社の馬渕です。2022年3月にMetaverse Japanという一般社団法人も始めました、120社が参加する日本最大のメタバース団体です。最近『Web3新世紀』という書籍も出しました。どうぞよろしくお願いいたします。
藤井 みなさんこんにちは、藤井と申します。日本マイクロソフトという会社で、金融機関のお客さま向けにデジタルトランスフォーメーションの推進支援をする役割を担っています。同時に一般社団法人日本ブロックチェーン協会の理事として、日本におけるブロックチェーンの社会実装を進めるための活動もやっています。今日はブロックチェーン協会のほうで取り組んでいるサステナビリティについての取り組みを中心にお伝えできればと思っています。よろしくお願いします。
北爪 ここでお二人のお話を伺う前に、群馬県のWeb3への取り組みを簡単にお伝えします。本県では2022年8月に、デジタルトランスフォーメーション戦略課内にWeb3プロジェクトチームを設置しました。このチームでは、Web3をいちはやく行政課題の解決に活用していくことで効果的に県民のみなさまの利益につなげることを目的として、先進事例の調査や、県職員の知識・理解を深めるための周知活動などを行なっています。また、デジタル月間である10月には県民のみなさんにWeb3の技術に触れていただくことを目的として、ぐんま古墳カードをNFT化して発行するなど試験的に行なっております。今後は県総合計画で掲げる自立分散型社会の実現に向けてWeb3、特にDAOの活用について検討していきます。そのためにも国内外の様々なプロジェクトに参加し、課題を見出していく必要があると考えています。
それではお二人にお話を伺って参ります、よろしくお願いいたします。
バーチャル化するインターネット、その展望
馬渕 Web3についてなんですけれども、私はインターネットに次の時代が到来していると考えています。Web1.0はPCの時代で、Web2.0はスマートフォンの時代でした。ここから先の10年何が起きていくかというと、デバイスはメタバースを体験するためのVRグラス、データはブロックチェーン、処理はAIになります。この三つの技術が絡み合って次のインターネットを拡張していきます。
みなさんコロナの時代、在宅ワークが増えて、PCやスマホに向き合う時間が長くなり、SNSの自分に意識がかなり偏っているのではないでしょうか。それは感覚がバーチャルに寄っていってるということなんです。Web1.0からWeb3への流れというのは、現実がリアルからバーチャルへと進んでいく流れです。これは止まらないんですね。DeFi、NFT、DAOというふうに金融サービス、所有権、株式会社などが、バーチャルの世界の中でアップデートされています。
メタバースの話をしていきます。なぜメタバースが広がったのか。かつてセカンドライフというのがありましたが、その時との大きな違いは何かというと、VR技術が発達したこと、デバイスの性能が格段に上がったこと、通信環境が段違いに高速化したことが挙げられます。
Web3で注目されていることのひとつに「価値の移転」があります。世界中のネットワーク上に、誰がこのデジタル資産を持っているのか書き込まれるというのがNFT=Non-Fungible Token の考え方です。例えばメタバース上で買ったアバターは、これまでは閉じられたワールドの中でしか使えませんでしたが、NFTによってワールドの外に持ち出すことができるようになった。つまり、価値の移転ができるようになった。それが、メタバースが広がるひとつのきっかけになっています。
今後10年でWeb3はさまざまな広がりを見せます。VRグラスはこの先2〜3年でかなり進化・普及すると考えられます。日本だと一家に一台あるよねというものは、1億台以上売れているというのがひとつの目安になるのですが、2〜3年後にその段階に達すると見られていて、VRグラスを使いこなすことが普通になる、メタバース生活圏というものが生まれます。その時にどのポジションにいるのかということがすごく大事なんです。その手前の段階である産業用マルチバースと呼ばれるものは、来年ぐらいから実装されます。オフィスや自治体、医療、教育分野での活用もそれに続きます。
メタバースを活用した街のブランド強化ということも考えられます。沖縄、タイ、渋谷など世界中で実証実験がされています。アバター向けのファッション事業や、メタバース上の土地の売買など、メタバースならではの新たな事業も起こってきています。文化・芸術の分野でも、様々なアーティストがVR上で展示会やライブを行っていますし、現実空間とヴァーチャルを重ねるARもよく用いられています。
メタバースのコミュニティは、視覚的なバイアスからも解放されていますし、距離も関係ないですし、体の不自由な方も参加のハードルが低い。言語の壁も超えていく。SDGsの観点からも良い面があります。
教育においては、引きこもりなども問題になっていますが、個別に教育をしていける機会がある。そして世界中のさまざまなメンターや教師が参加できる。そういう環境を作ることができます。例えば高校の授業で情報が必須教科になろうとしていますが、なかなか教える教員が見つからないという問題があります。メタバースであれば、世界中の教師が参加可能です。
医療とVRというのは非常に重要なテーマで、患者・医療者・ヘルスケア企業・研究者、それぞれがVRを使って新しい医療というものを実現する可能性があります。電子カルテデータを、Web3の技術を使うことでプライバシーを保持しながら関係者間で共有する、患者にとっても大きなメリットになる。さらに、DAOを使ったバーチャル上の研究機関が作られるようなことも考えられます。
山古志村のDAO活用事例
行政による活用事例をひとつ紹介します。新潟県の旧山古志村はいわゆる限界村落で、800人しか村民がいないのですが、錦鯉のNFTアートを買うとデジタル村民になれるという取り組みを実施し、約1000人のデジタル村民が加わりました。これが山古志村DAOです。
DAO=Distributed Autonomous Organizationとは分散型自律組織と訳されます。参加者の方にトークンを配り、そこで組織がスタートする。米国ワイオミング州ではDAOは法人として認められています。日本政府でもDAOを法制化していこうという動きがあります。
山古志村ではリアル村民の方にもNFTが配られ、リアル村民とデジタル村民による総選挙で地域振興案が選ばれ、予算がつけられました。この取り組みはグッドデザイン賞のベスト100に選出されました。 横展開していくのは容易ではないのですが、新しいコミュニティづくりのヒントになりますし、デジタル村民という考え方のユニークさは共感経済ともつながりますので、ひとつの事例としては重要だと思います。
Web3とサステナビリティ
藤井 今日は私からは二つのテーマでお話しします。一つはWeb3とサステナビリティ、それを地域にどう生かしていくかというお話し。もう一つはメタバース/eスポーツを地域にどう生かしていくかというお話です。
Web3とサステナビリティについて。データの改ざんが困難である、透明性がある、P2Pで取引できるといったブロックチェーンの特性はESG(注:環境、社会、ガバナンスを考慮した投資活動や事業活動)の特にE=Environmentと非常に相性が良いです。また、Web3のトークン経済モデルは、環境に良い行動を順回転させることができます。このようにWeb3をサステナビリティに生かしていく行動を最近ではReFiリファイ(=リジェネレティブファイナンス)と呼びます。日本語で言うと「再生金融」です。
ReFiとはWeb3のテクノロジーを活用し、さまざまな形態の資本、主には自然資本を利用して、サステナブルな開発を促し、ポジティブな変化を導くこととされます。従来の金融システムでは利益を最大化するためのインセンティブが設定され、お金を道具ではなく目標としてとらえていました。これに対してReFiは、持続可能な社会に貢献する行動に対して報酬を与えるというインセンティブの仕組みです。金銭的なリターンは、重要ではあるがあくまでも副産物ととらえます。傷んだ自然などを再生していく方向にインセンティブを与えて経済を回していくモデルです。
Web3普及の大きな原動力のひとつがゲームです、ゲームを使った仕組みが世界的にWeb3の裾野を広げています。これをGameFiと呼んだりします。今までゲームを遊ぶという行為自体には、外に対する経済的価値はありませんでした。GameFiでは、ゲームが発行するトークン、暗号資産や、アイテム等のNFTのトークンを稼ぐことができます。ユーザーが自主的にコミュニティを作り、ゲームの価値を上げていくと、ゲームのトークンの価値も上がります。それを見た人たちがプレーヤーとして参入し、ゲームの裾野が広がります。このように、ゲームを遊ぶということにインセンティブを付けていくというのがGameFiの基本的な仕組みです。
ReFiもGameFiとよく似ています。脱炭素をテーマにして考えてみます。木を植えて、二酸化炭素を固定・隔離すると、環境が改善して、結果的に地域の価値が向上します。炭素を固定した分を、トークンとして発行します。そのトークンの価値が上昇し、それを売却して利益を得ることができます。すると、そういう行動に参加したい人が増え、隔離される二酸化炭素が増えて、環境がさらに良くなる。ReFiというのはこういった好循環を生んでいく仕組みです。GameFiの場合「Play to Earn プレイして稼ぐ」、ReFiでは「Sequester to Earn 隔離して稼ぐ」と言われます。
日本ではまだまだReFiの市場は小さいですが、世界ではヨーロッパを中心にReFi関連スタートアップの起業が非常に増えていて、エコスシテムが急速に拡大しています。ReFiにはさまざまなカテゴリーがありますが、それぞれのプレーヤーがバラバラに動くのではなく、ブロックチェーンで連動して動くというのが特徴です。それによって炭素プロジェクト全体が透明性と一貫性をもって行われます。
私は日本が抱える環境問題等を解決するためにReFiを大いに活用できると考えています。まず日本にはReFiのベースとなる自然資本が豊富に存在しています。それから、放置される森林、耕作放棄地、空き地などの管理・活用にReFiのアプローチが活きるはずです。さらに、一部の地域の活性化にとどまらず、地域間の連携を深めることで、ReFiのプロジェクトはスケールできるだろうと思っています。以上のような理由から、日本にはReFi活用の可能性があると考えていて、ライフワークとしてReFiの普及を進めているところです。
メタバースレーシングによる地方創生の可能性
二つ目のトピックは、少しおまけ的になりますが、メタバース内でレースをするようなコンテンツが地方創生に使えないか?というテーマです。
写真に写っているのは彦根城です。非常に美しい風景で、こういう風景の中でレースができたらと常々思っているのですが現実世界ではなかなか難しいですよね。それをメタバースの中でできないか?というアイデアです。
実在する都市や場所をメタバース化する事例は非常に増えています。レースゲームについても過去30年ですごく進化しています。現実世界と見間違うような美麗なグラフィックの中を走ることができる、臨場感溢れるコンテンツになっています。
実は私はメタバースレーシングにハマっていまして、部屋の半分以上を使ってバカでかいゲーム機とスクリーンを置いて、没入感100%で毎晩走っています(笑)。
ひとつのアイデアですが、ご当地サーキットを作ってメタバースレーシングのシリーズを作ると面白いのではないでしょうか。例えば先ほどの彦根城や、ここ草津など、名勝地をサーキットにする。ARを併用して実際の風景の中で走っている姿をスマホに映し出したり、入賞者にトークンを配布して実際に来て使ってもらったり、何より、メタバースの中に美しい景勝地を再現してそこで遊んでもらうことによって興味を持ってもらう、行きたいなと思ってもらう、そういうコンテンツができるのではないかと思っています。いずれ何らかの形をこれを実現したいと考えています。
群馬県として取り組んでいくためには
北爪 ありがとうございました。先ほどReFiのお話がありました、森林資源の豊かな本県においても、このアプローチは有効に活用できるのではないかと感じました。日本で展開していくにあたって、ここはこうしたらよいという点、不足している点などありますか?
藤井 実際に木を植えたりしているところは、森林が減っている南米やアフリカのプロジェクトが多いです。日本の場合は森林は減っておらず、管理する人の高齢化など独自の課題があります。その課題にReFiをどう活用していくかは一から考えないといけないと思います。
もうひとつ、炭素を固定した分をクレジットトークンで発行する、それを民間のクレジットと言いますが、その位置付けがまだ日本では曖昧です。そこがクリアになっていくとReFiのエコシステムはより回りやすくなっていくと思います。
北爪 ありがとうございます。馬渕様にお伺いします。先ほど山古志村の事例のご紹介がありましたが、群馬県でDAOの取り組みをするとしたら、何か留意すべき点があるでしょうか?
馬渕 一番大事なのは「DAOを使って何を実現するか」ということだと思います。山古志村の場合は「限界村落を、トークン経済を使ってどう活性化していくか」というストーリー性に共感して世界からデジタル村民が集まり、DAOの中で村が抱える課題を解決していくことに、興味を持って取り組んでいます。テーマ設定とコミュニティビルディングがうまくいっていると思います。群馬県でやる場合に、ストーリーをどう設定するのか、コミュニティをどう生かしていくのかというところが重要になると思います。
そういった意味では、先ほどのReFiとの組み合わせで、森林資源をどう生かしていくかをテーマにするのもありかなと思いました。藤井さんどう思われますか?
藤井 これからの世界では、自然資本は重要なアセットになっていきます。森林資源を豊富に抱える群馬県には、ReFiに取り組んでいただいて、可能性を追求してもらえたらと思います。
馬渕 今年開催された、ウェルビーイングやレジリエンスがテーマのカンファレンスでも話が出ていた「マイクロフォレスト」というのがありまして、小さいけれど完璧な森を作って、トークンエコノミーでばら撒いていくと。そういったものやReFiに取り組んでいくことで、たくさんの方が意味を感じて、乗ってくれて、コミュニティができる。そういうことが大事な気がするので、ぜひチャレンジしていただきたいと思いました。
北爪 今日はお二人ともありがとうございました。
デジタル化に関する群馬県の取り組みの紹介
岡田亜衣子DX推進監 群馬県では「日本最先端クラスのデジタル県を目指す」という壮大な目標を掲げていますが、目的はひとえに「県民の利便性の向上」です。この目的に向かって県庁一丸となって取り組んできました。成果として身近な例をいくつかご紹介させていただきます。
まず新型コロナウイルス感染症対策に関連し、2021年4月にワクチン接種予約システムを県が構築しました。25の市町村と共同利用し、これまで150万回以上の予約が行われております。各市町村が個別に開発する場合と比べ、費用が抑えられただけでなく、迅速なワクチン接種にも貢献できました。また、全国に先駆けて導入した「ぐんまワクチン手帳」は、39万人以上の方にご登録いただいています。「愛郷ぐんまプロジェクト」等での活躍により、落ち込んだ県内観光需要回復の一助となっています。
防災分野では、2022年6月、都道府県では初めての試みとなる「ぐんま大雨時デジタル避難訓練」を実施いたしました。これまでに15万回以上のアクセスがあり、8000件以上のフィードバックをいただいております。コロナ禍でリアルな防災訓練がままならない中、自然災害から身を守る啓発を継続できました。
これらの取り組みは、すべて群馬県の公式ラインアカウント「ぐんま県デジタル窓口」で提供しています。友達登録数は78万人以上と、成人人口の約半数にのぼります。人口比の登録数は全国トップクラスです。
続きまして教育分野です。「GIGAスクール構想」のもと、全国トップレベルのスピードで一人一台パソコンを整備し、いち早くICTを活用した授業を実施しました。また今年度からは、高校生のデジタル部活動を支援する「群馬デジタルイノベーションチャレンジ」に取り組んでおります。参加した生徒さんが「ぐんまプログラミングアワード」で複数部門で入賞するという成果もあげております。
こうしたDXの取り組みは、県だけではなく、市町村においても進んでいます。デジタル田園都市国家構想の実現に向けた取り組みを内閣総理大臣が表彰する「夏のDigi田甲子園」では、4部門中2部門で前橋市と嬬恋村が優勝、1部門で前橋市が準優勝という快挙を達成しました。
今回の分科会のテーマであるWeb3については、先進事例の調査、NFTの発行、職員向けの啓発にも取り組んでおります。
また、近年群馬県に本社機能を移転もしくは新たな拠点を整備する企業が相次いでいます。加えて、2023年にはG7デジタル技術大臣会合の開催地に群馬県が決定しました。こうした動きは最先端クラスのデジタル県を目指す上で大変な追い風になると期待しています。引き続き、市町村と協力して取り組みを進めていきたいと考えております。
登壇者
馬渕 邦美 PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員/一般社団法人Metaverse Japan代表理事/東京大学工学部産学連携協議会委員
世界No2広告代理店グループのオムニコム、Facebook Japan Director /役員を経て、2020年より現職。主な書籍に「Web3新世紀 デジタル経済圏の新たなフロンティア(日経BP社)」など。
藤井 達人 日本マイクロソフト株式会社業務執行役員/一般社団法人 日本ブロックチェーン協会 理事
IBM、Microsoftにて金融×ITを追求しその後MUFGにてフィンテック、DXをリード。またKDDI金融事業にて執行役員CDOも。現在はMicrosoftで金融DXに携わる。日本ブロックチェーン協会理事。