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群馬県官民共創ポリシープロジェクト 特定非営利活動法人ウィーログ ~官民共創で社会課題の解決を目指して~ 

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群馬県官民共創ポリシープロジェクトは、非営利団体などの民間団体に社会課題の解決に向けた提案をしてもらい、採択された団体が株式会社PoliPoliが運営する寄付基金「Policy Fund」(ポリシーファンド※)を活用して実証実験を行うものです。その際、群馬県が実証フィールドを提供するなどして事業に取り組んでもらいます。

※社会課題の解決に関心の高い企業家や財団などの寄付で設立された基金。採択団体の審査も行う。

このプロジェクトは、行政だけ、民間だけでは解決できなかった課題に対して、様々な民間企業・団体の力を活かし、官民共創で取り組んでいくための新しい「群馬モデル」です。

最終的に、実証実験の結果はフィードバックされ、提案団体の事業として本格実施したり、国や自治体に対して政策提言をしてもらい、行政が取り組みを検討することなどを目標としています。

2024年度のプロジェクトでは、応募のあった20団体の中から、「Policy Fund」の審査を経て2つの団体が採択されました。一つ目の採択団体は、特定非営利活動法人ウィーログ(ウィーログ、本部・東京)。車いすユーザーが疎外感や不安を感じることなく、まちに繰り出せるマップアプリを運営しながら、バリアフリー社会の実現を目指しています。

ウィーログは高崎市を中心に小規模店舗出入り口の段差に取り外し可能な簡易スロープを設置する働きかけを実施し、市内の21の飲食店などに協力していただきました。1年間の取り組みをリポートします。

特定非営利活動法人ウィーログについて

「特定非営利活動法人ウィーログ」は東京・千代田区に拠点を置く非営利団体。「車いすでもあきらめない世界をつくる」をミッションに、移動や日常生活に困難を抱える人たちにバリアフリーに関する情報発信を行いながら、誰もが希望を持って社会参加できるバリアフリーなまちを目指す。活動の軸となっているのが、バリアフリー情報を共有するマップアプリ「WheeLog!」だ。

バリアフリーマップアプリ「WheeLog!」概要:

・2015年Googleインパクトチャレンジグランプリを受賞し、2017年5月にアプリをリリース。ダウンロード数はおよそ10万。ユーザー登録は約3万6000人。

・車いすでも利用できる施設や周辺の多目的トイレ、エレベーター、駐車場、食事をしたレストランなどの設備に関するスポット情報(点の情報)と、そこまで車いすでたどった道のりを記録した走行ログ(GPSを使用した線の情報)からなる。これまでに記録された走行ログは約1万4000㎞、スポット投稿は6万地点にのぼる。

・「つぶやき」(ex.雨の日はどうする?)や「リクエスト」(ex.ミカン狩りに行ってみたい)、困りごとや希望を気軽に発信できるコミュニケーションツールとしての機能があり、登録ユーザー間で質問や感想などがやり取りできる。

マップ開発の経緯:

代表の織田友理子さんは大学時代に進行性の筋疾患を発症し、車いす生活になった後に結婚・出産した。子どもを連れて海水浴に行きたいと思い続けていたところ、偶然ネットで大洗にバリアフリーの海岸があると知り、家族で出かけることができた。「情報」が車いすユーザーの世界を変え、心を豊かにすると感じた自身の体験から、みんなで作るバリアフリーマップ「WheeLog!」を発案。

小規模店舗入り口の段差を解消

今回の群馬県官民共創ポリシープロジェクトの実証実験で、ウィーログは小規模店舗のバリアフリー化に焦点を当てた。店舗出入り口の段差は、車いすユーザーにとってはあらかじめ把握しておきたい情報であるが、写真情報は少なく、外出が不安になる要素の一つであるという。

改装工事をしなくても車いすユーザーが入店しやすくなる方法が、段差にスロープをかけることだ。可動式であれば、かけたり、外したりもできる。そこでウィーログは、高崎市内の小規模店舗の店先の段差に可動式スロープの設置を全額補助する事業を進めることにした。

事情は車いすの種類によっても異なると代表の織田さんは説明する。

「手動の車いすは介助者が前輪を持ち上げたりして人力でどうにかできますが、私のようなフル電動車いすの場合は重量が170kg近くあるので、抱えることは難しく、6〜7cmほどのちょっとした段差も乗り越えられません。そんな時、入り口にスロープがかかっていれば入店できるようになり、状況は大幅に改善されます。高齢の介助者の場合なども、スロープがあれば持ち上げる負担が減りますし、ベビーカー利用者も使えます」

実施に当たっては、県下のバリアフリー事情に詳しい活動団体に声をかけて運営体制を組織した。メンバーにはDET群馬の飯島邦敏さん、笑って子育てロリポップの石川京子さん、ココフリ群馬の木暮奈央さんらが加わり、毎週火曜の定例ミーティングで議論を重ねた。

スロープ設置店の調査や交渉を先頭に立って行ったのがDET群馬の飯島さんだ

前期実証実験の場所は高崎駅周辺に決まり、5月から調査や交渉を開始した。合わせて、県内外の車いすユーザーとその家族など当事者にも小規模店舗を利用する際に困ったことをアンケートで尋ねたところ、27件の回答を得た。

回答抜粋:

・友人のバースデイパーティーに車いすのタイヤをきれいにふいて入店しようとしたところ、「床が汚れて傷がつくので、車いすでの入店は一律お断りしています」と言われた。入り口から席まではって移動し、トイレも床をはって利用した。

(※当該店舗は今回の実証実験エリア外の店舗)

運営メンバーはこの回答を深刻に受け止めた。「困難に直面する車いすユーザーを支援するためにも、事業を通してバリアフリーの意識啓発を図る必要性を改めて感じました」と、ウィーログスタッフで理学療法士の杉山葵さんは言う

ウィーログスタッフの杉山さん(右)

だが、実際に調査や交渉に乗り出すと、思いのほか設置に前向きな店を発掘するのは大変だった。織田さんは、「当初の見込みでは全額補助して、出入り口にスロープを設置して使っていただく事業ですので、そこまで難しくないかなと甘い考えがありましたが、理解を促進していくことは想像以上に難しかったです」と話す。

杉山さんは、前期を終了した時点の中間報告でその理由をいくつか挙げた。まず前提として、街中にバリアフリー社会の形成に積極的に関わろうとする機運が高まっていないこともあるが、スロープ設置を手間と感じてしまう切実な理由として、小規模店舗には時間や人手に余裕がない現状があるという。また、段差が2段あってスロープをかけられないなど、入り口が設置対象外の構造の店舗も多かった。

一方、バリアフリー社会を促進させる小さな一歩として、事業の意義を理解してくれる店もあり、希望も見えた。前期は以下の9軒にスロープを設置した。

▼らーめん屋なかじゅう亭WA-FU/和蘭ししがしら/景気屋笑売ウエイブ本店/炙りや笑多田町本店/オイスターハウス/甘縁房/PIZZERIA BACI/room’s/元祖焼きまんじゅう茶々

設置後は織田さんが全店舗を訪れ、安全確認も行った。スロープの設置に際しては勾配が急になりすぎないよう建築の専門家が数値を割り出し、長さや重さを細かに調整して安全性に配慮しているという。

設置店の声:

room’s オーナー 岡田哲浩さん

「高崎市街地の課題は入り口の段差もありますが、入店後の幅や通路の動線も課題で、この3つのハードルをクリアできる小規模店舗は少ないかもしれません。うちの場合、車いすの方だけではなく、お年寄りとか赤ちゃん連れのベビーカーの方もよくいらっしゃいます。特にお年寄りは段差があると下る時が危ないのでスタッフが手を貸すこともありましたが、そういう点でもスロープは喜ばれています。車いすの方も以前はほぼゼロでしたが、月4、5人がご来店されるようになりました。少人数で回しているお店は、手が回らない事情もあると思いますが、スロープの設置は改装しなくても建物は現状のままハードルをクリアできる有効な対策の一つだと思います」

room’s入り口に設置されたスロープ

設置店の声2:

らーめん屋なかじゅう亭WA-FU

近隣には病院やケアハウスがあり、車いすユーザーも多い。スロープに関心を持って声をかけてくる人もいた、利用方法を知らせるポップなどがあるとより良いのでは。

(利用者の声)

・前回は介助者が車いすを持ち上げて入店したが、今回はスロープでスムーズに入店できた。女性介助者が一人で持ち上げることは難しいので助かった。

・久しぶりに外食を楽しんだ。スロープの存在に安心感があった。    

交流しながら考えるバリアフリー

2024年11月9日、ウィーログは高崎市総合保健センターを拠点に「街歩き」イベント(後援:高崎市)を実施。参加者はイベントアプリやチラシで公募し、県内外から福祉関係者や吾妻中央高校の生徒など約40人が参加した。

街歩きは、ウィーログが企業や自治体、市民を対象に全国各地で開催してきたイベントで、車いすユーザーと、車いすに乗ったことがない人たちが一緒に街歩きを楽しみ、出かけた場所や道程をウィーログアプリに登録したり、気づいたことを指摘し合いながら、バリアフリー社会実現に向けた課題を明らかにするものだ。今回は設置したスロープのPRも兼ねていて、全国紙などメディア取材も数件入った。

イベントはスロープ設置店に車いすユーザーが来店する機会を作り、バリアフリー対応に慣れてもらうこともねらいの一つ。当事者と直接話を交わすことで、多くの気づきがある

街歩きは車いす移動の苦労をわかち合うことばかりが目的ではない。参加者は6班にわかれて街歩きを行うが、その中で体験したことや気づきはチームの得点になり、合計点を競い合う対戦形式になっている。初参加の人もリピーターも、車いすユーザーもそうでない人も、垣根なく楽しみながら親睦を深められるよう、構成にはさまざまな工夫が凝らされている。

笑いを誘うトークで、初対面の参加者同士の緊張をほぐす司会のジョンソンさん。「こういった福祉イベントはお堅い雰囲気のイベントが多いと思いますが、私たちは楽しんでもらうことを重視していますので、MCには一生懸命盛り上げてもらっています」と織田さんは言う

高崎の街歩きでポイントに換算されたミッション

▼メインミッション:

スロープを設置した9店舗から、行ってみたい店舗を選んで、車いすで訪問する(20点)

▼体験ミッション:

・走行ログを記録する(5点)

・歩道の傾きや交差点の段差を体験(各5点)

他にトイレやエレベーターの利用、店での食事や精算など項目は20弱。

また、ウィーログアプリへの投稿(1つ5点)、(体験後に)気づきを付せんに書き出す(1枚につき2点)など

AからFまで6班にわかれた参加者は車いすの基本的な操作方法や介助の仕方、アプリにスポット投稿する際の写真の撮り方などについて説明を受けると、班内で互いに自己紹介。「リーダー」「ミッション管理人」「走行ロガー(走行ログを記録する人)」「フォトグラファー(写真を撮り、スポット投稿をする人)」などの役割を決め、さっそく街に繰り出した。

A班は歩いて5分ほどのさやもーるという商店街にある老舗の洋食レストランroom’sを目指した。車いすだと15~20分はかかる。初めて車いすに乗った参加者はタイルの歩道に「ガタガタする〜」と思わず声が上がる。

他のスロープ設置店を訪れた参加者も、まず歩道が平らでないことに驚く感想が多かった。

主な感想から:

・車いすの移動は思い通りにならないことだらけ。疲れるし、怖いし、本当に大変。

・ちょっとした段差や傾斜が意外と危険。横断歩道の周りの傾斜でうかうかすると、そのまま車道に入ってしまったり、横断歩道から歩道に上がる時の1.5cmぐらいの段差でも大変。

・傾いている道で車いすが斜めになって怖かった。

・小さな段差や傾斜は車いすユーザーの大きなバリア。介助者も車いすに乗る側も気を緩めたら、車を持っていかれてしまう。ぎゅっとリムを握ってしまった瞬間があった。下り坂も怖かった。

・運転するのに腕の力がすごく必要で、移動させようと思っても、なかなかうまくいかなかった。

・車いすで信号を横断時、渡り切れるかどうか想像以上にドキドキした。信号の残量表示は車いすユーザー、ベビーカーを押している人や高齢者にも必要では?

A班はroom’sで昼食をとりながら、飯島さんの日頃の外出事情についてなど話が弾んだ。電動車いすの装備や価格に興味を持って尋ねる人もいた。

また、車いす初体験の参加者は、苦労しながら目的の店にたどり着いた時、店のスタッフの気遣いに感激したという。

・店のドアが開かなくて困ったときにささっと店主の方が来てくれた。高崎市民の皆さんの心の優しさに随所で触れることができた。

・スロープがあるだけで車いすユーザーにウェルカムなお店だとわかって、入りやすいと思った。お店の方やお客さんも自然な感じで受け入れてくれた。周りの視線が気にならないとユーザーの方も気持ちが楽に感じるのかな、と。

・お店によって対応は違ったが、それぞれ協力的で優しかった。

・周囲が気づいて力を貸すなど、ちょっとした気づきの積み重ねがバリアの解消につながると思った。

各班はそれぞれスロープ設置店で買い物や食事を済ませ、高崎市総合保健センターに戻ると、ふりかえりの時間を持った。街を実際に車いすで移動して感じた気づきを個別に付せんに書き出した後、話し合いながら3つのポイントに集約し、まとめの一言を各班のリーダーが発表した。

個別に街中を歩いて気づいたことを付せんに書き出していく。貼り紙が付せんでいっぱいになる班も

付せんの主な気づき:

【ハード面】バスに車いすは1台しか乗車できないことを知った/(車いすで)じゅうたんの上は進みづらい/目線が低くなる/夏はキツイと思う/支払いをする台が車いすだと高く感じる/高いところにあるものに手が届かない/什器のデザインに工夫が必要/スロープの幅が狭いと手動の車いすは一人で入りにくい/少しの段差で止まる/横断歩道を渡った後、歩道に乗り上げるのに勢いがいる/エレベーターのドアが閉まるのが早い/人が多いところを通るのが大変/手が疲れる など

【ソフト面】スロープをかけてあるだけで、店側がウェルカムだとわかる/お店の人がドアを開けてくれた/お釣りは財布に直接入れてもらいたいと思った/バスの運転手が優しく対応してくれた/エレベーターを降りる時、開ボタンを押して待ってくれる人がたくさんいた/店の方が笑顔で迎えてくれて、手を振ってくれた/棚を低くしておいてくれた など

A班リーダーの太田さん。まとめの一言は「1日車いすで過ごす日」を提案したい。体験してみてわかる気づきが多かったと感じた

「車いすユーザーへの質問」という項目では、「車いすユーザーがどんな時に補助をしてもらいたいのかを知りたい」「サポートした方が良いタイミングがわからず、声かけをためらってしまう」という悩みを書いた人がいた。

この質問が出たD班の車いすユーザーは、「助けていいのか悩んでしまう人がいると知って、『あ、そうか! こういう悩みもあるのか』と私自身も気づかされました。私たち車いすユーザー側も『助けてほしい』と自分から発言し、発信することが大事だと思いました」と話す。

今川焼きの店を訪れたD班の皆さん

D班ではお互いができる範囲で歩み寄ることが大切なのではと話し合い、店舗入り口の段差だけでなく、それぞれの「心にもスロープを」をまとめの一言として発表した。車いすユーザーの女性は、「お互いが普段は口にしない思いを話せた。話す中で、スロープみたいに心も広く開いていけばいいのでは、とアイデアが浮かびました」と言う。

設置店に広がる自主的な取り組み

 後期実証実験では、高崎市障害福祉課や高崎観光協会、群馬県飲食業生活衛生同業組合からのバックアップを得て事業を進めた。

「私たちのような小さい団体が飛び込みでお願いして信頼してもらうのは難しいところもありますので、県や市からの後援があることで信用・信頼していただけるのかなと思っています。観光の観点からは、高崎観光協会さんと一緒にやることも非常に大事です。お店の入り口にスロープをつけることは、地域住民にもプラスに働きますが、県外や市外から来られる方がそのまちを好きになってくれる要素としてもメリットになると感じていただきたいので、いろんな方々と組んで活動を広げたいと思っています」(織田さん)

前期の実証実験は駅周辺の小規模店舗に対象を絞ったが、群馬県民の移動手段は実質車が圧倒的に多いことから、後期は高崎市郊外の店にも対象エリアを広げていった。

後期の設置店

▼SEEZN/シャンゴ倉賀野バイパス店/ヤキニクガーデン肉男(ミートマン)/BALInese Café, AQUA Table/たこ顔江木店カリポリ/OSTERIA36/純手打蕎麦処 真人/らぁめん味蔵/海鮮酒彩たかたん

(駅周辺にも以下の店舗が加わった)

BISTRO KNOCKS高崎店/牛タンと蕎麦の店 つゆ下 梅の花/柳川美熊野鉄板ステーキ

     目標としていた20店舗の設置を達成後は、ウィーログウェブサイトに設置店マップを掲載し、リーフレット「TAKASAKI 食べ歩きまっぷ」も作成。群馬県や高崎市、運営メンバー(DET群馬、笑って子育てロリポップ、ココフリ群馬)とも連携しながら広報活動を行った。

スロープ設置店を記した「TAKASAKI食べ歩きまっぷ」はこちらから

また、前期・後期の実証実験に関しては、スロープ設置店、利用者を対象にアンケートを実施。利用者は現在集計中で、183人(8月現在)。車いすユーザーよりもベビーカーや杖歩行器の利用者がはるかに多く、今後は設置店情報をニーズのある人により広く届けていきたいところだ。

設置店の声:

2カ月に1度、重い電動車いすで来店されるお客さまがいる。これまで注文、清算は店の外で行っていた。知り合いの前期設置店から話を聞き、設置を検討した。入店はスタッフと介助者で持ち上げて対応していたので、スロープがあると大変助かる。杖をついて来店される高齢のお客さまも多いので喜ばれると思う。地域のバリアフリー化推進のお役に立てたらうれしい。

スロープ設置店の目印となるステッカー

スロープ設置後、自主的にバリアフリーの取り組みを進めた店舗があった。車いすの重さで少したわんでしまったスロープに添木を入れて補強したり、設置をお知らせする張り紙を出すなど、それぞれの工夫からは車いすユーザーへの心配りが感じられた。

「店主さんが知恵をしぼってさまざまな工夫をしていただいたことは、車いすユーザーに対してウェルカムな姿勢を示してくださったような気がして、すごく温かい気持ちになりました。こういうお店が地域に根づいて、客層が広がってよりいろんな人に愛されてほしいと願っています。車いすで外出が難しい方もたくさんいると思いますが、迎え入れる側が共生社会実現に向けてオープンになっていけばいくほど、いろんな困難な状況を抱える方が街に出られるようになります。今回の取り組みがそういった動きの一端になればいいなと思っています」(織田さん)

ウィーログは今回の結果を踏まえ、スロープ設置事業を群馬県内はもちろん、全国的にも進めていきたいと考えている。

社会的障壁を考えるきっかけに

車いすユーザーにとって、身障者用のトイレやエレベーター、スロープなどが「ある」情報だけでは、実際に入れたり、使えるかどうかまではわからないことを、今回のウィーログの実証実験で初めて知った。入り口にちょっとした段差があれば、せっかくの設備が使えないことも多々あるのだ。

現在では、こうした障害者の通行などを妨げる社会的障壁(バリア)を取り除くのは、社会側の責任であるという考え方が主流になりつつある。「障害の社会モデル」と呼ぶ考え方だ。

今回の実証実験では、車いすユーザーが自ら“段差”という社会的障壁を多くの人に知らせたが、バリアフリー社会を築くためには、本来であれば地域側がこうした障害を取り除く行動を進んでとるべきなのかもしれない。スロープ設置のようにすぐに行動に移せることであれば実践し、取り組む地域住民がいれば支援する。地域の一人ひとりが日頃から社会的障壁を取り除くためにできることを考えていけば、良い循環が起こり、まちのバリアフリーは進んでいくだろう。まずは入り口の段差を見かけたら、社会的障壁について考えるきっかけにしてほしい。