report レポート

誰ひとり取り残さない 地方におけるデジタル化—今すべきことその先の未来


新型コロナウイルスのパンデミックにより、必要性が浮き彫りになったデジタル化。地方において、誰ひとり取り残さずに、デジタル化を進めていくにはどうすべきか。デジタル化のその先には何があるのか。

ピクシーダストテクノロジーズ(株)代表取締役CEOで筑波大学准教授の落合陽一氏、慶應義塾大学 特別招聘教授で(株)ドワンゴ代表取締役社長の夏野剛氏をお招きして、群馬県の“湯けむり”を象徴する草津温泉からお話を伺いました。

山本:今日はツルノスを飛び出して、私の生まれ故郷である草津にやってきました。今回のフォーラムのテーマは、「Withコロナの未来におけるデジタル化」。まずは夏野さんから、今のデジタル化の現状と課題、誰も取り残さないデジタル化についてお話を伺い、議論を進めたいと思います。

日本の現状と、いますぐ取り組むべき課題

夏野:コロナウイルスの感染拡大によって、日本のデジタル化の遅れに気づいた方はたくさんいると思います。感染防止のためにオンライン医療やリモートワークの推進、オンライン授業の単位認定の上限撤廃などいろいろやってきていますが、実は他国はコロナ前から当たり前にやっていたことなんですね。「うちの会社、オンラインにしたんだよ」と言うと、シリコンバレーの経営者には「そんなの、もともとやっている」と言われます。

夏野:世界的なデジタル化によって米国やフランス、ドイツなどのGDPは上がっていますが、日本は横ばいのまま。もちろん人口も寄与してはいますが、生産性を割り出すと、ほとんど変わっていないのは先進国の中で日本だけなんです。生産性が100%向上する、というのは、ざっくり言うと給料が倍になるということですが、日本はそれほど変わっていませんよね。つまり日本だけが停滞している状況です。

これは今すぐにでも動かなければいけないことです。デジタル革命に、完全に乗り遅れてしまっているわけですから。では何をすればいいのかというと、最たるものはテクノロジーの全面導入です。ところが「人のシステム」を変えないと、テクノロジーを導入しても何も変わらない。例えば人事システム、法律、規制など。政府・民間に関わらず、新しいテクノロジーに合わせて「人のシステム」をどう変えていくかが問われています。

落合:個人的には、日本のデジタル化は、回線速度や自動運転化などでもう少し進むんだろうなと思っていました。では何がボトルネックだったかというと、我々はデジタルで解決できないものを「努力と根性」で解決してしまうんですよ。たとえば稟議が回るとき、ハンコを気合と根性で集めてしまう。そんな中、コロナによって人と人が接触できなくなり、結果的に「努力と気合と根性」を効率的に防ぐことができたわけです。そしてこれからも、デジタルトランスフォーメーションが効果的に進んでいくんだろうなと感じています。

山本:群馬県は「デジタル後進県」と言われているのですが、最近はWEB会議を増やし、ハンコも撤廃しつつあります。電子決済も苦労しながら比率を上げてきているところです。しかし私は今年で62歳になる旧世代で、やっぱり人間はバーチャルだけでは生きられない、リアルでの活動もないと面白くない、と思ってしまうんです。ですから、キーワードは「ハイブリッド」じゃないかと思っていまして。群馬県は首都圏に近く自然もあって食べ物も美味しいので、こういうところに強みがあると考えているのですが、いかがでしょうか。

そもそもデジタル化とは?

夏野:実は、デジタル化というのは「なんでもデジタルでやろう」ということではないんです。現在はコロナもあり「全員がオンライン」であることがデジタル化だと考えている方が多いのですが、本当のデジタル化は、「その場にいる人と、オンラインで参加している人との差がないこと」です。政府の委員会は全てオンラインになりましたが、これによって最も喜んだのは地方から参加している方です。同じ場所に集まらなくてよいので、議論をするために時間を合わせることがすごく楽になりました。学校の教育もそうで、インフルエンザで隔離されている人も授業に参加できますよね。ですから、デジタル化=人と人の接触をゼロにすること、ではないんです。

落合:付加価値をつけるのは、リアルのほうが簡単です。たとえばオンライン飲み会ってありましたよね。みなさん一回はやったと思いますけど、いつのまにかやらなくなり、習慣にはならなかった。なぜなら、すでにアーカイブされているようなオンラインコンテンツである映画、音楽などのエンタメに勝てないからなんです。リアルの講演会なら1時間くらいは聞けるものですけど、多く再生されているTED Talkは10分くらいですよね。メディア装置を通じて入ってくる視聴覚情報はまだ限定的なので、どう組み合わせていくのかが課題です。また、現場の人を満足させながらオンラインの参加者を満足させようとするのは設計がかなり難しいので、今のところオンラインとフィジカルはきっぱり分けたほうが良いのだと思います。記録用にアーカイブするなど、補助輪として存在することはできるのですが。

山本:なるほど、ありがとうございます。続いて産業戦略についてもお聞きしたいと思います。日本のデジタル戦略がうまくいっていないということは、産業戦略としても欧米に劣っていると思うんですね。デジタルとリアルを組み合わせる戦略の中で、日本には何が欠けているのでしょうか?

夏野:決定的に問題なのは、デジタル化によって不要となった制度や慣習が放置されていることです。例えば、「新卒一括採用」って、もはや意味がないんです。よく考えれば、22歳や18歳のタイミングで一生勤める会社を決めるなんて、人間として不可能じゃないですか。これは高度成長期に出来た仕組みで、経済が拡大する中で「とりあえず人がいれば仕事は回る、仕事が回れば必ず収益が出る」という構造の中で成り立っていただけなんです。

夏野:しかしデジタル化によって、人の能力が目に見えるようになってしまった。たとえばダンスが上手ければ動画を撮って広告収入を得ることができたり、お声がかかってプロになれたりするかもしれない社会です。もはやそれが普通なんです。新卒一括採用で、35年前に入社した人でしか社長になれないというのは、完全に井の中の蛙。しかしこれを多くの企業が続けています。ですから、実はデジタル化というのは小手先の技術を入れることではなく、我々が今まで慣れ親しんでやってきたことを根本的に見直すことなんです。

山本:「新卒一括採用は古い」という言葉、胸に響きました。また年功序列ではなく、もっと幅広い視点でひとりの人間の能力を見て人事を配置しなければならないと感じました。

日本の勝ち筋とハードル

山本:日本のデジタル戦略はなかなか産業として競争力に結びついていないように感じています。日本の勝ち筋って、一体何なんでしょうか?

落合:日本が勝ちづらい原因が何かといえば、ハードウェアのエコシステムでできた生態系をソフトウェアのエコシステムに適用するのはすごく大変である、ということに気づきづらいからではないでしょうか。例えば、CD・DVD・メモリースティック・SDカード……なんでもいいんですけど、「一世代前のメディアの成功体験」を持ってるところって、産業の歴史の中で、次のメディアの登場によって負けてきてるんですよね。日本はハードウェア生産ですごく成功してきましたけど、日本型の生産体制はソフトウェア生産型の社会にやられてきた。ですから次の時代、ポスト・ソフトウェアの考え方をどうインストールしていくかが日本の勝ち筋なんじゃないでしょうかね。

夏野:その会社に長く在籍している人が、「自分の会社の価値」とか「自分のブランドの価値」をあまり認識していないことってありませんか。30年間も同じ会社にいると、「外からどう見られてるか」に鈍感になってしまうし、これまでにやってきた方法を変えるのがとても怖くなるわけですから、変革しなくてもいいかなと思いがちなんですよね。そういう組織的な問題もあります。

山本:現在、菅政権になり、デジタル改革推進の優先度が上がっています。また総理大臣が打ち出したのが規制改革ということで、河野太郎規制改革担当大臣と、平井卓也IT化改革担当大臣がチームを組んでいます。やはり、デジタル改革と規制改革はともに進めるべきですよね。

夏野:僕が規制改革推進会議のメンバーに指名されたのは、まだ安倍政権だった昨年の10月でした。菅政権になってからは河野太郎氏が大臣になったのですが、その中で劇的に変わったことといえば、大臣自らが、ほとんどのワーキンググループの会議に出てくるようになったことです。つまりデジタル改革と規制改革は、車の両輪なんです。デジタル技術をどんどん取り入れていく、その障害となるのが規制なんです。ですから、両方を同時に変えないと、本当の意味でのデジタル改革にならないわけです。

落合:僕が構成員として出席している「デジタル庁」のデジタル改革法案のワーキンググループがあるのですが、そこには自分で判断して自分でクリエイティブなものを作れる人たちが集まっていて、例えば最初に予算をつけるのではなく、まず面白いものが出てきたらそれを加速させていくような組織構造があります。そしてそこに必要なのは、面倒くさいことを引き受け、責任を持ってガリガリとプロジェクトを進めるブルドーザー的なポジションの意思決定者だと思っています。

地方化を促進する鍵は「民藝性」と「アート」

山本:落合さんは地方のお祭りにもご興味があるなど、地方にもかなり目を向けていらっしゃいますよね。デジタル化の時代に、地方はどういった強みを持てるのでしょうか。

落合:Withコロナになる前から着目してるのは、「地方による民藝性」です。柳宗悦の定義によると、民藝性とは「実用性」、「無銘性」、「廉価性」……など色々ありますが、そこに宿る民藝美を「無心の美」「自然の美」「健康の美」と説明してるんですね。そして民藝性と同時にデジタル改革や地方創生のことを考えたとき、地方の強みは限界費用が低いことだと思っていて。まずはコストが安くないと、廉価だったり労働性をともなったりする「民藝性の高いもの」を作るのは難しいことですからね。

また、グローバル化によって地方化が進まなくなるんじゃないか、という話はよくありますよね。グローバルなプラットフォームが広がり、人間の往来が激しい社会の上で「地方性」が本当に成り立つんだろうか、といった疑問。しかしWithコロナになって我々は各地方に分断され、第二波、第三波と感染拡大が意識されるたびに、ローカルの結びつきは強くなっていくような社会構造になっています。ですから、実はウイルスによってむしろ地方化が進んでいるわけです。

落合:たとえば今年のパリコレで、富士の山麓で撮影した映像を発表した日本のブランドがありました。また研究者たちによる国際会議に、彼らは自宅のリビングや研究室などのローカル性の強い環境から参加している。今までは飛行機にわざわざ乗って一箇所に集う必要があって、それがある種の均質化をもたらしていたんですけど、これからの社会ではそれぞれの地域ごとに異なる発酵性が示されることになります。これは非常に面白い展開が期待できるんじゃないかと思っています。

山本:夏野さんはいかがでしょうか。

夏野:人口が集中しているところは感染リスクが高い、という認識が人々に広がっていることに加えて、すでに多くの会社がリモートワークを導入していますよね。すると、「都市圏から人々をどれだけ受け入れていけるか」というところで地方の底力が問われることになります。たとえば高崎と軽井沢を比べたときに、新幹線の本数で言うと高崎のほうが遥かに便利なわけです。でも地方から都市部に通うことを突き詰めると、コミュニティや飲食店が充実している軽井沢が選ばれてしまう。ですから、そういった地域を作る戦略を考えることが必要ですね。地方間競争の観点から言うと、「住民サービスのデジタル化」をどれだけ進められるかが重要です。地方自治体だけでできることって、実はものすごくたくさんあるので。これは現在すでにその地方に住んでいる方にとっての魅力にもなりますしね。

また、今の地方の最大の問題点は、地方都市の姿が全国で均質化していることです。無機質で特徴のないビルが立ち並び、大きな商業施設があって同じようなものが売っている。そんな地域が生まれやすい構造が出来てしまっています。

そこで、デジタル化によって位置づけが変わりつつある「アート」が重要になってきます。これまで、アートは産業や都市計画みたいなものとは別の場所で考えられてきたんですけれど、新しい都市を作っていく上では産業や行政のあらゆる部分にアートを入れることを真剣に考えていく必要があるんです。

デジタル化によって崩れる「学校システム」

山本:夏野さんは慶応大学で教鞭をとられていますし、落合さんも筑波大学の准教授ということで、次は教育イノベーションについてお伺いしたいと思います。やはり地域・日本の将来を考えるときには人材育成が最も大事だと考えていまして、現在、群馬県でも最先端の知見を集めて教育のビジョン案を作っているところです。ぜひ、おふたりの意見をお聞かせください。

夏野:戦後の高度成長期にできた枠組みということもあり、今の日本の教育では「均一性」が非常に重要視されています。具体的には中学1年生ではこれを暗記していなければいけない、この漢字が書けなければいけない、この式が解けなければいけない……といったことが事細かに決まっていて、それをクリアしていくことが求められているんです。たとえば英語が得意な生徒にとっては中学校レベルの英語は簡単すぎるわけですが、授業や試験をスルーすることは絶対にできないようになっています。

さらに現代は「自分の好きなこと」「おもしろい情報」を見つけるのが簡単になりましたから、中高生たちは自分の興味関心を明確に抱いています。そんな彼らにとって、好きなことに打ち込む時間を奪う勉強、暗記は邪魔だと感じられることもあるでしょう。現在350万人いる高校生のうち、潜在的なものも含めると30万から50万人が不登校状態というデータがあります。つまり、仕組みが時代に合っていないんです。

夏野:それに対して我々が「N高」で行っているアプローチが、高校卒業認定の単位を取るための授業や試験をネット上で最小限に実施し、その他の時間は全て自分のやりたいことに費やしてもらうというものです。また、やりたいことがまだ見つかってない生徒に対しては、出会いの機会を提供しています。例えば投資部という部活がありまして、そこでは1人20万円を一部上場株式に対して実際に投資することに挑戦しています。またあるいは、佐賀県の呼子町に1週間滞在して、毎朝イカ釣り漁師とともに漁船に乗る授業もあります。そういった、新しい形の授業をたくさん用意することで、自由な教育を実現しているんです。

落合:デジタル化が進み、どこに行っても教育を受けられるようになったことは、非常に素晴らしいことだと思っていて。例えば、うちのゼミ生は40人くらいいるんですけど、ゼミの時間がかなり長いので全員の予定を合わせようとすると大変だったんですよ。でも、オンラインに変えてから非常に楽になりましたね。また、御朱印を集めている学部生がラボにいるんですけど、授業がオンラインになったことで、そういうフィールドリサーチ的な研究が授業を受けながらできてしまうわけです。

ただその反面、いわゆる座って受けるだけの授業というのは、ぶっちゃけ「授業が上手い先生の授業を録画したもの」を全部の大学で回して見ればいいような気もしてくる。研究のほうが向いている人がわざわざ授業をやる必要もありませんし、そういった観点だともう少しリストラを増やしてもいいんじゃないかと思うこともあります。ですから、これからオンラインベースが増える中で、学校のシステムというのがどれだけの効果をもたらすかは、まだ議論の余地があると思います。

地方プレイヤーへのメッセージ

山本:最後に、お二人から群馬県や地方に対するメッセージをいただけたらと思います。

落合:リモートで色々なことができるようになったので、近頃は都内のオフィスにいる時間を少なくして、日本の地方を巡業するような生活を送っています。その中でやはり重要だと思うのは、「都市型の時間の過ごし方じゃない時間」をどうやって知的生産の中で取り入れていくかということ。一昨日に隈研吾さんと話していて、彼も最近は地方に作ったサテライトをくるくる回っているそうなんです。まわりの美術家や建築家の方々はそういう過ごし方をしていることが多い印象です。

しかしながら「定住」となると、現地の関係人口とのより深い結びつきが必要になります。僕は温泉大好き人間なので、たとえば群馬県で温泉を使って関係人口を増やしながらアートをやるなどは非常に素晴らしいと思っていますが、そのときには現代アートでメジャーな人たちを連れてくるのではなく、より民藝的な一風変わったフェスティバルみたいなものになれば、我々が失った祝祭感を再び回復できる鍵になると思います。何かあればいつでも呼んでください。

夏野:「何かやろう」と意志を持つ人たちがいても、「うちじゃ無理だ」と最初から諦めている人が足を引っ張ってしまうケースがすごく多いのが、もったいないなあと思っていて。これからの日本は人口もマーケットも縮小して、新しいことをやらないと今までの繁栄を維持できないんです。群馬県の皆さんには、知事がこれから仕掛ける色んなことを、是非応援していただきたいと思います。なぜかといえば、人生をかけてやっているからです。人生をかけてやっている人のことを応援することによって、「群馬県でしかできないこと」ってたくさん出てくるんですよ。

僕は東京に住んでいますけど、東京が地方を搾取しているなんて全く思っていないし、地方が東京に負けているとも思っていなくて。やる気のある地方自治体がどんどん成功することが日本全体に良い影響をもたらすので、ぜひ誰もできないと思うことをやっちゃってください。それこそが最高のイノベーションで、改革なんだと思います。

山本:お二人もお忙しいとは思いますが、コロナが落ち着いたらぜひ草津温泉においでください。本日は、最高のセッションとなりました。本当にありがとうございました。

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