- REPORT
地方行政におけるDX実践:新しい公共のために
近年さまざまな分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが推奨されています。とりわけ行政府においては、人口減少や社会の多様化などの課題に対応するために重要視されており、群馬県でも『新・群馬県総合計画』において「行政と教育のデジタルトランスフォーメーションの推進」を、ビジョン実現に向けた政策の柱の一つに掲げています。
このトークセッションでは、国内外の行政・DX関係者に取材し書籍『次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』をまとめた編集者・若林恵さん(黒鳥社)、デジタル庁でプロジェクトマネージャーも務めるCode for Japanの関治之さん、群馬県デジタルトランスフォーメーション推進監の岡田亜衣子さん、モデレーターに高崎経済大学地域政策学部教授の友岡邦之さんをお招きし、地方行政のDXとこれからの公共について議論しました。
DXの背景と新しい公共
友岡:本日は若林さんが編集した『次世代ガバメント』の内容を踏まえながらお話したいと思います。若林さん、今行政のDXで問われていることとは何なのでしょうか?
若林:行政に関して歴史的な推移で言うと、「大きい政府」っていうのがあって、そのあと「小さい政府」っていうのがきて、そのあとどうすんだっけ?というのが今です。70年代にいろんなことを行政がやって、公共機関がどんどん大きくなるにつれて、サービスがどんどん低下していくということが起きていた。行政が構造的に問題の元凶になっているという指摘が70年代後半から80年代にかけてあって、そこから民営化の流れが進んで、そのあと「行政っていうのは小さくするのもイマイチだし、大きくももうできねえよな」というところでスタックしているのが現状、という理解です。
友岡:今DXの中でも「いかに色々な『官』以外の力を導入して公共の役割を担っていくか」ということが問題になっていると思います。
若林:そうですね。それがひとつの流れとしてあって、もうひとつは、基本的には今までって一方通行でいろいろなことやれたんですよ。メディアもそうですけど、行政サービスも典型的に一方的。選挙とか、窓口で文句を言うとか、一応のフィードバックはあったんですが、デジタルになると常時フィードバックされている環境になっていく。そのなかで一方通行でデリバリーされてきたサービスのありようを変えていかなければいけない。
DXをなぜやらなきゃいけないのかっていう理由は、そもそも社会がデジタル化しちゃったから。だから「理由でありソリューション」であるわけです。そこは理解しておかないと話がややこしくなる。
ユーザーからのフィードバック
友岡:自治体すなわち官の側が財政的にも非常に厳しくなっていくなかで、デジタル技術を使って官以外の力を動員しようという観点ばかりで捉えていたんですが。デジタル化が進むことによってユーザー側のフィードバックがダイレクトに届けられるようになり、それに対応する必要性がでてきたという側面もあると。
若林:オリンピックのことで考えるとよくわかるんですが、森喜朗って人は典型的な昭和の密室型意思決定システムの人、そのやりかたで今回のオリンピックもいけると踏んでいたわけです。ところがソーシャルメディアで色々な、「おいおいおい!」みたいな話がワーっと出てくる。安倍政権や森喜朗はそれらを今までのようなマスメディア攻勢でなぎ倒していけるって踏んでたんだけどできなかった。ソーシャルメディアでみんなが言いたいことを言う環境の中で、今までのやり方じゃ通用しないんですよね、全部が明らかになっちゃうので。かなり深いところで改革しないと、良いオリンピックの有りようなんてもはやないということを、ほとんどの国民がわかっちゃった。行政も基本的には同じようなことが起きていると思います。
友岡:これまで情報やサービスの受け止め手だった国民・市民の側が、気軽に情報発信ができるようになって、フィードバックというのが多種多様に、たくさん表に出てくるようになった。そのなかで「ニーズの多様性」みたいなものも噴出してきたと。
若林:もうちょっと端的に言うと、今までは客からクレーム来ても揉み消せたんですよ、企業も行政府も。今はそれをやるとバレる。透明化してきちゃってる。
フィードバックへの対応
友岡:関さんは(ユーザーから)「噴出してくる声」を拾うというような取り組みをやってこられたと思います、そのあたりご紹介していただけますか?
関:私自身はもともとエンジニアですが、Code for Japanという活動を始めたのは東日本大震災がきっかけだったんです。それ以前は、行政に対して主体的・積極に関わることはありませんでした。震災の時に、必要な情報をインターネット上にマッピングするプラットフォームを仲間たちと作ることになって、そこで初めて「関われるんだ」ということと、むしろ多くの人が関わらなかったから今みたいになってしまったんだと感じました。Code for Japanを始めたのが2013年で、各地域でコミュニティが生まれていって、今はコロナ関連のサイトを行政と一緒に作ったりしています。
友岡:岡田さんもこれまでにユーザー側からのフィードバックに対処するようなご経験はありましたか?
岡田:若林さんの言われた「一方向のデリバリーの限界」、まさにそのとおりだと思います、ひとつ付け加えるなら「一方向かつ一択のデリバリーの限界」が来ていると感じています。行政でいうと、色々な申請が未だに窓口一択というところが多いですが、窓口に行くのが不便だという層も増えている。そういったニーズに対応できないと、SNSを通じてフィードバックが出てくる時代ですので、市民の不満を無視できなくなってきました。一方でプラスの面もあって、例えば群馬県のデジタル窓口(群馬県の各種デジタル手続きやお役立ち情報を提供するプラットフォームとして開設された群馬県公式のLINEアカウント)では、ワクチン接種予約を始めたことで、登録者数が約7万人だったのが一気に40万人を超えました。その数字が職員の手応えになるんですね、これはデジタル化ならではのメリットだと考えています。
友岡:ありがとうございます。ひとつ関さんの話に戻すと、関さんが取り組まれてきたのは、あまた出てくるフィードバックの情報を、一元的にどこかの機関が全てを処理するのではなく、あっちでもこっちでも「処理できる人が処理していく」仕組み、ということでしょうか?
関:そうですね、それぞれに「これをやりたい」と考える人たちが我々のコミュニティの中にいて、例えばアクセシビリティに専門性を持っている人なら、コロナの情報表示のサイトに対して専門性を活かした課題の指摘や改善点の助言ができる。そうやってアクションする人が周辺の困っている人たちの声も集めて、行政に、「なんとかしろ!」というのではなく、「こうしたらいいんじゃない?」というアプローチができていると思います。
友岡:先ほど関さんの発言でも「プラットフォーム」という言葉がありましたが、これは重要なキーワードのような気がしています。
余談的に私の思い出をお話しさせてもらうと、2014年に群馬県で大雪が降ったんですが、その時に前橋市で起きたことが非常に印象深かったんです。前橋市の社会福祉協議会がプラットフォームになって、そこに除雪に関する情報を集めて、雪かきができなくて困っているお年寄りのところに、行ける人がボランティアで手伝いに出かける、その情報の場を作ったんですね。行政が全部を雪かきするのではなく、できる人が求めているところに力を届ける仕組みができあがったんです。ここで先ほどから話題にされていることの本質が、そういうところにあるのではないかと感じました。
関:おっしゃる通りだと思います。いわゆる「共助」みたいな領域には、若者も楽しく参加できるようなやり方があると思うんです、義務感よりももっと自然な形で。そういった新しいやり方もふくめて、行政がなんでもやりすぎていたところを、自分達の手に取り戻していくというプロセスなのかなと思ってます。
関:おっしゃる通りだと思います。いわゆる「共助」みたいな領域には、若者も楽しく参加できるようなやり方があると思うんです、義務感よりももっと自然な形で。そういった新しいやり方もふくめて、行政がなんでもやりすぎていたところを、自分達の手に取り戻していくというプロセスなのかなと思ってます。
オープンガバメント——行政を開く
若林:WIREDという雑誌でガバメントをテーマにした特集をやったときに、「オープンガバメント」という言い方をしたんです。行政が自分たちの壁の中にこもって「俺たちが一生懸命やんなきゃいけない」って思い詰めて、どんどん仕事が増えちゃってる状況に対して、一回それを開くわけですわ、「助けてー」と。公助と自助の間にもうちょっと折り重なる部分あるでしょ?と。公助を少し開くとそこに共助が入ってくる、そういう関係性を構築し直すにはどうしたら良いのか、というのが基本的にはテーマだよね。そこでデジタルを使うとものすごくダイナミックにできるので、どんどん政府の中に入れていこう、という話だと思います。
友岡:若林さんは海外の事例も色々調べてらっしゃると思いますが、何か日本の地方自治体が共助的なしくみに関わっていく時に参考になるような事例はありますか?
若林:デンマークで、コミュニティから若者を募ってお年寄りにタブレットの使い方を教えるという施策がありました。行政職員ではない、一種のエージェントのような人たちが、よりユーザーに近いところで何かをデリバリーしていくという仕組みです。面白いのは、例えば悪い若者でも、自分でiPadの使い方教えたおばあさんのことはひったくらないわけですよ。そうやって、ある貧しい、犯罪率の高いエリアの安全性が高まったっていうことがあって、それなんかはわかりやすい、良い事例だと思います。
マイナスをゼロに戻すためのデジタル化
友岡:窓口ひとつ取っても、これまでは窓口に行くしかなかったわけですが、そこは柔軟化していくべきだということで今岡田さんは取り組みをされているのでしょうか。
岡田:そうですね。これまでは選択肢が一つに限られていましたが、社会のニーズに合わせてデジタルも含め複数の選択肢を提供しようとしています。それによって窓口で必要とされるリソースも縮小できます。職員の数に限りがあるなかで、複雑化・多様化するさまざまな社会課題に対応していかなければいけない。デジタルによって負荷を軽減していくことで、人でなければ対応できないものに手厚く取り組む体制がとれるのかなと考えています。
友岡:なるほど、デジタル化を進めるのはある意味楽をするためでもあると。
若林:あの、実態として見たときに、みんなツラいんすよ、完全にマイナスの状態にあるんですよ僕ら。僕95年に社会人になりましたけど、普通に考えて仕事の量増えてんの。扱う情報の量が桁違いに増えてるわけですよ、だけど人数は増えてない、むしろ減らされてたりする。だから「ニーズに応える」みたいな話って、本来耳を傾けなきゃいけないんだけど、そんな時間取れないんですよ。そのためにはまず時間あけないとダメで、そこの合理化っていうのはDXの重要な柱なんですよ。合理化のための合理化ではなくて、やらなきゃいけないことがあるのにできないから、その時間と予算を作るために合理化をしなきゃいけない。
ひとつ例を言うと、アメリカの通信会社でAPというところがあって本社に取材に行ったんです。たくさん記者を抱えてるんだけど、記者の仕事って膨大に増えてるんですよ、今までは現場に行って記事を書けばそれでよかったんだけど、今は音声録ってアップして、動画も写真もやって、色々やらなきゃいけない。しかもビジネスモデルが崩壊しつつあるので人員が削減されている。それで起きる問題は何かというと、ニュースとしてカバーできる範囲や、そもそものニュースの量が減ってしまう。そうすると、通信会社として「世の中で起きていることをできるだけ多く人々に伝える」というミッションを果たせなくなる。そのなかで彼らがやっているのは、例えばソーシャルメディアをAIがずっとクロールして、事件性のあるような投稿があったときにアラートが記者に飛ぶとか、動画で人が話していることを自動で文字化していくとか、そういうことを、スタートアップを買収したりしながら、ほぼ自社でシステム開発してやっている。危機感を持って。そうしないと自分達が今まで体現してきた価値を守れないから。「膨大な業務を、記者の数を増やさずに楽にできるにはどうしたら良いか」というのがAPのDX。これはわかりやすい例だと思います。
これ以上増やせない量の仕事を抱えて、明らかにマイナスな状態なのをどうやってゼロに戻すのかということ。「付加価値を創造していく」みたいなことは、基本的にはその後の話ですよ。
友岡:本質的な課題にエネルギーを注力するためにも、デジタルでできるところは処理していこうということですね。
データの取り扱いと行政の信頼
友岡: DXが進むと「個人のさまざまな情報を紐づけられて自分以外の誰かに握られる」という状況が増えていくかと思います、そのリスクについてお三方それぞれにお話しを伺えればと思います。
関:日本は情報活用について後ろ向きであると言われていて、活用できないことによるデメリットのほうが大きいかもしれないです。情報がどのように使われるかについての意識は低いと感じていて、例えば多くの人が使っているポイントカード、購買履歴が全部マーケティング企業に使われていて、しかもどうやって使われているかわからないわけですが、一方で、公的な、法律でもかなり保護されているマイナンバーカードに反対する人も多い。そこのアンバランスさみたいなものは感じます。情報が活用されることに対するリテラシーが上がっていかないと、社会不安が増してしまうということはあると思います。
岡田:行政が個人データを扱うとなると不安に思われる方が多い印象を受けますが、自分に対してどうメリットがあるのかというところが伝わっていないのかなと。これは行政のコミュニケーションの問題だと思うんですが。あとは、日本人の政府に対する信頼度というのが世界と比べてどうなのかなということもありますが、そのあたりは若林さんに伺えたらと思います。
若林:例えばエストニアでは、個人の銀行口座の中身に、許可を得たうえで政府が入って、確定申告しなくても全自動で税が引かれていく仕組みなんかをやろうとしている。エストニアがものすごくデジタル化を推進しているということの背景には、その前にいたソビエトの官僚が大嫌いだったというのがあって、「あいつらほど信用できない奴らはいない、あんな奴らに任せるぐらいだったら機械のほうがよっぽどマシだ」と思ってるんですよ。だから、行政府への信頼というより、システムに対する信頼です。彼らは「人は腐敗する」と言うんですよ。システムは基本的に腐敗しないはずで、人間が関与することで腐敗は起きうる。日本人は、官僚に対して白紙委任状を渡すというか、敵対はしないんだけど信用もしない、関与しないところでやってくれたらそれでいいという感覚が強いのかなと。
友岡:システムに関わる「人」に関する信頼をどう構築していくのかが課題であるということですね。
「公共」を支える、新しい市民参画のあり方
友岡:デジタル技術によって可能なところは合理化し、本質的な課題に取り組む動きが進んでいくとして、そこでは市民や国民が、行政に任せきりだった状況から、自分たちが公共の担い手として何らかの役割を担っていくような仕組みに移行していくのかなと思うのですが。
関:各地のCode forの活動に大学生や高校生が参加するようになってきています。次の世代は関わることについて僕らの頃よりも主体的になっている、「そうしないとやばくない?」という空気を感じるんです。今は行政側も市民側も、距離感がわからないながらも色々やろうとして互いに学んでいる状態だと思うんです、そこで大事なのは共創の機会をたくさん作ること。誰でも参加して、何かやりたいと手をあげた人をエンパワーして、そういう人たちがもっといい世界を作ってくれるんじゃないかと。そういう意味では期待しかないですね。
若:市民参画みたいな話が出てくると必ずリテラシーという言葉が出てくるんだけど、背後にあるのは「バカは参加しなくていい」みたいな話だったりするわけ。それが分断を生むんです。リテラシーという言葉は結構ネックなんですよ。それに対して台湾のオードリー・タンは「うちらはリテラシーという言葉は使わなくてコンピテンシーって言葉を使うんです」っていう話をしている。政治意識とか高くなくていいんだけど、「WEBサイト作るんでデザインできない?」みたいな話で人を参画させる。それぞれが違うコンピテンシーというのを持っていて、それをどうつなぎ合わせていくかというのがオードリー・タンなんかがやっている仕事。そのときにリテラシーっていうのを問題にしないというのは結構重要なことだったりするんですよ。
僕が見ていてそういうコミュニティの一番の成功例って言うのは実はK-POPのファンなんですよ。韓国のアーティストがよく使う配信プラットフォームには、ユーザーがやりたいことをできる機能がいっぱい付いてたりするんだけど、そこで何が起きているかというと、世界中の韓国語ができるファンが自分達で翻訳をつけていくみたいなことが起きている。みんなが自分なりの何かを持ち寄る形でコミュニティが形成されていく、というやり方。それはリテラシーという話を持ち出さなくても可能かもしれない。そこには大きな可能性があると思うんですよ。
友:それぞれが得意なこと、好きなことを主体的に、局所的にやることを通じて何らかの公共の利益になる。それが積み重なって社会が出来上がっていくということですね。
若:DXの本質は何かって海外の人に聞くと『人間中心』ていう答えが即答で帰ってくるんですよ。「群馬県庁かくあるべし」と言ったって、結局ここにいる人たちができることしかできないわけですよ。そっちを重視しろ、というのが人間中心ということだと僕は思ってるわけ。この人は何ができて、あの人は何ができて、みんながやれる範囲のことを持ち寄って何ができるのか考えていく、それ自体が群馬県の特色になっていくっていう話で。そこではユーザーの話をちゃんと聞きながら積み上げていく、広げていくということが大事なんだろうなと。民間企業も同じで、「うちの会社どうあるべきか」みたいな話をしすぎなの。「会社」って言っちゃうと自分が含まれなかったりするわけ、何の話してんのってなったりする。自分たちが何を変わらなきゃいけないのかっていう話をするのがDXの本質なんですよ。自分いま何がたりてないんだっけ?何やりたいんだっけ?というところから、組織と人の関係を逆転させるということが大事だと思ってます。言うのは簡単でやるのは難しいですけど。
友:今いる我々と、その手持ちのリソースで何ができるか、その能力をうまく引き出す・補完するというときにデジタル技術をうまく使っていこうと。
【質疑応答】
質問者:若林さんの書籍の中で、行政府に実際にDXを導入していく上で、先の読めない状況に臨機応変に対応していくための構造改革が必要であり、そのために「マインドセットの転換」と「リカレント教育(変化し続ける状況に臨機応変に対応すべく学び続けること)」の2点が重要であるとありました。そのあたりをもう少し詳しくお伺いしたいです。
若:マインドセットの転換ていうのは、基本的に今までサプライヤー中心でものを作っていたのを、カスタマー中心で作って行こうっていう180度の転換で、全然違うゲームになることなわけです。体の動かし方そのものを変えるということなんで、大変だし時間がかかる。僕が知ってる北國銀行というところがDXをやって、新しいゲーム感覚みたいなものが大半の社員に行き渡るまでに5年かかったと言ってました。その間、既存のゲームと新しいゲームを並行してやらなきゃいけないんで、社員はかなり大変だったとは言ってました。ただ、その時間はみなさん耐えないといけないんですが。で、その中でリカレント教育って体質改善プログラムだから、それをワーカーに実装していくというのは、デジタル推進部門のかなり大きな仕事のひとつです。ちなみに海外の、英国GDSとか米国USDSとか日本のデジタル庁にあたる機関が色々ワークショップとかやってるんだけど、今年になって目立ったのは、言葉遣いのトレーニングみたいなものをものすごい量やってます。地方自治体の職員とか含めて。いわゆるUXライティングという領域の、自分たちの政策をいかに正確に信頼性高く文章化していくか、それをソーシャルメディアでどう伝えていくか。そういう教育はかなり重要ですね。
最後に
友:それではゲストのみなさんにひとことずつシメのコメントをいただきます。
関:(DXって)難しそう、大変そうと思われた方も多いと思うんですが、一歩踏み出してみれば楽しいことも多いです。本人たちが楽しんで活動できることから始めることも大事かなと思います。何か一緒にできることがあればやりますのでよろしくお願いします。
岡:行政のDXを進める上で特に厄介なのは、内部のルールや慣性の法則が極めて強力で、なかなか行動・思考のパターンを変えられないことです。そのなかで、まずやってみる、一歩踏み出してみることが重要だと感じています。その背中を押す、一歩を踏み出しても大丈夫だと職員のみなさんに感じてもらえる、そんな環境づくりを心がけていきたいと思います。
若:さっき言い忘れたんですけど、今まで人のデータで重要視されてたのって属性データだったんですよ。でもデジタル化においては行動データ、その人が毎日何をやってるかということのほうが重要だったりする。で先ほどの信頼性の話に戻ると、行政府の信頼性が低下してるという前提のもとで言うと、結局人は行動を見ているということを強く認識していた方がいいような気がします。いくら良いこと言っててもやんない奴信用しないですから。もうひとつ、信頼ということに関して言うと、日本の行政府に限らず企業もなんだけど、信頼性をあげようと思った時になぜか「親しみやすさ」っていう方向に振るんですよ。これって広告代理店によって好感度という指標がテレビ等に持ち込まれることで発生してるんだけど、行政府に求めてるのって親しみやすさじゃねえからなっていうのはもう一回つよく考えた方がいい。信頼される人って親しみやすい人じゃなくて、言ったことちゃんとやってくれる人だったりするじゃない。そこは結構重要で、結局「行動」っていう話に戻ってくる。これからの社会では「何を知ってるか」とか「何を考えてるか」とかじゃなく「何をやるか」ということが重要。ソーシャルメディアというのは人の行動を連鎖させることについては強力な力を発揮するんですよ。行動っていうものに基軸が移ってるということを頭の中に置いておいていただけると良いと思います。
友:DXというのが単なるIT化ではないということは伝わったかと思いますし、マインドセットの変更ということは非常に需要な論点になるだろうと思います。我々が担う目的を見直してみようということと、その目的に対してその手段は妥当なのかということを色々考えてみる、そういうところから新しい時代に対応する仕方も見えてくるのかなと考えた次第です。ありがとうございました。
(ライター:REBEL BOOKS 荻原貴男、撮影:合同会社ユザメ 市根井 直規)
登壇者
若林 恵
編集者
黒鳥社コンテンツディレクター
1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)を設立。著書に『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)、『週刊だえん問答Ⅱ はりぼて王国年代記』(黒鳥社・2021年7月)、責任編集『次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方〈特装版〉』(黒鳥社・2021年5月)など。「こんにちは未来」「blkswn jukebox」「音読ブラックスワン」などポッドキャストの企画制作でも知られる。
関 治之
一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事
デジタル庁 プロジェクトマネージャー
一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事。「テクノロジーで、地域をより住みやすく」をモットーに、会社の枠を超えて様々なコミュニティで積極的に活動する。住民や行政、企業が共創しながらより良い社会を作るための技術「シビックテック」を日本で推進している他、オープンソースGISを使ったシステム開発企業、合同会社 Georepublic Japan CEO及び、企業のオープンイノベーションを支援する株式会社HackCampの代表取締役社長も勤める。また、デジタル庁のプロジェクトマネージャーや神戸市のチーフ・イノベーション・オフィサー、東京都のチーフデジタルサービスフェローなど、行政のオープンガバナンス化やデータ活用、デジタル活用を支援している。その他の役職:総務省 地域情報化アドバイザー、内閣官房 オープンデータ伝道師 等
岡田 亜衣子 群馬県デジタルトランスフォーメーション推進監
東京外国語大学卒。芝浦工業大学専門職大学院修了。NTT、インテルなどを経て、2020年1月群馬県CDOに就任。2021年4月から現職。
友岡 邦之 高崎経済大学 地域政策学部 教授
熊本県出身。早稲田大学第一文学部社会学専修卒業、東京大学大学院社会学研究科修士課程修了、東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。高崎経済大学地域政策学部専任講師、准教授を経て、2013年より教授。日本文化政策学会理事、群馬県文化審議会委員など。