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地域の魅力をコンテンツに。ローカルガイドから学ぶ「伝える技術」

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群馬県の未来を担う、観光産業の中核人材を育成するプログラム「ぐんま観光リーダー塾」。地域の課題を解決するために、観光地域づくりを推進できる中核人材の育成を目指した、“学び”と“対話”を中心とした講座です。第7期目となる令和5年度は対面講義を基本としつつフィールドワークも行われ、より立体的な学びが醸成されました。

今回は、地域コンテンツ・ガイドコースのフィールドワーク講座として実施された、東京・築地場外市場でのガイド付きツアー実地体験の様子をお届けします。

ガイドから学ぶ、ツアーの作り方

「地域コンテンツ・ガイドコース」は、例年開講している「レギュラーコース」に加えて今年度新たに設置されたコース。受講生が主体的につくりたい地域体験プログラム(着地型観光商品、ガイド付きツアー等)をイメージして受講し、講座の中でアイデアやプランを練っていくカリキュラムです。

講座は座学研修が中心ですが、レギュラーコース同様、フィールドワークも用意されています。コース開講初年度となる今回は、「インバウンド向けガイド付きツアー」の実地体験が行われました。

週末で賑わう築地場外市場。外国人観光客も多く見られた

舞台は、日本有数の市場である築地場外市場。国内・海外問わずさまざまな場所から観光客が訪れ、観光地としても国内トップクラスの人気を誇ります。

しかし、どんなに素晴らしい観光資源があっても、「伝える人」がいなければその価値は眠ったまま。そこで、観光体験をサポートする「ローカルガイド」の存在があります。

異なる文化をもつ観光客に対して土地の魅力を伝え、思い出をつくり、笑顔で見送る。そんなガイドの仕事から、どんなことが学べるでしょうか。

日本の台所「築地場外市場」を体験

ツアーの始まりとなる集合場所は、東京メトロ日比谷線の築地駅から徒歩1分の「築地本願寺」。1967年に浅草に創建、その後2度の火災に見舞われながらも再建して1934年に現在の姿になったお寺です。その本堂、門柱、石塀は国の重要文化財に指定されています。

私たちを案内してくれるのは、ガイド付きツアーをはじめ宿泊管理や着物レンタルなど観光にまつわる事業を幅広く手掛ける会社「羅針盤」にガイドとして所属する西田さん。

今回はインバウンド向けツアーの体験ということで、本番と同じく英語でのガイドです。最初にイントロダクションとしてツアーの注意事項、そして築地の歴史と文化が丁寧に説明されました。

塾生それぞれの自己紹介も済ませたら、お寺を見学したのちに築地場外市場へ繰り出します。

まずは、魚介類や特産品が所狭しと並ぶ商店街のエリアへ。駅周辺は高層ビルも多い築地ですが、ここに足を踏み入れると一気に雰囲気が変わります。

現在、築地場外市場には400以上の店舗が集合しています。コロナ禍で廃業したお店もあるそうですが、ツアーが行われた2024年2月には非常に多くの来客があり、かつての賑わいが戻りつつあるようです。

最初にいただいたのは「丸玉水産」のさつま揚げ

精肉店「吉澤商店」では買った肉をその場でステーキに

ナチュールワインやクラフトビールも飲める「酒美土場」

ツアーの目玉は、なんといってもフード。さつま揚げ、卵焼き、ステーキなど、築地の職人の技が光る数々の食べ歩きグルメの中から西田さんがおすすめするものをいただきました。

体の芯から温まる「甲羅組」のかに汁

「斉藤水産」でいただいたのは新鮮な生牡蠣

「気になったお店があれば、好きに買ったり食べたりしてくださいね」と西田さん。店と人がひしめく築地のパワフルさに圧倒されつつ、塾生たちは本場の海鮮を中心に各々の買い物を楽しみました。

築地の卸売市場機能は、2018年に豊洲へ移転したことで知られていますが、場外市場の賑わいを未来に残すために多くの取り組みが行われています。その中のひとつが、「築地魚河岸」という生鮮市場の設置。約60店舗が入居し、質の高い魚介や肉、野菜などが販売されています。

塾生一行も分厚く切られた本まぐろのお刺身をいただき、舌鼓を打ちました。

こちらは、2023年にオープンしたばかりの「築地魚河岸 浜焼きBBQテラス」。開放感のある屋上テラスで、買った食材をそのまま網で焼いて食べることができる新スポットです。大きなビルを目の前に海鮮を食べるという珍しい光景に、塾生もインスピレーションを受けているようでした。

築地の繁栄を見守ってきた波除(なみよけ)神社

ユニークな陶磁器や漆器を揃える食器店、一不二(いちふじ)

初めて日本を訪れる観光客にとっては、その観光地が「日本のすべて」。陶磁器、たわし、神社など、食事以外の日本文化にも触れることで、築地を通して日本を知ることができるような体験が生まれます。

ツアーの最後には提携する店舗に移動し、目の前で生魚をさばくショーを楽しみます。その後、好きな具材を選んで乗せるセルフ海鮮丼をいただき、半日間の築地ツアーが終了しました。

地域と人をつなぐ技術

ここからは、ライターがツアーの実地体験に同行する中で感じた「ガイドの技術」をご紹介します。

①興味を引き出す知識とコミュニケーション

「だし」を英語で説明する西田さん

インバウンド向けツアーのガイドは「日本独自の文化」を「日本語以外で」解説しなければならないという性質上ある程度の外国語スキルが求められることになりますが、それだけでなく、その土地の歴史から最新情報まで網羅した知識、そして参加者の興味を途切れさせないコミュニケーションの技術も必要になります。

鰹節も代表的な日本文化のひとつ

西田さんはたびたび観光客から質問を受けるそうですが、築地だけでなく日本全体に関する疑問や魚介類についての質問も多く、適切に答えるためには幅広く情報収集する必要があるのだそうです。

多方面に詳しくありつつ、知識があるだけでもない。ここに、ガイドという仕事の難しさと価値があるように感じました。

②街との信頼関係を築く

今回、塾生にふるまわれた食事は、個別で購入したものを除いてツアー料金の中に含まれています。西田さんによれば、「前もってお店と連携の交渉をし、繰り返し立ち寄ることによって顔見知りになっている」のだそうです。

手際よく焼き上げられる「つきぢ松露」の卵焼き

ふだんは入ることができない場所(厨房、バックヤード等)を見学できたのも、お店とガイド事業者との間に信頼関係が築かれている証拠。

また西田さんは、「客層やリアクションをみて、ツアーごとに案内するお店を柔軟に変えている」とも話していました。街と良好な関係を結んでこそ、このようなアドリブなナビゲーションが実現できているのだそうです。

③オペレーションと危機管理

ツアー中、西田さんは「このエリアは撮影禁止です」「ここから先は、なるべく立ち止まらないで」などのローカルルールも細かく説明していました。日常的にその場所で暮らしている人たちにとっては「常識」な事柄も、観光客にとっては新鮮な文化です。悪意なくルールから飛び出してしまうことがないよう、丁寧に説明する必要があるのだと感じました。

また、通常のツアーは繁忙期であっても最大10人程度の参加人数にとどめているそうで、その配慮も安全できめ細やかなガイドに繋がっているように見えました。

ツアーの最後、塾生からの「ガイドにとって大切な技術はなんですか?」という質問に対し、西田さんはこう答えていました。

「外国語のスキルも大切ですが、それよりも大事なのはハート。ツアーをしていると、予測できないトラブルが発生してしまうことがあります。これは避けられないことです。でも、来ていただいたみなさんに楽しんでもらおう、という気持ちをもっていれば、想定外の出来事にも柔軟に対応できるんですよ」

群馬県の「今」を見つめる観光体験づくり

新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かいつつある昨今、群馬県においても、2022年には観光入込客数が前年比128.3%、外国人延べ宿泊者数が前年比269.9%になるなど観光関連の数字に大きな回復が見られました(群馬県産業経済部 戦略セールス局観光魅力創出課「令和4年(2022年)観光入込客統計調査報告書」)。インバウンドを中心に観光客数が今後さらに増えることが予想される中で、今回の実地体験に参加した塾生たちも、得られた学びを活かして群馬県の観光シーンを盛り上げてくれることでしょう。

ぐんま観光リーダー塾では、「体系的な学びの機会」「人脈作り」「自己成長の場」の3つを軸に、未来の観光を牽引するための総合的なスキルが身につくプログラムを提供しています。座学の講義にとどまらずフィールドワーク等の実践的な思考の場も通して、仲間をつくりながら学びを深めます。もう一方の「レギュラーコース」では、みなかみ町・藤原地区でのリトリート体験を行い、自然の中で自分を取り戻す新しい観光の形を学びました。

ライター/カメラマン 市根井直規

<レギュラーコースのレポート記事はこちら>