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全国群馬県人図鑑-グンマーズ–vol.2大澤直美さん×石田陽介さん【中編】

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 全国群馬県人図鑑(-グンマーズ-)は、県外在住の県ゆかりの出身者、先輩方をお招きして現在のお仕事の話はもちろん、県内で過ごした学生時代の思い出、地元への熱い思いなどを丸ごとインタビューする新企画。

 中編では世界を経験したお二人が、群馬の魅力に言及。また、地元でいつかかなえたい夢も披露されます! 湯けむりフォーラムのコンセプトでもある“熱源”は人生の岐路に立った時、重要な示唆に? 高校生はもちろん、あらゆる世代の心に響きそうな中編です。

かかあ天下はグローバルスタンダード?

西部 お二人のヒストリーに続いて、グローバルな環境で働いてきたお二人に今日ぜひ聞きたい質問は、「今、群馬ってどんなふうに見えていますか?」。改めて、群馬ってこういうところだよね、と思い直している部分があれば、聞かせてもらえますか? 陽介さん、いかがですか?

石田 はい。群馬の外に出て改めて思うことは、群馬は人もすばらしい、食べものもすばらしい。自然もあふれている。そのことに対してもっと自信を持ってほしいと思うんですよね。

当たり前のように周りに美しいものがあるとその価値に気づかなくなるのは当然で、私が中高生の頃も、私も含めてみんなが東京に比べて劣った場所のような意識を持っていて、群馬に対する自信がなかなか持てない。でも、本当に美しいものに囲まれて暮らしているし、人は義理人情に厚い、人間味にあふれた人が多いので、群馬に住んでいる人が群馬に自信を持つことは大事だと思います。

あと、これはちょっと余談ですが、群馬の女性は“かかあ天下”と言われますが、外国の女性の方がもっとかかあ天下なので、もしかしたら群馬はグローバルスタンダードを先取りしているのかもしれません。

西部  (笑)

石田  ですから、群馬の女性は自信を持って海外で自分らしさを発揮すれば良いですし、男性たちは、すばらしい環境で鍛えられて世界に出ていけることを喜ぶべきかなと思います。

それから、英語ができないから世界に行けませんという人が多いのですが、大げさに言ってしまえば笑顔と愛嬌さえあれば世界中どこででも生きていけると思うので、語学を理由に世界に飛び立ちたい気持ちに、ふたをする必要はないかなと思います。

西部  ありがとうございます。陽介さんは群馬から世界に出た第一人者であり、群馬から世界に出ていく人を応援する立場にありますが、逆に陽介さん自身が世界の食を日本に届ける今の仕事を“群馬”というスコープで切った時、こんなことをいずれやってみたいとか、構想、夢などはありますか?

石田  そうですね。食の仕事に長く携わっていると、群馬の食材は本当にすばらしいと思います。お肉にしても野菜にしても良いもののすばらしさに地元の方が気づかず、東京などに出ていってしまうことがいつも気になっています。群馬は豊かな食が成立する場所なので、食を通してみなさんが豊かさを実感できるようになってほしい。

群馬県が「すき焼きアクション」を打ち出していることはすばらしいと思っていますが、個人的にもまだまだ非日常の食であるすき焼きを、群馬のみなさんが普段から手が届くものにできたら良いなと。フランス革命後は“食の民主化”が起きて、それまで貴族しか食べられなかったものが民衆のものになっていったんですね。私もいつかふるさとで食の民主化をしたくて、私にとってそれはすき焼きなのかもしれないとも思います。

西部  わぁ、それ実現したら最高ですね! 聞いていてワクワクしました。食の民主化、ぜひやりましょう!

群馬に留学エージェントを作りたい

西部  続いて直美さん、同じ質問ですが、改めて大人になってから群馬をどう感じていますか?

大澤 私も石田さんとほぼ同じことを言おうと思っていたので、もう石田さんに100%合意です。群馬県関係の講演会に呼んでいただいた時は、私もいつも「群馬はすばらしい場所なんですよ」というメッセージを伝えています。石田さんがおっしゃるように人も自然もすばらしいのに、中にいると気づかないのかもしれません。加えて東京へのアクセスもすごく良くて恵まれていますよね。

例えば、アメリカ留学をしている群馬の学生は成田や羽田からパッと家に帰れる。留学生の中には成田からまた違う空港へ飛んで、そこから電車を乗り継いで実家に帰るのに2日かかるという学生もいます。群馬って本当にすばらしいところ、石田さん本当にそうですよね、と思いました。

西部  ありがとうございます。直美さんはふるさとへのアクションをもう長年起こされてきた方です。ニューヨーク群馬県人会というすばらしい活動を長く続けてこられていますが、地元に関連することでこれからやってみたいことがあれば教えてください。

大澤  冒頭に紹介できませんでしたが、私、子どもが3人いて、実は1年のうち2カ月間は群馬で過ごしています。今でも夏は群馬で子育てをしているので、群馬とのかかわりは継続しています。それで、群馬に留学エージェントってないんですよ。東京にはたくさんありますが。だから留学したいと思った時に情報格差が出てしまう。私が留学する時は自分で新宿まで行って情報収集していました。

群馬の拠点がNYキャリアアカデミーの群馬支店になるのかどうかはわからないですけど、プライベートでは群馬で子育てさせてもらっているので、仕事面でも群馬に軸ができたら良いなとは思っています。

西部  それもまたすごくいいですね! ぜひやりましょう! 今日二つの事業が生まれましたね。すき焼きの民主化と群馬の留学エージェント(笑)。大木さん、もし良かったらお声聞かせてもらってもいいですか? 感想でも何でも。

大木心奏(以降、大木) 大澤さんに質問です。私は今、志望大学が県外で、その大学を卒業した後に県外に留まって働くか、群馬県に戻って働くかを考えています。卒業後の進路は、どんな視点で決めればいいでしょうか?

大澤  そうですねー。最初に言うとすれば、今決めなくてもいいと思うんですよね。大学で4年過ごすとまた見える世界も変わってくるから、今の視点は忘れずに群馬を見続けて、これからいくであろう県外にも身を置いて感じていくと、自ずと自分は群馬県に戻って仕事したいのか、県外でがんばりたいのか見えてくると思うので、常に目の前のことを一生懸命されるといいだろうなぁとは思います。

強いて言うなら、群馬は子育てに良い環境だと思います。まぁ、私たち女子高校に行って、今はいろんな人生の選択があるけれど、その一つとして自分が母親になるかもしれないことを考えた時、群馬はすごく子育てフレンドリー。まだちょっと想像できないかもしれないけれど、群馬は子どもを育てるにはすごく良い環境だとは思います。

大木 ありがとうございます。

西部  大木さんもご質問ありがとうございました。直美さんは、一年のうち2カ月は群馬県民になってくださっていると。アドバイスもありがとうございます。小林さん、加藤さんもご質問あれば。

加藤 質問というか感想ですが。群馬に留学を統括してくれる機関がないのは、大澤さんの話を聞いて初めてそうなんだと知りました。国内の大学については進路指導も充実していると感じますが、海外となると高高の先生も知らないことが多くて、やっぱり群馬にそういう機関を設立してほしいなぁと思いました。

あと、石田さんからすき焼きを民主化したいというお話で、群馬県の有名な食べものといえば、例えば、ひもかわうどんとかありますけど、メインディッシュはあまりないので、群馬のすき焼きが有名になってほしいと思いました。

石田  貴重なご意見ありがとうございます(笑)。

西部  ありがとうございます。そして現役学生さんからもリクエストが来ているのでぜひ直美さん、事業化をお願いします。

大澤  はい、がんばります! コロナ前までは高高も高女も他の県内の高校も、希望者にはグローバル研修を提供できる体制が整っていたのですが、パンデミック以降はなかなか実施が難しい状況だと思うので、私も力になれるよう考えていきたいと思います。

進路に迷ったら「熱を感じる方」へ

西部  さて、今日は現役の高校2年生にお越しいただいていますが、将来の夢が広がっている一方、受験という現実が目の前に迫ってくる頃でもありますよね。やってみたいけど自信がなかったり、心がザワザワして悩まれるようなこともきっとあるのではないでしょうか。

そこでいうと今日の2人は、かなりダイナミックな人生のライフシフトを自ら起こされてきた先輩方です。お二人が心の壁を越えるためにどんなことをされたか、始めの一歩を踏み出せた秘訣みたいなことをお伝えいただけると、今日いらした高校生、そして今日のウェビナーをお聞きの皆さんにとっても参考になるのかなと。海外にすぐにポーンと行けたわけではないと思うのですが、最初の一歩はどうやって踏み出しましたか?

 

石田  海外に行けたのは、「パリに行きたい」と常に周りの人たちに話していたんです。口に出したからには能力も、人柄も、語学力も、全部含めてパリに行けるような人間にならないといけないので、有言実行が実ったのかなぁと思います。また、世界のどこに行っても周りにいる人たちが次のステージを用意してくれるみたいなところはあるので、縁を日々大切にすることも大事かなぁと思います。だから、グローバルとは言いますが、結局どこかローカルの延長でしかないともすごく思うんですよね。

海外に行ったきっかけについてはそう思うんですが、もう一つ、将来をどう歩んでいくかという大きな話になると、私は20代の頃は毎日この先右に行こうか、左に行こうかとずーっと考えていて、考えすぎて熱を出してしまうような感じでした。でも、そういう時期があったからこそ、今は右へ行くか左へ行くかとなった時は冷静に考えて、AとBとCとDの条件がそろったからもう右に行くしかない、と判断できるようになってきました。必然性が極限まで高まったら行く、と判断する。ちょっと抽象的ですが。

西部  いえ、すごいいい示唆だなと思いました。ありがとうございます! 直美さんはどうですか?

大澤  私は松井田で育った話をしましたけど国際的な家庭で育ったわけでもなく、海外に興味はあっても学校のサポートはほぼ得られず、留学情報を持っている方も周りにいなくてそれでも動き続けたわけなんですよね。私自身の経験と、国際的に活動されている方々を見ていると、やっぱり自分の中の熱がどこにあるのかを確かめて行動している人が多い。

高校卒業後は、自分で決めなければならないことがたくさん出てきます。その時は自分が熱を感じている方向に行くようにすると、自ずとパワーが出てくる。進む方向性については石田さんがおっしゃったように縁を大切にすることもすごく大切だと思いますし、自分を信じることも大事。

大人になればなるほど世間体や年齢を考えてこうすべきでないとか、人生の進路ってわからなくなってくるところがあると思います。私はおばあちゃんになっても毎日幸せを感じて生きていたいので、自分の中の熱がどこにあるかを常に確かめるようにしています。そうすると原動力が湧いてくる気がします。

西部  お二人とも素敵ですね! ありがとうございます。

(後編へ続く)

 後編では、高女の生徒会長・小林さんの相談に対するお二人の包容力あふれる回答が読みどころ。今、一生懸命取り組んでいることが100%実現しなくても、その経験が活きる理由とは?

(ライター:岩井 光子)

登壇者

大澤 直美 ニューヨーク群馬県人会主宰

1983 年生まれ。高崎女子高校卒。
高校卒業後渡米、NY で大学進学。米CCE認定グローバルキャリアカウンセラーとして2万人以上を支援。

(株) マイナビ米国法人代表をへて2016 年、国際人材育成の総合コンサルティング会社・NY キャリアアカデミーを設立、留学支援などを手がける。英語は独学、TOEIC990点満点。絵本やクールジャパン関連の翻訳も多数。「ニューヨーク群馬県人会(会員185 名:2022 年時点)」会長を務め、ふるさと群馬活性活動はライフワーク。

年間約2カ月を群馬で過ごし、県内の若者育成プロジェクトにも多数従事。2013-14 年、上毛新聞オピニオン委員。2018-19 年、「上毛かるた」英語版改定アドバイザーなど。3 児の母。

石田 陽介 ソムリエ

1979 年生まれ。高崎高校卒。
大学卒業後、振付家・ソムリエとして活躍。2010 年よりソムリエに専任し、フォーシーズンズホテル、星野リゾート、オリエンタルランドにてソムリエやマネージャーとして経験を重ねる。星野リゾートのレストラン「ユカワタン」勤務時から日本酒の魅力と可能性を強く感じ、国際唎酒師、WSET Level 3 Sakeの資格を取得。2017 年に欧州の多くの人々に日本酒の魅力を伝えるために渡仏。パリではRestaurant ENYAAにてマネージャーを務め、2021年に帰国。現在は株式会社ノットワークの代表として発酵デパートメントへのコンサルティング等、ガストロノミーや芸術文化に関わる事業を展開。

西部 沙緒里 株式会社ライフサカス CEO

前橋女子高、早稲田大学卒。博報堂を経て2016年創業。「働く人の健康と生きる力を応援する」をミッションに、働き盛りの人が抱える生きづらさ・働きづらさを社会全体で支える環境づくりを進める。研修・講演事業、コンサルティング・アドバイザリー事業、Webメディア・オンラインコミュニティ事業の3領域で、全国の企業・行政・学校などとさまざまな協業や伴走支援を行う。 NPO女性医療ネットワーク理事、(独)中小企業基盤整備機構・中小企業アドバイザー。2020年東京からUターンし、新たに(一社)かぞくのあしたを設立。高崎市在住。

加藤 遥大 高崎高校2年(当時) 生徒会長

小林 怜奈 高崎女子高校2年(当時) 生徒会長

大木 心奏 高崎女子高校2年(当時) 生徒会副会長