- REPORT
【いのちのフォーラム3限目】 健やかに生きるためのヒント
〜女性特有の健康課題と対策〜
人生100年時代を自分らしく生きていくために
看護師・助産師の資格を持つNPO法人「きびる」代表・野口和恵さんをナビゲーターに迎え、3回シリーズで妊娠・出産・育児と自分らしい生き方の両立について考える『いのちのフォーラム』。
3限目は「いきる」をテーマに、女性特有の健康課題と対策について教えていただきました。現代の女性は働き方やライフスタイルの変化によって出産や授乳の回数が減り、それに伴って子宮内膜症や乳がんなど、女性特有の疾患が増えています。自分らしく生きていくためには、心身が健康であることが大切な条件。子育て・働き盛り世代は、仕事や家事、育児に追われて自分のことが後回しになりがちですが、自分自身の体にきちんと目を向けるようにしましょう。女性の身体の仕組みは男性は理解しづらいかもしれませんが、大切なパートナーや一緒に働く仲間のためにも、ぜひ知っておいて欲しい情報です。
Contents
▼健やかに生きるためのヒント
・若年化が進む女性特有のがん
・がん検診は未来へのプレゼント
・信頼できるかかりつけ医を見つけておこう
▼年代別 特に気をつけたい女性特有の疾患
・20代(子宮頸がん、子宮内膜症)
・30代〜40代(乳がん)
・50代〜(更年期障害、子宮体がん)
▼最後に
健やかに生きるためのヒント
◆若年化が進む女性特有のがん
みなさんは、子宮がん検診や乳がん検診を受けていますか?
近年は自治体による検診費用の補助や無料クーポンの配布など、婦人科がん検診の受診を促す取り組みが盛んに行われていますが、肝心の受診率は依然3~4割程度と低迷が続いています。「内診に抵抗がある」「子育てや仕事に忙しく受診するきっかけがない」など、未受診の理由はさまざまですが、2020年は乳がんで年間1万4,650人、子宮頸がんで2,887人、子宮体がんで2,644人の女性が亡くなっているという現実に危機意識を持って欲しいと思います。
私は第一子を妊娠中、母をがんで亡くしました。妊娠を告げると「お風呂に入れる練習しないとね」と喜んでいたのに、妊娠6か月の時に母は帰らぬ人となりました。仲の良かった叔母も乳がんで亡くなりました。
また、看護師・助産師として病院勤務するなかで、子宮頸がんや子宮体がん、卵巣がんの患者さんの看護を受け持ちました。多くのがんは高齢になるほどリスクが高まりますが、女性特有のがんは若年化が進んでおり、「AYA(アヤ)世代」(Adolescent and Young Adult )と呼ばれる15歳〜39歳の若いがん患者さんもたくさん見てきました。
訪問看護では、30代で手術ができないほど全身に転移してしまった乳がんの患者さんがいらっしゃいました。夜に緊急で呼ばれた際に涙ながらに「こんなはずじゃなかったのにな」と小さな声で仰って、私は黙って背中をさすることしかできませんでした。そのまま入院され、あっという間にお亡くなりになりました。お悔やみに伺うと遺影が新婚旅行のお写真で、その笑顔に胸が締め付けられる想いでした。
◆がん検診は未来へのプレゼント
「健康が取り柄だったのに、まさか私ががんになるなんて」
「食生活にも気を付けていたし、大丈夫だと思っていた」
私が見てきたがん患者さんの多くが、そう口にされていました。
『自分は大丈夫』『私に限って』と思っている人は多いでしょう。しかし、身近な人をがんで亡くし、看護師・助産師として多くの患者さんを見てきた私だからこそ、伝えたいことがあります。
自分は大丈夫と思い込む前に、定期健診を受けてください。
自分自身の体に興味を持ち、体の変化にきちんと向き合ってください。
昔は「がん=不治の病」と思われていましたが、医療技術の進化によりがんの生存率は伸び続けており、適切な治療を受ければ完治も望めます。こうした医療技術の恩恵を受けるためには、検診による早期発見が大前提です。
検診は何の異常も感じていない時にこそ受けるべきもの。私は誕生日月に必ず検診を受けると決めています。せめて2年に1度は、少しだけ時間を作ってがん検診に足を運んでください。がん検診は未来へのプレゼントです。
◆信頼できるかかりつけ医を見つけておこう
「内科」や「小児科」は「かかりつけ医」を持っている方が多いですが、「産婦人科」や「婦人科」は妊娠したら行く病院というイメージが強く、かかりつけ医がいる人は少数派です。内診への抵抗感や羞恥心もあり、どこでもいいわけではないのに、あまり病院の事を知らないという人も多いのではないかと思います。
女性特有の疾患は症状が出る頃には重症化しているケースも多いため、疾患の早期発見や重症化予防のために、身体の変化を気軽に相談できる先生を見つけておくと安心です。
「いい病院を教えてください」「どんな先生がおすすめですか?」とよく質問されるのですが、いつも答えに困ります。先生との相性はそれぞれだからです。
「自分と同じ年頃の女医さんを選んで行ったのに軽くあしらわれた」とか「しんどくて相談に行ったのに逆に傷つくことを言われた」といった話を聞くこともあります。
女医さんの方が羞恥心が軽減されるという方もいらっしゃると思いますが、相性のいい先生に女も男も関係ないと私は思っています。よく話を聞いて寄り添った対応をしてくださる先生はたくさんいらっしゃいますので、実際に受診してみて自分と相性の良い先生を見つけてください。
年代別 気をつけたい女性特有の疾患
思春期、妊娠出産、更年期など、女性にはライフステージに応じた身体の変化があります。年代別に特に気をつけたい疾患を紹介します。
《20代》
◆若い世代に増えている「子宮頸がん」
(国立がん研究センター 全国がん登録罹患データより)
子宮頸がんは子宮の入り口(子宮頸部)にできるがん。日本では年間約1万人の女性が子宮頸がんと診断されており、死亡率も増加傾向にあります。40代が発症年齢のピークと言われていますが、最近では20代〜30代の若い世代の女性に増えてきています。私が見てきた患者さんの中でも子宮頸がんは若い人に多く、「妊娠できなくなったらどうしよう」と不安を口にされる方もいました。
子宮頸がんの主な原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスです。HPVは性交渉の経験がある女性の半数以上が生涯で1度は感染すると言われており、ほとんどが自然消滅しますが一部の人ががんに進行します。
初期には自覚症状がほとんどありません。だからこそ、「子宮頸がん検診」が大切なのです。定期的に検診を受けていればがんになる前の状態(子宮頸部異形成)で見つかる場合も多く、早期治療によって子宮の温存など妊娠に望みを持つこともできます。子宮頸がん検診は多くの自治体で20歳以上の女性を対象に費用の補助など受診が推奨されています。自治体からのお知らせやホームページをチェックして、ぜひ検診を受けてください。
また子宮頸がんはワクチンで防げる病気でもあります。
今年4月に約9年ぶりに12歳〜16歳に対してHPVワクチン接種の積極的な勧奨が再開しました。副反応のリスクを心配される方もいらっしゃると思いますが、ワクチンを接種するしないに関係なく、親子の対話を通して、自分の健康について考えるきっかけになるといいなと思っています。
◆「たかが生理痛」と我慢しないで
6~8人赤ちゃんを産むことも珍しくなかった昔と比べると、少子化が進んでいる現代の女性は生理(月経)回数が増加し、それに伴うトラブルも増えています。
仕事を休まなければいけないほど生理痛がひどい、鎮痛薬が効かない、ナプキンが1時間もたないほど経血量が多いなど、重い生理痛には子宮内膜症や子宮筋腫、子宮がんなどの病気が隠されている可能性もあります。
「生理痛は誰にでもあること」と我慢しがちですが、放置しておくと日常生活や仕事に支障をきたすだけでなく、妊娠しにくい体になってしまう可能性もあります。「たかが生理痛」と思わず婦人科に相談しましょう。
《30代〜40代》
◆セルフチェックで早期発見できる「乳がん」
日本の女性がかかるがんの中で最も多いのが乳がんです。30歳代から増加し、40代後半から50代前半の発症が特に多いことで知られています。特に乳がんを患った血縁者がいる場合や、自分自身が卵巣がんや良性の乳腺疾患の既往歴がある場合は、発症するリスクが高くなるため注意が必要です。しかし「がん家系ではないから大丈夫!」というわけではありません。遺伝性の乳がんは全体の7〜10%程度です。
国の指針によるとマンモグラフィ検査による乳がん検診は40歳以上が対象となっていますが、20代、30代のうちから始めてほしいのがセルフチェックです。お風呂に入っている時に、石鹸をつけた手で乳房全体をくまなく触ってチェックするといいですね。しこりなど少しでも異常を感じたら、迷わずすぐに受診しましょう。
乳がんは自分の目と手で発見できる数少ないがんであり、早期発見できれば完治する可能性が高い病気です。こまめなセルフチェックが早期発見の鍵。40歳以上は少なくとも2年に1回は検診を受けましょう。
《50代〜》
◆心と体がゆらぐ「更年期」
女性の多くは50歳前後で生理が止まります。1年以上生理がない状態を「閉経」、閉経の前後10年間を「更年期」と呼びます。更年期は「ゆらぎ期」とも呼ばれ、心も体も大きくゆらいでしまう時期。卵巣機能が低下し、女性ホルモンの一つ「エストロゲン」が急激に減少することによって自律神経が乱れ、さまざまな不調が現れます。
代表的な症状は「ホットフラッシュ」と呼ばれるのぼせ、ほてり、発汗です。他にも頭痛、めまい、不眠、肩こり、関節痛、湿疹、吐き気、頻尿など実にさまざまな全身症状が見られます。
症状の程度は人それぞれですが、誰もが経験すると言われています。必ず終わる時がやってくるので、上手に乗り切りましょう。まずは、栄養バランスのとれた食事、質の良い睡眠、運動習慣など基本的な生活習慣を整えること。ストレスも症状を悪化させる原因となるので、仕事も家事も頑張りすぎずに自分自身をいたわってあげましょう。医師に相談し、減少したエストロゲンを補充するホルモン補充療法や漢方薬を試してみるのもいいですね。
一つ気をつけてほしいのが、この時期の不調をすべて「更年期によるもの」と決めつけて放置することです。別の病気が潜んでいる可能性があるのです。
特に更年期と同じような症状が出るのが甲状腺の病気です。動悸、冷や汗、不整脈、喉のつかえなどの症状は、更年期症状と甲状腺の病気どちらにも当てはまります。
気分が晴れない、落ち込むといった精神的な不調がうつ病だったり、頭痛の原因が脳出血だったりする場合もあります。
体の不調を感じたら「更年期だから仕方がない」と自己判断せずに受診してください。更年期障害の正確な診断は、血液検査でホルモン状態をチェックすることによって可能です。
◆不正出血には要注意「子宮体がん」
子宮の奥側にある子宮体部にできるがんが子宮体がんです。主な原因は女性ホルモンの乱れで、年齢が上がるにつれてリスクが高まり、ホルモンバランスが崩れやすくなる閉経後は特に注意が必要です。年齢が若くても、月経周期が不規則だったり無月経の場合はリスクが高まります。
子宮体がんは、国が定めるがん検診の対象にはなっていないため、一般的な子宮がん検診で子宮体がんの有無を調べることはできません。子宮体がんのサインは月経以外での原因不明の出血や月経不順です。閉経後の不正出血など気になる症状がある場合はすぐに婦人科に相談してください。
最後に
「いのち」「はぐくむ」「いきる」の3つを柱にお送りしてきた「いのちのフォーラム」。命は奇跡的ですべての命が平等であること、完璧な子育てを目指す必要はなく夫婦で協力して育児を楽しんで欲しいということ、人生100年時代を豊かに生きていくためには自分の身体ときちんと向き合う必要があることを野口さんは教えてくれました。
出産や子育てに不安や悩みはつきものです。
野口さんが代表を務めるNPO法人きびるでは、公式LINEで妊娠・出産・育児に関する悩みや女性特有の身体の悩みに関する相談を受け付けています。
NPO法人きびる公式HP
群馬県でも、ぐんま女性の健康・妊娠SOS相談HPがあります。
一人で思い悩むことなく、気軽に相談してください。
(ライター:林 道子)