全国群馬県人図鑑-グンマーズ- 特別エディション「教室にようこそ。スペシャルな先輩の話を聞こう・語ろうin前女編」【中編】
全国群馬県人図鑑(-グンマーズ-)は、県外に住む県ゆかりの先輩方をお招きし、母校の現役高校生も交え、学生生活と現在の仕事とのつながりや故郷への熱い思いを聞き出していくトークセッションです。
中編は、武井さんの大学以降の進路について深掘りしていきます。東大から官僚とエリートコースをたどったにもかかわらず、1年で辞めてしまったわけとは?もともとファッションや美容が好きだったという話から、一見全く違う世界に思えるバチェロレッテと武井さんとの接点も見えてきます。女性の働き方、恋愛とやりたいことのバランス、SNSとの距離の保ち方など、生徒たちが気になるテーマも続々話題に上がります。
東大の勉強は試練だった?
佐藤アナ 東京大学の大学生活はどうでしたか?
武井さん 私、航空宇宙工学科というところに入ったんですけど、工学ってロケットやエンジンについて勉強するんですよ。入ってから、宇宙は好きだけど、別にロケットやエンジンはそんなに好きでないことに気づきました(笑)。どちらかというと天文学が好きだったんですよね。で、それほど好きでないのに、東大の勉強はめっちゃ難しいから、そこはちょっとハードでしたね。
佐藤アナ もともと星が好きで、天文学が好きだったことがきっかけでしたものね。嫌にはならなかったですか?
武井さん 途中であきらめるのは悔しいし、とりあえず最後までやろうと思いました。あとはちょっと打算的かもしれませんが、東大の航空宇宙工学科は、やっぱりステータスとしてはすごく価値がある。せっかく入ったのだから、卒業というバッジを持っておけば、後々活きるかなとは思っていました。
佐藤アナ その視点も大事ですよね。例えば、学生生活で嫌なことがあったり、退屈だなと思ったとしても、ちょっと俯瞰(ふかん)してみて、いや、でも、ここを乗り切れば将来に役立つ、みたいな、冷静な視点は必要かもしれないですね。
武井さん 実際、そのおかげで今、独立して宇宙業界にいるんですけど、若くて経験が浅い私でも、フリーランスで、自分の好きな、しかも、やりがいのある仕事ができています。もちろん学校名が全てでは全然ないけど、自分のやりたいことをやるためにそういうタイトルを勝ちとっていくことは、すごく大事だと思います。
官僚を1年で辞めたわけは
佐藤アナ 大学卒業後、就職先は宇宙関連でなく、経済産業省になるわけですよね? なぜ官僚の道を選んだのですか?
武井さん 本当は宇宙飛行士になりたかったのですが、新卒ではなれないんです。私が学生の時も募集はありましたが、職務経歴3年以上が応募要件でした。じゃあ、どういうことをしたいかなと考えた時、宇宙に関連する仕事ができるのは、やっぱり大きい産業に関わる行政かなと。
佐藤アナ 官僚のお仕事はどうでしたか?
武井さん もう忙しすぎて、めっちゃブラックでした!(笑)。でも、やりがいはある。民間企業にいたら国の政策は作れませんが、本当に入省1年目から、国をどうしようかとか、どういう法律をつくろうとか、そういう話ができるんですよ。
佐藤アナ 1年目から?
武井さん そうです。だから国に関わりたいとか、日本のために大きな仕事をしたいと思うなら行政に行くしかないと思います!
佐藤アナ なるほど。でも、東大から官僚と、いわゆる超エリートコースを歩んでいたにも関わらず、1年で離職してしまったのはなぜですか?
武井さん 一番は、行政とか大きい組織にいると、自分の言いたいこと、思っていることを言えないことですかね。だって私が職員として何かを発言したら、経産省の意見ととられて叩かれたりしますよね?
でも実際、経産省で働いている人たちは、本当に国のことを思って命を懸けてがんばっているんですよ。でも、そういう人たちは仕事上、ルール上、自分の本音が言いづらい。それが本当に悔しくて。私は声を持ちたいし、自分が思ったことをちゃんと言いたい。そういう気持ちが強くなってきたので、辞めて、表に出る仕事をしたいなと思いました。
佐藤アナ 高校生の時から自分のやりたいことははっきりしていて、自分の意見はきちんと伝えるというスタンスでしたよね。
武井さん 多分、私は言いたいことを言えないことが嫌なのだと思います。
佐藤アナ だから、亜樹さんにとっては、世間からどう見られるかより、自分の思いや考えを発信することの方が、大事だったというわけですよね?
武井さん そうですね。あとは、官僚という仕事が激務すぎて。私、美容とかおしゃれがすごく好きなんですけど、経産省にいるうちに肌がどんどんボロボロになっていきました。私は仕事もがんばりたいし、キャリアもがんばりたいけど、おしゃれとか、美容もやりたいと思っていました。
今もバチェロレッテに出たり、美容やファッションの仕事もしていますが、当時からそういうこともやりたかったんです。だから、美容に時間をかけられないこともストレスに感じていました。
佐藤アナ なるほどね。一般論を当てはめると、辞める時にものすごく勇気がいったのでは、と思うのですが、迷いはなかったですか?
武井さん もちろん、ありました! せっかく入ったのに辞めるのはもったいないとも思いましたが、それだけの理由でずっとここにいる方が辛いと思ったので。それに、経産省の仕事はきちんとやっていたし、またちゃんとがんばれば、戻るチャンスもあるかなと思ったんですよ。
佐藤アナ なるほど。
武井さん それこそ、前女にいた時にも留学して、帰国後、留年して一つ下の学年になっても、東大に受かった経験があったから。「行かない方がいい」「留学に行ったら理系で東大には受からない」と言われましたが、がんばったら受かったから。今やりたいことをやっても、ちゃんとがんばれば取り戻すことはできる、と思っていたこともあります。
バチェロレッテで得た学び
佐藤アナ それで、1年で経産省を辞めて、その後バチェロレッテに出演したわけですよね。これもかなり異色の挑戦だと思いますが、なぜ挑戦しようと思ったのですか?
武井さん これは経産省を辞めた辺りぐらいでミスユニバース(※)に出場したんですよ。そこでインスタグラムなどに自分の写真が出るようになって、メディアにも出ていましたから、声がかかったのだと思います。せっかくの機会だし、やってみようかなと思いました。
※2022年の大会。武井さんはセミファイナリストに選出された。
佐藤アナ 出演してみて、楽しかったことも、そうでなかったことも、いろいろあったと思うんですけど、率直な感想はどうですか?
武井さん 出演して良かったです。一見自分のキャリアと関連がなさそうではありますが、もともとおしゃれや美容も好きだから、きれいなドレスもたくさん着ることができましたし、言いたいことを言いたい性格なので(笑)、番組の主役として自分の思いや考えを言えたのも、すごくうれしかったです。
佐藤アナ バチェロレッテの話にも関連するかと思うんですけど、今も勉強と恋愛のバランスのとり方について、もしかしたら悩んでいる生徒さんもいるかもしれません。今、女性の生き方がすごく多様化しているので、もう少し大人になると、仕事と恋愛とか、自分のやりたいことと恋愛とのバランスの上手なとり方について、亜樹さんはどう考えますか?
武井さん 私は恋愛体質ではありますが、高校まではほぼ恋愛はしていませんでした。夢があったし、やりたいことがあったから、デートに時間を割くのはもったいないと思っていました。だったら勉強したいし、だったら普通に睡眠をとりたかった(笑)。だから、アメリカ留学中も恋愛していましたけど、受験の時にはもう「さようなら」って。
佐藤アナ そうなんですね〜。
ちなみにアメリカでは、わりと恋愛する人が多かったですか? アメリカ人は恋愛を大事にする?
武井さん アメリカ人が、日本人が、というよりタイプだと思いますよ。彼氏がいてメンタル的に支えてくれる人がいる方がよりがんばれるタイプと、勉強が忙しいから彼氏に連絡返している場合じゃない、みたいなタイプ。私は後者なんで(笑)、本当にがんばりたい時は、恋愛なんかしている場合じゃない、と思うタイプです。
佐藤アナ なるほど。パーソナルな特性によりますね。
武井さん そうです。でも、恋愛は好きですよ。幸せも感じるし、楽しいから、タイミングを見て恋愛はしますけど。
佐藤アナ ちなみに、バチェロレッテに出て得た大きな学びはありますか?
武井さん 何でしょうね。撮影の時は周囲にカメラが本当にたくさんあって、スタッフの人とか200人ぐらい自分の目の前にいるんですよ。
佐藤アナ そんなに!
武井さん そうなんです。ハリウッドで映画を撮っているような人たちが制作スタッフなので。でも、私も自分らしくいられたし、カメラの前で嘘をつかなかったし、だからどんな状況でも自分は自分なのかなと改めて実感できたことが学びかもしれないです。
批判の怖さを乗り越える方法
佐藤アナ 今の時代、テレビばかりでなくてSNSもあるから、人前に出ると良いことも言ってもらえる一方、批判を浴びて傷つく機会も増えていると思うんですよね。昔はテレビに出ている芸能人だけだったかもしれないけど、今はそのリスクを誰もが持っている。批判が怖くて自分の意見を言う勇気が出ない子もいると思います。亜樹さんはそういう怖さをどう乗り越えていますか?
武井さん X(エックス)はすごく批判が多いと聞いたので、私はXはやっていないです。触ってないし、見てないです。インスタグラムは自分の考えも言えるし、ファッションとか好きなことを投稿できるし、宇宙のことも載せられるからインスタだけやっていますが、番組(バチェロレッテ)の出演時はDM(ダイレクト・メッセージ)もコメントもオフにしていました。
佐藤アナ 見に行かない。見たくないものは近づけないというか、その辺り、自分で線引きしておくといいかもしれないですね。
武井さん そうですね。あと私は日本でのことを投稿しないと決めています。国内のことを載せ始めると、仕事の時にも「あ、これ写真に撮らなきゃ」「映(ば)えなきゃ」みたいな、そういう思考回路になったら嫌だなと。
私は仕事で海外に行く機会が多いので、海外に行った時はいっぱい写真撮って載せます。でも、日本にいる時はまず自分の行動範囲がバレるのが危ないし、あとは、生活に集中できなくなる。例えば、家の中のことを投稿しようとした時、本当なら家具はこういうレイアウトの方が生活しやすいのに、映えさせるためにこっちにまとめて置いてとか。“映える”ことを中心に自分の生活が進むのも嫌なんですよね。
佐藤アナ 亜樹さんってすごくまっすぐで、正直な人ですね。
武井さん そうですか? ありがとうございます。
夢は宇宙へ行くこと
佐藤アナ 現在、フリーランスで宇宙関連のプロジェクトに関わったり、また、美容の仕事もされていると伺いましたが、今後ご自身がやりたいこと、成し遂げたいことはどんなことですか?
武井さん 私は宇宙に行きたいんですよね。だからずっと宇宙業界にいますし。あとは自分で発信したり、書いたり、表現したりするのが好きなので、それもやりたいと思っています。
佐藤アナ 宇宙に行って何をやってみたいですか?
武井さん きれいな地球とか星を見たいですね!
佐藤アナ こう青い地球をね! そこは高校生の頃からブレていませんね。
武井さん そうですね。
佐藤アナ 今、宇宙はがんばれば行ける、ぐらいのところまで来ているのですか?
武井さん この春にケイティ・ペリー(※)とか行きますよ。
※アメリカのポップ界の歌姫。ゴスペル歌手出身のパワフルな声量とユニークなファッションセンス、キャラクターで世界を席巻してきた。SNSのフォロワー数でも世界有数。
佐藤アナ そうなんですね!!!
武井さん 有名人は結構行っています。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスとかも。
佐藤アナ じゃあ、宇宙は現実的に行けそうな場所になってきていますね。
武井さん そうですね。
佐藤アナ 亜樹さんもいずれ行きそうな気がします。
武井さん ありがとうございます!
(後編に続く)
後編では、前女生からの質問に武井さんがズパッと明快に、愛を込めて答えます。そして、近い将来、武井さんが群馬に戻りたいタイミングとは??
ライター・岩井光子 写真・市根井直規
登壇者

武井亜樹 フリーランス、3代目バチェロレッテ
群馬県前橋市生まれ。幼少期から宇宙に憧れて育つ。前橋女子高時代にアメリカ・オレゴン州に1年留学。東京大学工学部航空宇宙工学科卒業後は経済産業省に入省。退職し、フリーランスとなってからは、数々の宇宙関連プロジェクトに関わりながら、宇宙に関する記事の執筆や情報発信をするライターとしても活躍。ミスユニバース2022セミファイナリスト。Amazonプライムの人気恋愛リアリティ番組「バチェロレッテ・ジャパン」(バチェラー・ジャパンシリーズの女性版)で3代目バチェロレッテを務める。空手は黒帯の腕前。

佐藤 由美子 フリーアナウンサー/キャリアカウンセラー
NHK前橋放送局キャスターを経てフリーに。NHK、群馬テレビ、とちぎテレビなど関東のテレビ局を中心にリポーターとして活動。その後出産を機に拠点を群馬県にうつす。
5年前に自身の経験をさらに活かすためキャリアカウンセラー資格を取得。若者や女性のキャリア支援のためにセミナーやイベントを開催。
現在はラジオパーソナリティー、イベント司会、キャリアカウンセラー、講師など幅広く活動中。
一女一男の母。