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上州地鶏×リトリート×温泉。データを生かし、プランを磨く。

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 データを活用して実効性のあるプランを創出する。2022年11月16日・17日、群馬県庁32階NETSUGENセミナースペースにおいて、「上州地鶏×リトリート×温泉をテーマとした旅行プラン造成ワークショップ」が開催された。リトリートは「日常から離れた場所で心身をリセットすること」。群馬県が新たに打ち出す長期滞在型観光のコンテンツだ。

 このワークショップは群馬県と楽天(楽天グループ株式会社)との包括連携協定に基づき、楽天のマーケティングデータ等を活用して課題解決を図る取り組み「楽天データ LAB」の第2弾となる。定員は招待制で20名。県内温泉地の観光協会関係者や群馬県地鶏生産普及促進協議会関係者、県・市町村職員などが参加。楽天からデータコンサルティングおよび観光コンサルティングの担当者を迎え、参加者がデータ活用を学びながら、上州地鶏や県内温泉地の潜在的な関心層に訴求する旅行プランを共創する試みだ。

「上州地鶏」とはなにか

上州地鶏は群馬県畜産試験場が開発した地鶏だ。希少性が高い。国内に50種類以上ある「地鶏」の中でJAS認証を受けた地鶏はわずか9種。上州地鶏はそのひとつに数えられる。

上州地鶏にはいくつかの際立つ特徴がある。そのひとつは「梅酢」と「桑の葉」を飼料に配合していること。ともに群馬県の特産的位置づけにある素材だ。

これらを摂取した鶏に期待される効果として、梅酢の抗酸化作用によって、肉の赤みとみずみずしさが増すという研究結果がある。また、桑の葉には余分な糖質を防ぎ、腸内の善玉菌を増やす効果があることから、鶏が健康に育つという研究結果がある。

 また、上州地鶏には独特の食感と奥深い味わいがある。群馬県G-アナライズ&PRチームが分析した。ムネ肉・モモ肉ともにジューシーで適度な歯応えがあり、モモ肉は脂のりが良い。

 機能性成分も含まれる。上州地鶏のムネ肉にはイミダゾールジペプチドが豊富だ。イミダゾールジペプチドは疲労感軽減効果を顕著に示す。2022年5月25日、イミダゾールジペプチドを機能性関与成分として上州地鶏のムネ肉が機能性表示食品に登録された。

 疲労感軽減のイメージはリトリートにつながる。エビデンスに裏付けされたストーリーを紡ぎ出すこともできる。

ポテンシャルは高い

 2日間にわたってワークショップが行われた。参加者は4つのチームに分かれる。

 1日目、楽天のマーケティングデータをもとに観光事業収入の目標、ターゲット、そして具体的なターゲットの人物像「ペルソナ」を設定する。

 2日目、上州地鶏の特徴が県担当者から、そのデータとポジショニングが楽天から示された。地鶏マーケットにおける上州地鶏の認知度は低く、シェアは小さい。その分伸び代は大きい。

 両日とも昼食時に上州地鶏の試食会が開かれた。1日目は「上州地鶏モモ肉と県産野菜の和だしトマトホイル焼き」、2日目は「上州地鶏ムネ肉のコンフィと長葱のブレゼに白ワインマスタードソースを」。前者は脂のりの良いモモ肉の香りと甘みを生かしたシンプルな調理。後者はムネ肉を低温でふっくら仕上げてパサつきを抑え、濃厚なクリームソースを合わせた。上州地鶏ならではの「独特の食感と奥深い味わい」を堪能する。

 上州地鶏のポテンシャルは高い。その魅力にリトリートと温泉を組み合わせ、どのような旅行プランを造成するか。4つのチームでディスカッションが行われた。楽天のデータを活用し、旅行コンセプトの設定から旅行プランの作成へ。訴求点は何か。上州地鶏をどうプランに組み込むのか。

4チームのプラン

 Aチーム。

ペルソナは都内在住の27歳独身女性。結婚する前に自分のために今の時間とお金を使いたい。独身最後に女性グループで「食べてしゃべってキレイになれる大人女子の修学旅行」を。電車・バスを乗り継いで伊香保温泉へ。

 旅館ではアメニティバイキング。キレイな浴衣を来て石段街で記念写真。

 食がポイント。コラーゲンでキレイになれる上州地鶏のウエルカムスープ。夕食は上州牛・上州麦豚・上州地鶏の三種盛り御膳で上州肉料理を堪能。オプションで上州地鶏のサムゲタン、モモローストなど。

 帰りにパワースポットで思い出づくり。SNS映えする中国風寺院で写経体験。

Bチーム。

ペルソナは都内在住の30歳既婚男性。結婚3年目、妻へのプレゼントで子どもがいない今しかできない非日常的な「今だけ、ココだけ、あなただけ」の旅を。

 冬、新宿からバスで草津温泉へ。湯畑、湯もみ、熱帯圏、浴衣で街歩きなどを体験。夕食は露天風呂付き客室で上州地鶏鍋。

 2日目はスキー場でスノボを楽しむ。夕食は部屋で上州地鶏陶板焼き。連日の上州地鶏ディナー。

Cチーム。

ペルソナは都内在住の37歳男性。カップルで非日常空間を共有し、のんびりリフレッシュしたい。自家用車で四万温泉と草津温泉へ2泊3日の旅。

 1日目は四万温泉でグランピング。eバイク、レンタサイクルで温泉街周遊や自然体験などアクティビティを楽しむ。夕食は新たな食との出会い、上州地鶏バーベキュー丸焼き。上州地鶏をまるごと味わうイベント。そのあと2人で過ごす星空温泉。

 2日目は草津温泉で昼食。温泉、プールを楽しんだあと、露天風呂付き客室で上州牛会席。3日目は嬬恋村愛妻の丘、北軽井沢を巡り、軽井沢でランチ。

Dチーム。

ペルソナは都内在住の新卒女性社員、23歳。女性グループで非日常体験をして健康に美しくなりたい。友だちと一緒に、記憶にも記録にも残る群馬県ならではの食べ物・温泉・体験を。実家の車で乗り合わせ、四万温泉へ。

 奥四万湖カヌー体験、四万ブルー散策、温泉街散策など。食事は上州地鶏会席。地酒を楽しむ。帰りは高崎で高崎パスタを。

参加した人たちの声

 各プラン、温泉地と上州地鶏、双方の特色が響き合う。ターゲットに刺さる。データに「思い」が乗ってプランになる。

 参加者にワークショップの感想を聞いた。  伊香保温泉旅館塚越屋七兵衛、小林淳男さん。

「旅館のディレクターとして長く旅行プラン造成に携わってきた。これまで万人受けするプランをつくってきたが、今回のワークショップにおけるプラン造成はペルソナという具体的な個人をターゲットに設定するものだった。時代の潮目を感じる。

 私たちのグループでは27歳の独身女性をペルソナとして設定し、学生時代の修学旅行の楽しさを思い出しながら『第二の修学旅行』として伊香保温泉に行くコースプランを作成した。そこに健康志向を結びつけ、上州地鶏という機能性を持った食材をしっかり使うことで、温泉プラスアルファ健康増進のプランにした。すでに商品はある。今回の体験を生かし、ブラッシュアップしていきたい」

群馬県ぐんまブランド推進課で上州地鶏振興に携わる、大海さつきさん。

「業務に客観的なデータを使うことが求められるが、どのようにデータを入手したらいいか課題だった。楽天さんからデータを示していただき、目を開かれた。しっかりとしたデータがあれば今回のようにペルソナを設定したり、業務に活用したりすることができる。また、官民共創の企画として、いろんな立場の方の貴重な意見を聞くことができた。

 上州地鶏の魅力をどうやって伝えていくか。大きな課題だ。今回の体験をもとに、皆さんの意見を聞きながら、群馬といえば上州地鶏といわれるブランドに育て上げたい。上州地鶏が群馬のイメージアップや魅力向上、多くの方の笑顔や健康につながるよう、これからも取り組んでいきたい」

 群馬県観光魅力創出課でリトリートを推進する、新木剛史さん。

「群馬のリトリートといえば、温泉。そこに上州地鶏のような食を掛け合わせる。温泉と食を組み合わせて群馬で癒しを体感していただくコンテンツを打ち出していきたい。

 このワークショップを通じて、皆さんからいろんなアイデアをいただいた。われわれもリトリートの旅行プランを磨き上げていかなければならない。非常に参考になった。

 県内にはいろいろな温泉地がある。地域の方々と一緒に旅行商品を組み立てていく、そのプロセスに今回のワークショップの体験を生かし、誘客に結びつけたい。とても有意義な時間を過ごすことができた」

楽天担当者に聞く

 ワークショップのメインファシリテーター(司会進行)を務めた楽天の浅利雅士さんに聞いた。

「データの活用というと、データが結論を導いてくれるのではないかとなりがち。実際にデータによって方向性が見えることもある。AとBの選択肢があるとき、90%の確率のAを選ぶ。それも間違いではない。

 一方でBが10%だとしても、自分たちが取り組みたいこと、あるいはユーザーさんが求めているものが見えるのであれば、Bを選ぶこともあり得る。それは人間の意思決定だと思う。意思決定に沿うかたちでデータを活用していただける現場に立ち会えたことはありがたく貴重な体験だった。

 90%のAのように、結論を導くためのデータもある。一方、人をつなぐ媒介としてのデータもある。前者の仕事もするが、データをハブにコラボレーションをしていく、その可能性を感じている。

 いま官民連携や官民共創が叫ばれている。その取り組みの中で、共通のデータをもとにしたアジェンダや未来設定があることによって、なんらかのアウトプットが生まれる。それがデータ活用のひとつの意義だと思う。

 今回のワークショップによって一定のアウトプットが生まれた。次はどうするか。指標が定まれば前へ進む。変化する。そこでまた必要に応じてデータを活用し、プランの磨き上げをすることができる。プランの実現に向けてお手伝いをしたい。つなげる、つながるということが大事だと思う」

LABは続く

 データを生かす。そこに血を通わせる。新しいモノ・コトを創り出す。官民が手を携えて課題解決を図る取り組み「楽天データ LAB」は続く。

(ライター:宮沢 泰、 撮影:竹沢 佳紀)