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全国群馬県人図鑑-グンマーズ-vol.6 大塚友広さん×工藤詩織さん【中編】

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全国群馬県人図鑑(-グンマーズ-)は、さまざまな分野で活躍する県ゆかりの先輩方をペアでお招きし、お二人の母校の現役高校生も交え、学生時代の思い出や故郷への熱い思いを聞き出していくトークセッション。

中編では二人の高校時代のほろ苦い(?)エピソードに始まり、その後、大塚さんからは好きの成長点が飛躍するポイントについて、工藤さんからは漠然と好きではなく、周囲に流されない好きのエッジを立てる必要性などが語られます。好きも突き詰めると奥深いのです。 

OBの講演で進学を決意

西部  さて、聞きたいこと話したいこと満載なので、早速クロストーク進めたいと思います。まずお二人の高校時代の話も聞いてもいいですか? どんな高校生でしたか? どんなことが印象に残っていますか? 

男性の写真のコラージュ

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大塚 僕は正直言って全然勉強ができなかった。当時、自分はどういうスタイルだったかというと、我々の世代はBボーイ(※)スタイルみたいなのが流行っていて、常に坊主かウド鈴木さんみたいな髪型していました。ほんと恥ずかしいんですけど、今言うと。

※Bボーイ もともとはブレイクダンスをする若者のこと。ブームは1990年代にアメリカから日本にも波及。次第にヒップホップ文化を幅広く指す言葉に変化した。

すごく印象に残っているのが、富岡高校に入学して半年くらいしてからかな、全国模試があったんですよ。で、その時の偏差値が28だった。

西部  (笑)。

大塚  その後、三者面談があって、親父が行ったんですね、そうしたら先生から「もう大学なんか絶対に行けない。絶望的だから、別の進路を考えろ」と言われたんですよ。ほんとに。そんなこと1年生に言わないでよ、と思うんですけど(笑)。

そうしたら、うちの親父がカウンタートークっていうんでしょうか。「じゃあ先生、自衛隊はどうでしょう?」と切り返したんですね。うちの親父はそういうノリが大好きで、担任の先生もそういうのが大好きな人だったから、「それがいいかもしれない!」と盛り上がりまして。僕は確かに運動能力だけは半端なくて、体育の評定は10でした。だから話がまとまりそうになっちゃって。

その後も結局は富岡西中の延長のまま、2年の間もずっと遊んじゃっていまして、みんなでクラブイベントをやったり、スノーボードに行ったりしていて、まともに高校で何かをやったっていう記憶がなくてですね。今日は生徒会長さんもいらっしゃっているのに、こんな話をしていいのか心配にもなりますが、そんな感じの高校生でした。

でも、一つ印象に残っているのは、ちょうど今日のリアル版みたいな感じで、野口五十六さんという高校のOBの方がいらして講演してくださったのですが、その方が台湾と日本の貿易のビジネスをやっていて、当時の李登輝総統にも会ったみたいな話を聞いて、めちゃくちゃワクワクしたんですよ。国際舞台でダイナミックにビジネスを仕掛けるみたいなことをやってみたいなと、その時すごく思った記憶があって、それで大学に行こうと決めました。

僕は神奈川大学の経済学部貿易学科(現在の現代ビジネス学科)を出ているのですが、それは国際的な仕事をしたい思いがあったからで、実は青山学院大の国際政治経済学部に行きたかったんです。なぜそこに行きたいと思ったかというと、オープンキャンパスに行った時にものすごくいい香りしたんですよ。きれいなお姉さんがいっぱいいて——。

西部  (笑)、そうなんですね!

大塚  それが私の中の東京の香りで、ここに行くしかないと思っていたのですが、残念ながら受からずで、神奈川大には受かりました。浪人しようかとも思って親に相談したら、「いや、お前運がいいから行ってみろ」と言われて、神奈川大に行ったら、そこですばらしいマーケティングの先生に出会えて、めちゃくちゃマーケティングが好きになりました。

神奈川大は中堅大学なんですけど、実はそこのマーケティングゼミのOBからトヨタ自動車の副社長も出ているんですよ。私はゼミのOB会長もやらせてもらっているので、世界を代表する企業の副社長ともコミュニケーションを取らせてもらえる立ち位置にあって、それも運が良かったなと思っています。だから結構、OBの野口さんの話を聞いて感化されて進路選択したところから始まっていますね、私。

西部  そうね。今日も学生さんにとってそんな時間になっていたら、うれしいです。

未来は定まってなくてもいい

西部  詩織さんはどんな高校生でしたか?

工藤 前女に進学できて結果的にはラッキーだったなぁと思っているんですけど、最初はものすごく頭の良さそうな子に囲まれて、ここでどうやって生きていこうと悩むこともありました。でも、友だち関係に恵まれたおかげで自分のペースで自分の将来を考えようと思えるようになりましたね。

2年になって進路を決めないといけない空気になってきた時、私の中では興味のあることが栄養学か食文化の2つしかなくて、立教大学異文化コミュニケーション学部と観光学部、あとは女子栄養大学の食文化を学べる学科、私大はその3つしか受けませんでした。自分が理系に向かないこともわかっていたので、ゴリゴリ理系の管理栄養士さんとかは選択肢になく、海外に行って食文化が学べるところにしぼっていって決めました。

自分の興味関心をそいだ結果、高校2年生くらいから進路は決まっていて、その分、受験期もあまりメンタルをやられずに済んだのですが、今考えると、周りが個性を受け止めてくれる場所だったので、高校時代は本当に楽しく、のびのびと自分らしく過ごせたかなと思います。

でも、生徒会活動などとは無縁でしたし、部活動はダンス部に1年だけ入ったんですけど、やっぱり集団活動があまり得意じゃないと気づき(笑)、退部して、仲の良い友だちと学校終わったらミスタードーナッツに行く“ミスド部”を作って、ずっと同じメンバーでお茶する会をやっていました。特筆すべきこともないんですけど、こんな感じが私の高校時代です。

西部  奇しくも二人とも進路選択の話に触れましたね。詩織さんは早いうちから食文化だなと思うきっかけがあり、かたや大塚さんはOBの方の話がきっかけとなって自分はグローバルマーケティングの道に進みたいと思って神大(じんだい)を選んでいった。進路が当時から明確な二人であることは今日のペアの特徴だと思います。

学生のお三方もこれから将来の道を選んで行くことになりますが、ここまでで何か聞いてみたいことや質問などありますか?

横田 今、2年の終わりでもうそろそろ進路を考えていかなければいけないのですが、実は僕、特にやりたいことがないんですよ。教師になりたいので、大学に行きたい気持ちはあるんですけど、正直、どこかで教師になれなくても良いかなと思っちゃっていて。やりたいことがない場合、どうしたらやりたいことが見つかるのでしょうか。

西部  良い質問ですね! やりたいことを見つけなければいけないのかどうか。お二人どうですか?

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大塚  アドバイスみたいになっちゃいますけど、両方選択できれば選択してしまえば良いんじゃないかなと思いました。その過程で何かやりたいことが見つかれば、そちらに行けば良いので。ゴリゴリの教育学部に行ってしまうと、そこからビジネスへはちょっと舵が切りにくかったりするけど、教員免許は経済学部でも取れると思うので、そちら側に行ければ行っておいて、本当に教員になりたいと思っているのかどうか、そこで自分と向き合って考えてみて良いのかな、と。

私も進路は決まっていたように見えて、ざっくりとしか決めずに大学行ったんですよ。そこでマーケティングというものに出会って、その勉強がめちゃくちゃ面白いなってことに気づいて突き詰めていったんです。それまでは要は国際的なことぐらいの枠組みで大学選択をしていきました。実は高校2年くらいまでは、警察の特殊部隊のSATになりたいと思っていた時期もあったんですよ。

男性の写真のコラージュ

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西部  本当に⁉︎(笑)

大塚  その前段もあって、中学の時の野球部の監督が、元は商社に勤めていて30過ぎに教員になった面白い方だったんですが、「この本面白いぞ」って落合信彦さん(※)の『アメリカよ!あめりかよ!』という本を薦めてくれたんです。それを読んだ時、「これヤバい!」と思ったんです。

その後、富岡高校でOBの野口さんの話を聞いた時、なんか落合さんの本から感じたワクワクがよみがえった気がして。そういう海外でビッグビジネス仕掛けるみたいな話が一番ワクワクするんですよ。進路はやっぱりそっちかなとは思ったんですけど、枠だけはちょっと広めにとらえてはいました。

※落合信彦 アメリカのオルブライト大学で国際政治を専攻。卒業後、石油業界を経て国際ジャーナリストに転身。著書に若者たちへのメッセージを綴った『狼たちへの伝言』など。メディアアーティストとして活躍する落合陽一氏の父親。

だから、定まってなくても良いんじゃないですかね。僕も高校時代にガチガチに定まっていたわけじゃない。そもそも分からなかったのもあったし、大学に行ってから学んだことも多かったんですよ。特殊な領域に行くと、その後の選択肢も狭くなっちゃうと思うんで、広くとらえておけば良いのではないでしょうか。

好きを昇華させる秘訣は?

西部  さて、次の質問に移りたいのですが、人間って何か好きなことがあっても、突き抜けるまでやり切ることは結構難しいですよね? 私はそう思っていて、私自身も好きなものはありますが、飽きてしまうし、突き抜けるまで何かに対してプロフェッショナルになれたかというと、そんな自信はありません。

そう考えた時、二人は豆腐、ゴルフという領域を誰にも負けない強みになるまで昇華しているなと思うのですが、好きなことを飽きずにやり切る秘訣はありますか? 

メガネを掛けた男の子

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工藤  今回好きを仕事にしている人ということで呼んでいただいたのですが、私はそもそも幼少期から何かになりたいという夢はなかったんです。だから「私には何ができるかな?」「どうしたらそれを仕事にできるかな?」と自分で仕事を作っていくしかなかったのは一つあると思います。もともと日本語教師を目指していたのも、海外に行ってみたくて、その時に何か手に職を持っていたいということが一番の理由でした。

西部  なるほど。

工藤  きっと美容師でも絵描きでもミュージシャンでも良かったんですけど、どんな仕事があるかなと思った時、日本語教師として海外で暮らしてみようと思ったのがきっかけでした。だからお豆腐を仕事にしようと思ったのも、大学院を辞める時にようやく覚悟がついた。それまでは自分の趣味の範囲内でお豆腐を突き詰めていたというか、好きでいた時間があって、好きが仕事になったのは私の中では結構偶然に近いものがあります。

白いシャツを着ている女性

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それで、何かがすごく好きで、それを仕事にしたいと思っている方に向けてのアドバイスをちょっと整理してみました。

まず、好きなものに嘘があってはいけないということは一つあります。例えば、「お寿司の方が国際的で良いじゃん!」とか「味噌の方がニーズありそうだよ」とか、言われるかもしれないんですよ。それでも私は豆腐が好き、と言い切れるかどうかは試される。そこで歯を食いしばって豆腐が好きって言えるかどうかはすごく大事だと思います。

それから、仕事にしたいと考える時は、好きなものをどの角度から見た時、自分は魅力を感じているのかを分析するといいと思います。例えば、お豆腐は美容に良いとか、筋トレに必要なタンパク質源だとかいわれますけど、美容や筋トレという角度は私のパーソナリティにしっくりこない。

どんな角度からお豆腐にアプローチしていくかを自分なりに分析した結果、私は旅が好きで、旅先で豆腐屋さんを訪ねるのが好き。だから豆腐の地域性について語れるようになろう、と。その角度を明確にした結果、仕事を出す側も「工藤に頼めばこういう話が聞けるだろう」とわかりやすくなった部分はあると思います。

あとは、豆腐の世界だけにいても仕事は広がらないので、音楽やファッション、いろんなフィールドに「お豆腐ってめっちゃ面白い食べ物なんだよ!」みたいな話を積極的にしにいく。他の業種との化学反応もちゃんと仕掛けていかないと、お仕事は生まれづらいのかなと思います。

西部  ありがとうございます。大塚さんはどう?

大塚  僕は先ほど西部さんが言った「飽きる」ところがポイントだと思っています。突き抜けて好きなことをやり続けると、必ず飽きは来ます、何でも。それでもやりたいと思うかどうかだと思うんですよね。

それがいわゆるビジネスとかでいうところのキャズム(※)みたいなものだと思っていて、盛り上がって好きだって突き詰めていくじゃないですか(手の先を斜め上に上げる動作をしながら)。それは必ず一度平らになる。でも、そこで飽きずにがんばっていくとすげぇ伸びる。この先の伸びって半端ないんですよ。

※キャズム 深い溝を意味するビジネス用語。顧客に新しい商品やサービスを浸透させる際に発生する大きな障害のこと。

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ゴルフも一緒。全然上手くならない平坦のフェーズがある。「なんでや?」と思ってもこの時期を我慢して我慢すると、その後めちゃくちゃ突き抜けて上達していく。ものすごいところまで行くんですね。

自分も実体験があるんで、何事もこれと似た感覚でとらえてます。またキャズム来たな(笑)と。この先にもっと深い世界が待っていると思って粘ると、全然景色が変わる瞬間があるんです。そしてもっと好きになる。

西部  二人とも好きを突き詰めるとらえ方がそれぞれで、面白いですね。加庭さん、久保さん、どちらでも感想でも質問でも何でもあればお願いします。

久保 私、小さい頃からずっと絵を描くことが大好きで、ずっとイラストの仕事をしたいなと思っていました。でも、高校に入ったら勉強が本当に忙しくなっちゃって…。今までは暇さえあれば絵を描いたり、自作漫画を作ったりしていたんですけど、高校ではできなくなってしまって。

好きなことを続けるのなら、趣味はなくさないほうがいいですよね? 好きなことはとことん突き詰めていくべきなのか、前女に入ったからには勉強の方を突き詰めるべきなのか今すごく迷っていて、どういう方向に自分が進めば良いのかわからなくなっている状態なんです…。選択に迷った時はどうすれば良いですか?

工藤  前女生が感じる焦りの気持ちはわかるなぁと思いました。前女は群馬県内ではある程度ブランドのある進学校のイメージで、将来キャリア的にも活躍する方がたくさん出ますし、自立している学生さんが多いですよね。

周りがすごく高み目指しているけど、私ここに食らいついていかないといけないのかなというような気分ですよね、多分。私も1年の時、まさにそうだったんですよ。でも結果から言うと、その校風には揉まれましたけど、私という人間はあまり変わらなかった。

お医者さんや教師を目指す友だちもたくさんいましたけど、みんなの夢はみんなの夢。私の夢はこれなんだなって、自分に気づけた場所でもありました。今は多分、合わせなきゃいけないのかなぁと思いつつ、自分が一番やりたいことができないもどかしさも感じていると思います。

趣味って自分の中から湧き出てきたもので、人から与えてもらえるものではないと思うんですよ。だから、本当に飽きない限りは続けていただきたいし、それが久保さんの10年後、20年後に花開くかもしれません。将来イラストレーターにならなくても、イラストが描けるのは、今後のお仕事ですごく喜ばれることになるかもしれないですし、趣味をあきらめてしまうことは高校生活を犠牲にすることにもなってしまう気もします。

当然勉強はしなきゃと思うと思うんですけど、私はいつもノートの端っこに絵を描きながら授業を聞いていましたし、世界史も絵を描きながら覚えていました(笑)。私もお絵描き大好きなのでわかりますが、好きなことをあきらめないでほしいです。

久保 ありがとうございます。

西部  大塚さん、何か付け足したいことありますか?

大塚  いや、もうその通りで周りに流されず、自分に素直にいたらいいと思います。前女だから勉強しなきゃいけないというルールはどこにもないし、やりたいことがそこにあるならやったらいいと思うんです。

それは趣味で終わらない可能性は十分にありますので、仕事にしたいと思ったら仕事になるので何にも問題はない。周りの目は一切気にしなくていいっていうふうに私は思う。ただただ、自分のために生きれば良いと思う。

西部  力強い言葉ですね!

(後編はゲストへの恒例の質問「群馬をどう見ていますか?」&「始めの一歩を踏み出す秘訣」。さて、二人の答えは?)

ライター・岩井光子

登壇者

大塚 友広 (株)イノベーション バイスプレジデント

富岡市出身。2012年、富岡製糸場世界遺産プロジェクトの民間公募で観光トップに就任。「観光不毛の地を観光の地に」をテーマに様々な仕組みを構築。2017年、(株)Marketing-Robotics 取締役COO就任。法人営業コンサル事業で5億円の資金調達、年間成長率300%を達成。2019年(株)ラフール執行役員を経て、2021年Innovation X Solutions 代表取締役に就任。現在は(株)イノベーションにて、バイスプレジデントを務める。ベストセラーゴルファーとして独自理論をまとめた『ゴルフはインパクトの前後30センチ!』シリーズは、ゴルフ本で異例の15万部突破。

工藤 詩織 豆腐マイスター

前橋市出身。豆腐マイスター。幼少より豆中心の食生活を送る無類の豆腐好き。大学で異文化コミュニケーションを学び、当初は日本語教師をめざしていたが、その過程で「食文化としての豆腐」の奥深さに目覚める。同時に、年間約500 軒のペースで豆腐製造事業者がなくなっている現実に衝撃を受け、大学院を自主退学。「往来」を屋号に、国内外で各種イベント企画・プロデュース・取材・執筆等、豆腐の魅力を広める活動に取り組む。テレビ、ラジオ、雑誌、など多方面で活躍。燕市の職人と共に豆腐用カトラリーブランド「絹と溜」を運営。著書に『まいにち豆腐レシピ』(池田書店)。

西部 沙緒里 株式会社ライフサカス CEO

前橋女子高、早稲田大学卒。博報堂を経て2016年創業。「働く人の健康と生きる力を応援する」をミッションに、働き盛りの人が抱える生きづらさ・働きづらさを社会全体で支える環境づくりを進める。研修・講演事業、コンサルティング・アドバイザリー事業、Webメディア・オンラインコミュニティ事業の3領域で、全国の企業・行政・学校などとさまざまな協業や伴走支援を行う。 NPO女性医療ネットワーク理事、(独)中小企業基盤整備機構・中小企業アドバイザー。2020年東京からUターンし、新たに(一社)かぞくのあしたを設立。高崎市在住。

横田 想 富岡高校2年

加庭 慶悟 富岡高校1年

久保 帆乃璃 前橋女子高校1年