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【熱源な人】オーダーメイドを当たり前に。未来の幸せな服作りを進めるフクル代表・木島広さん

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道なきところへ一歩を踏み出し、自分の道を切り開いた人の心には、ふつふつと沸き立つ熱がある。黙々と働くあの人の中にも静かに宿るその熱が、社会を変え、未来をつくる原動力となる。湯けむりフォーラムでは、群馬において様々な分野で活躍する人々にフォーカスし、その動機や、これまでのストーリーを深掘りして伝えていきます。その人自身が熱源となり、誰かの心を沸き立たせるきっかけとなるように。

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『熱源な人』はリレー記事です。前回お話を聞いたトリプル・オゥの片倉洋一さんに推薦していただきました。(前回の記事はこちら

【推薦コメント】木島さんは”Think diffentな人”※である。常識にとらわれずに、どんどん衣服を通して新しい未来を切り開いている開拓者。職人(パタンナー)であり、関わる人の幸せを設計する起業家でもある。「人と衣服の幸せな関係」なんて素敵なビジョンなんだろう。ふわふわのブランケットに包まれた時のようなやさしさ溢れる幸せを想像してしまう。木島さんの内側をもっと知りたい!という気持ちから推薦させていただきました。 (※Think different :Apple社CMで、わたしのキャリアに大きな影響を与えてくれた)

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Contents

ドラえもんの未来都市みたいに
人が縫わなければ服は作れない
縫製業を救う服作りの仕組みとは?
人と服の幸せな関係を追い求めて

服を買い、おしゃれをすることは楽しいこと。ただ、大量生産された安い服の裏に過度な環境負荷や労働者の負担が隠れていることが知られるようになり、服の選び方や買い方について、より慎重に考える人も増えています。フクルの木島広さんは、買う人も、作る人も、誰もが服と幸せな関係を築けるよう新しい仕組みを考案、生産方式も刷新しようとしています。

ドラえもんの未来都市みたいに

フクルの社名は「“服”を作るすべてを叶え“る”」を縮めたものだという。代表取締役・木島広さんの経歴は、ファッションを志す人なら誰もが憧れるようなポストのオンパレードだ。

歌手のビョークが愛用していることでも知られるファッションブランド、ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソンのチーフパタンナー、そして、イオントップバリュ衣料商品開発部門のチーフクリエイティブデザイナー。かたや熱狂的なファンを抱える日本のトップデザイナーズブランドであり、かたや巨大流通グループのプライベートブランド。木島さんはファッションビジネスの両極を経験し、故郷の桐生で2015年にフクルを創業した。

木島さんには今、どんな服の未来が見えているのだろう?

フクルは、新しい服の生産システム“マスカスタマイゼーション”を推進するスタートアップの一翼として、経済産業省の「繊維の将来を考える会」にも名を連ねる。マスカスタマイゼーションとは、ITやIoTを導入してオーダーメイドの服を効率良く、たくさん作る手法だ。受注してから生産するので作りすぎを防げる。

「今のビジネスモデルにたどり着いたのは、投資家のアドバイスがきっかけでした。彼はこう言ったんです。『21世紀の世界って、僕はドラえもんに出てくるような未来都市を想像してた。でも空に車は飛んでないし、真空チューブを走る高速鉄道もない。せめて電子レンジに布入れたら服が作れるような世の中にしてよ』って。その時、僕、鳥肌が立ったんですよ。あ、できるって(笑)。その方が思い描いていた未来と、僕のこれまでのキャリアがカシャッて一つのコンセプトにまとまった瞬間でした。そこからフクルが何をすべきかが非常にクリアになって、自分がやりたいことはマスカスタマイゼーションというカテゴリーにくくられることもわかりました」

人が縫わなければ服は作れない

フクルが目指す未来とは、服の縫製以外の工程をシステム化したり、オートメーション化したりすること。もともとオーダーメイド品だったものを単純作業に分化させることで生産効率を上げ、人件費を削ってきたのが近代産業の歴史だが、その工程を再びオーダーメイド前提に組み立て直し、経費を縫製に集約して国内服飾生産の再起を図るというものだ。

「服が日本で生み出されるシェアは約2%、つまり98%が海外からの輸入です。人件費が高いことがその理由ですが、人が縫う以外服は作れません。だったらそれ以外の工程を無人化、機械化すれば良いじゃんと、シンプルに思いついたんです(笑)。『いや、そんなの俺だって思いついたよ』と縫製工場のおじさんたちに言われそうですが、テクノロジーやシステム環境が整ってきた時代背景も相まって、実現できるんじゃない? と思い始めて今に至ります」

手持ちの服のタグを見ればわかるが、現在日本人が着ている服の生産拠点はほとんど東南アジアの国々だ。国内繊維業の事業所と製品出荷額は1991年比で4分の1まで減少している。木島さんの実家も縫製工場で兄が後を継いだ。安い工賃と担い手不足にあえぐ繊維業の疲弊は木島さんにとって他人事ではない。

「例えばうちの両親が作った服が百貨店に入った時、半分くらいは売れ残って安くなるわけですよ。縫製工場に生まれた自分は、そういう負の連鎖を懸念しながら育ちました。パーソナライズした服を一着ずつ作るビジネスを発想したのは、懸念を払拭するためにはどうしたら良いかをいつも考えていたということもあると思います」

アパレルの世界では商品が正規の価格で売られる率は4〜6割程度。残りは在庫処分のセール品として安く売られ、それでも売れなければ廃棄される。売り場の日の目さえ見ず、倉庫に留め置かれる商品も多い。売れ行きの見込みが立たない業界の特性がロスを生み、縫製工賃の安さにもつながっていた。

「繊維業界全体を良くしたい。国産衣類の割合が2.5%とか3%にでも上がって、工場で働く人たちの生活が少しでも豊かになるビジネスの形を作ることができれば、縫製工場の息子として本望です」

「今まで自分が得たノウハウやキャリアを注ぎ込んで、全国の縫製工場をつなぐネットワークを作りたいんです。単一商品を作るライン工場ではなく、分散型のネットワークをイメージしています。まだ北関東・北陸・東北・関西圏くらいにしかネットワークはないのですが、これが全国に広がっていけば服作りの地産地消が実現できる」

何より工場の従業員にやりがいを感じてもらいたいという思いは強い。仕事に張り合いが生まれれば、縫製の仕事に夢を持つ次世代も育つだろう。

縫製業を救う服作りの仕組みとは?

フクルの仕組みは既に自社サイトや都内百貨店で婦人スーツやワンピースのマスカスタマイゼーションシステムとして稼働している。オーダーメイドは値の張るイメージがあるが、価格はスーツで4、5万円程度。商品は発注から数週間で納品される。

生地やボタン、ファスナー、デザインパターンなど服作りに必要な一連の材料をデータベース化。自在に組み合わせることで多様なオーダーに対応。注文地に近い工場に振り分けることで輸送の効率化も図る(フクルサイトより)
型紙パターンをプロッターという機械で紙に打ち出す。昔はすべて手作業だったが、今は機械で効率良くできる
ミシン目もつくので、手で切り離すだけで型紙ができる。これを布に当てて裁断する
オリジナルブランド「SEWILL」。「一着ずつ作る。しかも超多品種で、と説明すると『そんなことできるわけない』と言われることは正直、まだ多いです。自社ブランドは私たちのやろうとしていることをイメージしやすくするために作りました」
フクルは社屋がない。「工場みたいな資産があるとランニングコストがかかってしまう。この建物も兄の会社で、フクルは基本ファブレス、居候です(笑)。ランニングコストをかけないことで、できるだけ縫製工程にお金を払えるようにしています」

人と服の幸せな関係を追い求めて

コム デ ギャルソンの貪欲な創作姿勢、イオンのコスト意識、どちらの精神もフクルにバランスよく息づいているように見える。木島さんの強みは、その優れたバランス感覚なのかもしれない。

「強く、新しく」がコム デ ギャルソンの創始者、川久保玲さんが一貫して言い続けてきた創作哲学だ。「過去にあったものをなぞるようなデザインは絶対にダメでした。いつも強く、新しいものを徹底的に突き詰める姿勢は、僕の中にアイデンティティとして100%根づいていますね」

「追求しているのは人と服の幸せな関係性です。最近は環境負荷が取り沙汰されて服が悪いやつのように言われることもあるけど、良い関係を構築したいんですよね」と、木島さんは言う。服の長く複雑なサプライチェーンの闇が問題視されるようになり、とかくエシカル(倫理的な)を意識した服に舵を切るか、切らないか、分断した構造になりがちだが、木島さんは話を二極化することには慎重だ。

「例えば、服の生産過多の100%は是正できなくても、何%かがマスカスタマイゼーションに置きかわるだけでも負の連鎖は少なくなるでしょうし、日本の繊維産業で働く方々の事業継承に役立てることになるかなと。環境負荷を減らすこともサステナブルですが、危機的な状況にある国内の繊維業をいかに続けていくかもサステナブルだと思うんです。そう考えたとき、自分ができることの最大値がどこにあるかを常に意識しています」

現在開発中だという服の生産に伴って出たCO2量を可視化するシステムも、木島さんは0か100ではなく、スペクトラムな選択肢を構想する。環境対策では小売の先陣を切ってきたイオンでカーボンオフセット(※)した服を手がけた経験を活かした仕組みだ。オフセット済みの商品を店頭で見かけることは増えたが、フクルでは顧客がECサイトで服を購入する際、その服のCO2量を示すと共にオフセットするかどうかを尋ね、する場合は割合を顧客の裁量で選べるようにするという。代金はフクルが預かり、グリーン電力を支援するなどしてオフセットを代行する。※自分で削減できないCO2排出量を、植林支援やグリーン電力など他で行う削減の取り組みで埋め合わせること)

「環境に良い商品か、気にしていない商品かの二択になりがちですよね。そこをもっと民主化したい。安い服を購入したいという人に対して無理矢理オフセットの代金をむしりとるというのもビジネスの形としてはあまり良くない。50%でも100%でも選択をお客様におまかせして、自ら行動を起こせるきっかけづくりを私たちはやりたい」、木島さんはそう説明する。

「購入サイトにカーボンオフセットの機能をつけたり、お直しやリメイクなどのサービスもつけ加え、従来の縫製業や物流業の在り方を組み換えながら、新しいサステナブルな商品の形を探りたい」と木島さん。「オーダーメイドが当たり前の社会」にふさわしい付加価値を構想中だ

生来テクノロジーやシステムに関することが大好きだという。様々な領域を縦横無尽に行き来しながら新しいビジネスを構築する自由を、木島さんは楽しんでいるように見えた。

最後に、大企業の最前線で働くより、独立した今の方が楽しいですか? と聞いてみた。

「楽しいで・す・ね。ここ数年、業界をまたいで仕事をするチャンスが増えてきました。私たちが今やっている服作りも繊維産業にICT、テクノロジー、物流業など複数の業種をまたいでいます。そういうクロスインダストリーなプロジェクトは、なかなか一企業のサラリーマンとして取り組むチャンスは少ないかもしれません」

「今は情報化社会なので自分が知りたいことをたくさんリサーチできますし、それを自分なりにかみくだいてアクションを起こすことがやりやすい世の中なので、私はこの時代に生まれて非常に良かったなぁと思っています。今、風呂敷を広げ過ぎているんですけど(笑)、一つずつ着実にやらせていただきます!」

「空飛ぶクルマ」も実証実験が始まり、リアルになりつつある。そうやって人の頭の中にあった未来は徐々に現実のものになってきた。「自分も頭に描いた、強く、新しい未来の服作りが実現できたら良いなぁと」。木島さんは服の明るい未来を信じている。

(ライター:岩井光子 写真:Lo.cul.p 木暮伸也)

登壇者

木島 広 株式会社フクル代表

桐生の縫製工場に生まれる。1999年コム デ ギャルソンにアルバイト入社。3年後正社員に登用される。ジュンヤ ワタナベチーフパタンナーに就任。2008年イオンリテールに転職し、衣料商品開発に従事。PBトップバリュコレクションでチーフクリエイティブデザイナーに。2011年帰郷し、抱っこひもを製造・販売するHuggyhuggyを起業。2015年にフクル創業。自社サイトや都内百貨店でマスカスタマイゼーションサービスを提供中。