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全国群馬県人図鑑-グンマーズ-vol.4 渡邉俊さん×髙橋美紀さん【中編】

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全国群馬県人図鑑(-グンマーズ-)は、さまざまな分野で活躍する県ゆかりの先輩方をお招きし、学生時代の思い出や故郷への熱い思いを聞き出していくトークセッション。中編では大学進学を機に都心へ出た二人が、群馬の魅力を再発見するまでを深掘り。

共通点は「上毛かるた」。プロのマーケッター・渡邉さんが上毛かるたに着目した理由や、県外ではコミュニケーションツールにも活用できるという髙橋さんの着想は斬新! 自分の気持ちに正直な二人の生き方に、各々の出身高校のゲスト高校生たちも触発されていきます。

夜中のブログ投稿は消すな?

西部 おそらく反骨精神もあって、一度は群馬県外に出る選択をしたお二人の不思議な共通点は今、再び「群馬をフィールドに活動していること」ですよね。二人ともプロジェクトをお持ちですが、プレーヤーとして群馬に戻ってくることになった経緯を聞かせてもらえますか? 

渡邉 きっかけは魅力度ランキングが大きいかな。当時2012年くらいですかね。僕は日産のマーケティングで、日産のブランドイメージ調査をずっと担当していました。皆さん、日産と聞いてどんな印象があるのかはわからないですけど、その頃の日産の車はあんまりいいイメージではなかった。トヨタは環境に優しい車、ホンダはF1に参戦していたから走りの良い車というイメージだったんですけど、日産って特に突出したイメージがなかった。昔はすごかったけど、今はねって。

僕はその調査をやっていて、どうすればいいかをいろいろ考える立場だったのですが、あ、同じようなことに悩んでいる都道府県がある! それは群馬県だと。

西部  あ、なるほど!

渡邉  その辺りから、群馬の魅力度アップとか、良いイメージをつけるためになんかできないかなとマーケッターなりにいろいろ考えてみたわけですよ。例えばB-1グランプリとかありますよね、B級グルメの祭典。そういうのをもっと活用すればいいのに、と思ったり。群馬はその頃、太田焼きそばくらいしか出ていなかったですよね。

当時は地域活性化が結構ブームになっていて、香川県が「うどん県」と打ち出して俳優の要潤さんを起用したり、そんな流れもあって僕も群馬で何かできることはないかなぁと、徐々に車から群馬に思いがシフトしていきました。そこで上毛かるたが頭の中に出てきて、かるただったら何かできそうだし、かるたで何か貢献できないかなぁと。そんな感じで(今のプロジェクトに)流れついた感じです。

西部  でも、そういう着想があっても、普通はそのままにしてしまうかもしれない。要は群馬に住んでいないわけで、県外からできることって限られるよね…と、多くの場合、行動に移さずに終わってしまうように思うのですが、実行に移せたのはどんな巡り合わせがあったからですか?

渡邉  逆に、群馬にいない方がいいのかなと思って。当時はYouTubeもなかったですし、群馬の魅力を配信していくためには、要は一番でかい都市、東京でリアルイベントをやるとか、そういうことしかできなかったわけですよね。なので、僕は横浜在住ですけど、横浜にいた方が群馬の魅力を配信できるように思っていました。

それと始めの一歩は…、これ参考になるかわからないですけど、僕、当時夜中にブログ書いていたんですよね。夜中の1時くらい。眠る前って少しテンション高くなるじゃないですか。

西部  わかります(笑)。

渡邉  その勢いでブログに「上毛かるたの全国大会をやる構想があるんだけど、誰か一緒にやってくれませんか?」と書いたんですよ。テンション高いノリで(笑)。それで寝て、朝起きて、「なんでこんなこと書いたんだろう?」と思うじゃないですか。

僕も思ったんですけど、ま、消す必要もないかと思って、消さずに会社行ったんですよね。で、戻ってきたら4人くらいからコメントやメッセージが来ていて、「ぜひ面白いんで一緒にやりましょう!」と。そうなってくると、「これ深夜のテンション高い時に書いちゃったから、正直今、そこまでのテンションないんですけど…」とは言いづらくなる。もうみんな盛り上がっているし、後に引けない。

西部  確かに(笑)。

渡邉  皆さん東京在住だったんで、それでは「何月何日に品川でご飯でも食べましょう」と一緒に行ったのが最初の実行委員会。だから、一歩踏み出すためにはテンション高い時に行動起こせばいいのかな(笑)。

西部  夜中の投稿は消せっていう説もありますけど、消したりしないでね(笑)。

かるたは営業ツールにも?

西部  美紀さんにも聞きましょうか。美紀さんは子育て中に太田にIターンして、それが最初のきっかけになっているとは思いますが、現在は茨城県民でありながらも、県内の活動にどっぷり関わることになった経緯を教えてください。

髙橋 都内で働いていた頃にまで遡(さかのぼ)りますが、思えば、私のきっかけにも上毛かるたが大きく影響しているなぁと。本当にかるたの存在に救われたというか、そういう話があるんです。

東京にいた時、麻布十番って都内でもめっちゃオシャレな場所があるじゃないですか。一時期あの辺りでお仕事していた時は政治家とか経営者とか芸能人の顧客が多かったんですけど、「みんなで麻布十番祭りに一緒に行きましょう!」って話になった時、衝撃的なことがあったんです。焼きまんじゅうの屋台が出ていたんですよ。遠くから見て気づいて「え!? まさか、このオシャレな麻布十番に? 嘘でしょ⁈」って私もう大興奮で、その場で焼きまんじゅう20個買ったんですね。ソウルフードってやっぱりすごいなと。

一緒に行った方々が「焼きまんじゅうって何なの?」と興味を持ち始め、私は上毛かるたの読み句がひと通り頭に入っているから、もう口上のように観光名所が出てくるわけですよ。このお店がある太田には子育て呑龍と呼ばれる寺院があって、上毛かるたの「お」なんだって言うと、「ん? 寅さん? その音頭は何? なんか落語聞いているみたいだけど、どうしてそうつながっていくの?」って(笑)。

そこから、知り合いの経営者の方や年配の方が、「今度群馬に行くんだけど、オススメない? 美紀は群馬出身だよね」とか聞かれるようになって、「着物好きだったら銘仙織り出す伊勢崎市だから伊勢崎行って、あと桐生も織りどころだから行ってみて」みたいにやりとりする機会が増えて…。その頃は営業ツールとして、バッグの中に上毛かるた入れて持ち歩いていました。今でこそ女性起業家ってキラキラした感じになっていますけど、なんの取り柄もない私を光らせてもらえるキラー(最強の)ツールがないかなぁと探していた時、上毛かるたに救われたところはあります。

太田に引っ越した後も子どもたちと上毛かるたをやって、なんか洗脳ですよね(笑)。札をバーッて並べて、「はい、読み上げまーす。この中から今週の旅行はどこ行く? 『世のちり洗う四万温泉』? よし、四万温泉行きましょう!」と。そんなことをやっていると、東京の友だちが遊びに来た時に「もしかしてこれ? 美紀が言ってたあの上毛かるた?」みたいな話になって、話が広がる。上毛かるたは人をアテンドする時にも使えるし、話の糸口にもなる。

札を深掘りしてみるとさらに面白いですよね。自分が何気なくイベントごとで着ていた伊勢崎銘仙も、実は明治時代に一世を風靡したすごいものだとわかると、この文化を私も子どもに正しく伝えたいと思うし、次の世代にも届けなくちゃと思い始めて、気づいたらなんか群馬が楽しくなってきちゃった、みたいな。渡邉さんも、上毛かるたも本当にみんなありがとうございます!

西部  かるたもツールとして生活を楽しんだり、文化を深掘りしている中で気づいたら群馬の活動にどっぷり関わることになったっていうことですね。

自分を信じる力をつけて

西部  ここで高校生の皆さんから、感想でも質問でも一言ずつお願いできますか?

木暮さん(以降、木暮) はい。高崎高校の木暮です。渡邉さんに質問です。会社を辞めて独立してから大変だったことはありますか? 

渡邉  いや、それはたくさんありますね〜(笑)。なんで会社を辞めたかというと、これはあまり高校生に言ってはいけないかもしれないんですけど、僕は組織がちょっと苦手だったんです。自分一人で何かやる方が好きなんですけど、会社にいるとあんまり興味はないのに出世レースとかに参加させられたりして、そういうのが苦手でした。ただ辞めたら辞めたで、世間知らずだとよくわかりました。

独立すると税金の計算とか、最初は自分でやらなければいけなくなる。全くわからなかったですし、他にも社会保険とかいろいろあるんですよ。そういうことは学校では教えてくれない。納税なんて国民の義務なんで社会の基本だと思うんですが、サラリーマンをやっていると自分の給料からどんどん天引きされるだけだから、気にしなくなるんですよ。ですから、そういうところは結構大変でしたね。

西部  木暮さんはいずれ独立したい夢があるのですか?

木暮  そうですね。僕も結構集団で動くことは苦手なので、独立するかもしれないです。

西部  ありがとう。楽しみですね! 続いて樫村さん、お願いします。

樫村さん(以降、樫村) 伊勢崎清明の樫村です。髙橋さんの話を聞いて、行動力がものすごいなって感じました。思い立ったらすぐ行動というのは、結構自分も近しいところがあって、何か楽しいことを思いついたら、まずやってみないと気が済まない性格です。今、清明で生徒会やっていますが、清明では文化祭や体育祭、球技大会などの学校行事を生徒会が中心となって8割方企画してやるみたいな、そういうちょっと特殊な生徒会です。企画の中で「これやったら楽しくね?」と思ったらやりたくて仕方なくて。

西部  おぉ、すごくいいですね!

樫村  でも、やっぱりそうでない人もいるじゃないですか。やりたいとは思っているけど、一歩が踏み出せないとか。そういう人たちも巻き込んでいけたらもっと行事が盛り上がったり、イベントだったらもっといろんなつながりが生まれたりして面白いかなと感じました。

西部  美紀さん、巻き込むコツについてアドバイスありますか?

髙橋  も〜〜〜、最高じゃないですか‼︎ 樫村さんはもうそのままボーボー自分のエネルギー燃やしちゃってください。この熱は群馬の物理的な灼熱と、あと人間の熱さもあると思うんです。だって私は今、茨城に住んでいますが、あまりに住みやすくてだんだんぬるま湯生活になって、私大丈夫かなって自分でも思います(笑)。

さっき会社を辞めて独立する話が出ましたが、今後自分の人生でいろんな決定をする場面があると思います。この自己決定っておそらく今の若い人たちには本当に必要になると思うんですよ。これからの人生でたくさん経験を積んで、時にはリーダーになったりして、いろんなことを決めていく。その時、やっぱり経験の数が多いほど選択肢は広がると思うんです。

樫村さん、私に行動力があると言ってくださってありがとうございます! そう、良い意味で悩んだって変わらないんですよ。だって一晩中悩んで、次の日起きたら誰かが助けてくれる? くれないですよね。自分が楽しいと思うことを信じて、自分をちゃんと信じられる力をつけることが大事。別に失敗しても大丈夫だから。とにかく樫原さんが楽しそうに楽しいことをやっていたらみんな楽しくなっちゃうし、巻き込まれていっちゃうから! ずっとそのままご自分の信じた道を進んで、エネルギーをボーボー燃やしてください!

樫村  ありがとうございます!

西部  なんか元気出ましたね〜。しかも二人の熱量に同じものを感じます。美紀さん燃えてますね(笑)。続いて中澤さん、お願いします。

中澤さん(以降、中澤) 伊勢崎清明の中澤です。私は高校2年になるまでいろんなことをあきらめる性格でした。人前で話すことが苦手で、頭が回らなくなることが多くて…。でもゲストのお二人の話を聞いている中で、人をひきつける話し方だったり、表情だったり、そういうのは、自分はまだまだだなと。

今、群馬県高校生リバースメンター(※)をやっていて、知事とお話したり、いろんな人に向けて提言を出したりするのですが、そこでも周りと比べて自分は意見がしっかりしてないなと思っていました。でも、しっかりしていなくても、自分はこうしたいんだという意見を後悔ないように表現できたらいいなと今日は思えています。

※2023年度、群馬県は若者の視点を政策に活かそうと県内の高校生10人にリバースメンターを委嘱。中澤さんは選考された高校生の一人。知事に政策提言を行い、提案は事業化も検討する。リバースメンターは部下が上司の相談役となる仕組みのこと。

西部  素敵! 今の中澤さんの発言を聞いて、大人たちはもう胸熱です。ありがとうございます! 渡邉さん背中を押すコメントありますか?

渡邉  背中を押すというか、さっき何かを始めるならハイテンションの時にやれとは言っちゃったんですけど、僕がいつも思っているのは、まず小さくやってみること。これってすごくベタなんですけど、とても重要なこと。KING OF JMKは、最終的には日本武道館で大会をやる目標を掲げているのですが、第1回大会は当時アンテナショップだった銀座のぐんまちゃん家を間借りしてちっちゃくやりました。小さくやらないと最初の一歩って踏み出せない。背中押すとまではいきませんが、まずは小さく一歩を踏み出してみることでいいと思います。

中澤 ありがとうございます。

西部 高校生3人のお話に我々も元気づけられました。学生の皆さん3人とも力があるので、あきらめないで伝えたいことを伝えたり、人を巻き込むことをどんどんやっていかれるといいと思います。応援しています!

(後編に続く)

後編は群馬の魅力をひたすらポジティブに拾い上げていきます。ゲストと高校生のトークもヒートアップ!

(ライター・岩井光子)

登壇者

西部 沙緒里 株式会社ライフサカス CEO

前橋女子高、早稲田大学卒。博報堂を経て2016年創業。「働く人の健康と生きる力を応援する」をミッションに、働き盛りの人が抱える生きづらさ・働きづらさを社会全体で支える環境づくりを進める。研修・講演事業、コンサルティング・アドバイザリー事業、Webメディア・オンラインコミュニティ事業の3領域で、全国の企業・行政・学校などとさまざまな協業や伴走支援を行う。 NPO女性医療ネットワーク理事、(独)中小企業基盤整備機構・中小企業アドバイザー。2020年東京からUターンし、新たに(一社)かぞくのあしたを設立。高崎市在住。

渡邉 俊 マーケティングリサーチコンサルティングLactivator 代表/(一社)KING OF JMK 代表理事/(財)碓氷峠交流記念財団元理事

1977 年生まれ、安中市出身。大手自動車メーカーでの15 年間のマーケティングリサーチ経験をもとに2016 年独立、日本全国の活性化に飛び回る日々。

故郷・群馬の地域振興にもそのスキルを活かし、2013年から上毛かるた全国大会「KING OF JMK ~おとな達の上毛かるた日本一決定戦~」を主宰。2017 年には、県の観光応援を目的としたスマホアプリ「札ッシュ!! 上毛かるたGO!」をプロデュース。

髙橋 美紀 (一社)なでしこ未来塾理事/ヨガ講師/茨城県よろず支援拠点コーディネーター ほか

1984年生まれ、伊勢崎市出身。(一社)なでしこ未来塾理事ほか、ヨガ講師や茨城県よろず支援拠点コーディネーターなど多彩な肩書きを持つ。在学中よりメディアの仕事をはじめ、TV や舞台・映画の振り付けや出演の他、演出助手・AD などコンテンツ制作の裏と表で活動。
2012 年に拠点を都内から群馬へ移し、多世代交流の場とよそ者視点を活かしヨガ講師として活動。「おおたなでしこ未来塾」一期生として卒塾後、2016 年茨城県へ移住しながら、2020年より(一社)なでしこ未来塾に参画。太田市とを行き来する生活を送る。

木暮啓人 高崎高校2年

樫村陽斗 伊勢崎清明高校2年

中澤楓 伊勢崎清明高校2年